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【重層世界のフェアリーテイル】夕陽のコントラクター(前編)

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【重層世界のフェアリーテイル】夕陽のコントラクター(前編)

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第2章

 一方、ダウンタウン……“有情の”ジャンゴ、そのアジト。
 3人掛けソファにどっかりと座った巨体のジャンゴに向かい合ったマイト・オーバーウェルム(まいと・おーばーうぇるむ)が、大きく両手を広げた。
「ヒャッハー! 俺はイルミンスール武術部部長、愛国者だ!」
「つまり、腕には自信があるってことだな?」
 葉巻をくわえたジャンゴが問う。マイトは大きく頷いた。
「そう! そして、この地、この国、この世界のために戦いたいという気持ちはあんたと同じだ!」
 びしっ! と効果音をつけて、自分の胸を指すマイト。
「それじゃあもちろん、俺の頼みを聞いてくれるんだろうな。大会の邪魔になりそうな契約者を邪魔できないようにしてくれっていう……」
「もちろんだ。そして、その願いはすでに叶えた!」
「ほう!」
 意外な報告に、ジャンゴが膝を叩く。そして再び、マイトはびしっと自分を示す。
「俺は大会には出ない! つまり、一人契約者を排除したぞ!」
「……な、なに?」
 自信満々の言い様に、ジャンゴが呆気にとられたように聞き返す。
「契約者である俺が大会に出ないと言ってるんだ。あんたの願い通り、ひとり邪魔ものを消したわけだ。さあ、この第四世界……俺はアメリカと呼びたいが、とにかくこの世界について教えてくれ!」
 マイトが詰め寄る。と、ジャンゴのそばに控えていた東條 カガチ(とうじょう・かがち)が、ぬっとその間に割り込んだ。
「……ん、なんだ?」
「一応、今はジャンゴさんの護衛ってことで雇われてる。あまり、彼に近づかないでくれ」
 カガチが低い声で告げる。
「何言ってんだ。約束を守った俺はもうミスタ・ジャンゴの仲間。当然の権利として話を聞かせてもらうだけだ」
「念のために言っておくと、ジャンゴさんはあまり、おまえのことを信用してないみたいだ」
 そばに控えている東條 葵(とうじょう・あおい)が、口元に笑みを浮かべたまま、マイトに告げる。
「願い通り、大会に出る契約者を減らしたのに? この土地のアウトローは、自分の交わした約束も守れない、チ・ン・ピ・ラなのか?」
「俺は食材とアンデッド以外は斬らない主義なんだ」
 カガチの動作は、いつでも刀を抜くことができることを雄弁に示している。さすがのマイトも、自分から刀が届く距離に踏み込むつもりにはなれない。
「お前さんが約束を守ったっていうなら、俺様からもひとつ答えてやるよ」
 葉巻を口から離し、もうもうと煙を吐きながら、ジャンゴは告げる。
「ここはアメリカでも、お前さんの故郷でもねえ。俺様の荒野だ」
 じ、っとマイトの視線がジャンゴのそれと交錯する。そして、小さく首を振った後、きびすを返した。


「いろいろなやつが居るもんだ」
 マイトが去ってから、ジャンゴが小さく呟いた。
「あんたたちの流儀が、通じる相手ばかりでもないってことさ」
「お前さんは、無法者って雰囲気じゃあねえように見えるがな」
 傍らに立ったままのカガチに、ジャンゴは葉巻を勧める。カガチは手振りでそれを断ってから、刀を示した。
「確かに俺は侍だ。侍ってのは、面子や誇りにこだわるもんでね、あんたがサンダラーとやらに面目を潰されて、その借りを返したいってことは分かる」
「やっぱり、いろいろなやつがいるもんだ」
 明らかに文化がまるで違うカガチに告げられて、面白そうにジャンゴは笑う。
「あら。それってけっこう、素敵じゃない?」
 話を聞いていた雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)が進み出て、カガチが止める間もなく、ジャンゴにしなだれ掛かる。見たところ、武器を抜く気配はない。
「やっぱり、誰かに邪魔されずに、サンダラーに復讐したいって思ってるの?」
 ちらちらと腿を覗かせるリナリエッタに、ジャンゴの表情がいくらか緩む。
「そいつは途中だぜ。いいか、俺様たちは無法者だ。保安官じゃあるまいし、サンダラーに賞金をかけて誰かに倒させたって、他のやつらが俺様を怖がると思うか?」
「では、サンダラーを倒すことで他の無法者に威勢を示したいというわけだね」
「ビビらせるわけだ」
 葵とカガチが、共にジャンゴに向けて頷いた。
「ふうん……なるほど、ねぇ。私、ワイルドな男の人って、好きよ」
 笑みを浮かべるリナリエッタ。その背後で、ベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)が一礼する。
「質問をしても?」
「何だ?」
 リナリエッタにしなだれ掛かられて機嫌をよくしたらしいジャンゴに、ベファーナは礼を言ってから、聞く。
「考えたのだけど、なぜ市長が大会を取り仕切るようになったのかな? それに、願いを叶えるという約束をしていたにしろ、サンダラーが参加者を皆殺しにすることを看過するなんて、やり過ぎじゃあ?」
 問いを聞いて、ジャンゴはあからさまに不快げな表情を見せた。
「市長の野郎は、無法者やガンマンが嫌いなんだよ。改革だとかなんとかほざきやがって、荒野から銃を一掃しようとしてやがる……大会だって、撃ち合いは自分の目の届くところでやれってわけだ」
「それじゃあ、サンダラーがガンマンを殺すのは、市長にとっては都合がいいと?」
「やつの腹づもりなんか知ったことか。けど、どうせまたサンダラーが優勝すると思ってやがるだろうな」
「それじゃあ、あなたの面目を潰してるのは、サンダラーだけじゃなくて市長もそうってことね?」
 リナリエッタが確かめるように聞く。
「そうさ。今度の大会では、一片に両方の鼻を明かしてやるんだ」
「それって、成功したらとても素敵だわ。私、血の臭いがする男が好きなのよ」