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オオカミさんにご用心

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オオカミさんにご用心
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リアクション

「主、日本酒をお持ちした」
 アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)は熱燗にしてきた日本酒をグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)に渡した。
「ありがとう」
「では、私は外にいますので」
「ああ」
 アウレウスは鎧が脱げないことから、外で見張りをすると申し出ていたのだ。
(お優しい主だ。労うためにわざわざこんな旅館に連れてきてくださるとは……あのお2人も幸せだな)
 そう、今回の旅行はグラキエスがゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)ベルテハイト・ブルートシュタイン(べるてはいと・ぶるーとしゅたいん)にお礼をしたくて企画したものだ。
「2人とも、熱燗だ」
 グラキエスは湯船に浸かっているベルテハイトとゴルガイスにおちょこを渡す。
「おお、きたか」
 ゴルガイスはさっそく注いでもらった分を飲みほした。
「そんなものまで用意していたのか……いただこう」
(私たちのためにこんなにも……なんて可愛いんだ!)
 ベルテハイトも嬉しそうにおちょこを受け取り、すこし口に含む。
「ほう……うまいな」
「我もそう思っていた。こんなにも温泉にぴったり合うとはな。これでつまみがあれば最高なんだが……っと、良いものがあったな」
 ゴルガイスは月に向かっておちょこを少し持ち上げた。
「そうか……月を肴にするなんて……風情が合って良いな。私も肴にするとしよう」
 ベルテハイトもそれに倣う。
 2人はおちょこの月をちょっと覗き込んでから酒を飲みほした。
「そうだ。せっかくだし背中を流そ――どうした!?」
 お酒を渡してから自分の体を洗っていたグラキエスが振り返ったとき、そこには何か異様な光景が広がっていた。
「…………忘年会の余興の練習か何かか……?」
 グラキエスが見たのはゴルガイスとベルテハイトの頭からオオカミの耳が、そしてお尻にはしっぽもついているという状況だった。
(いや、微妙にぴくぴく動いているということは……本物か!?)
 グラキエスがそう思った時だった、ゴルガイスがこちらに振り向くと戦闘態勢を取った。
「なっ……!?」
 そのまま走ると一気に距離を詰め――大きく口をあけ肩にかじりついてきた。
「くっ……!」
(もしかして、戦うことが望みか……? ならば――)
 それをなんとか左腕で受けるグラキエス。
「素晴らしいとっさの判断だ」
 ゴルガイスはにやりと笑った。
「主!? 何事か!? こ、これは一体……!」
 駆けつけたアウレウスはゴルガイスに駆け寄るが、それをグラキエスが手で制する。
(そうか……これも労いの一環なのだな)
 アウレウスはグラキエスの意図を汲み、魔鎧になりグラキエスに纏う。
 裸に銀装飾の黒いロングコートだけというのもあまり様にならないが……。
 戦闘準備が完了すると本格的に戦いを始める2人(+1人)。
 ゴルガイスは回し蹴りを入れようとするが、それをコートの端で受け流すグラキエス。
 しかし、受け流し、飛びのいた先にベルテハイトが待ち受けていた。
 背後からそっと忍び寄る。
「この渇き……癒させてもらおう。存分にな」
 ベルテハイトはグラキエスの首に牙を立て、吸血を始める。
 グラキエスの顔が青白くなってきたところで、やっとグラキエスを離してやる。
「ふぅ……」
 満足したのはゴルガイスもベルテハイトも温泉に浸かりに戻ってしまった。
 後に残ったのは貧血でぶっ倒れたグラキエスと心配するアウレウス。
 アウレウスはグラキエスにタオルを巻いてやると、部屋まで担いでいったのだった。