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リアクション
7
魔法協会が契約者に協力を仰いだと知った闇黒饗団もまた、彼らに連絡を取った。
蛇の道はへびという。大抵は契約者の方から酒場や路地裏でそれらしい者に声をかけ、それを知った饗団員が近づくというやり方だった。
高月 玄秀(たかつき・げんしゅう)も同様だ。彼と二人のパートナー、ティアン・メイ(てぃあん・めい)と式神 広目天王(しきがみ・こうもくてんおう)は、饗団が街中に持つアジトへと連れてこられた。
「――ネイラさんはいないのですか」
「ネイラはイブリス様の通訳をせねばならんのでな」
常にイブリスの傍にいなければならず、そのイブリスのいる本拠地へどこの馬の骨とも知れぬ契約者を連れて行くわけにもいかない。またイブリスは忙しいので、契約者との交渉は他の幹部に任されていた。
玄秀はネイラに会って色々話を聞いてみたかった。饗団の成り立ちや、彼自身のこと――だが、会えぬ以上は仕方がない。今は仕事をこなして、次に繋げるだけだ。
幹部の命令もあって、玄秀は陽動作戦の中核を担うことになった。協会本部そのものへの攻撃である。
本部の前は、広場のようになっている。多く土地を取っていることから、街にとって特別な場所であることが分かる。
今、玄秀たちの前には本部の建物と、ゴーレムがあった。
「これはなかなかですね……」
玄秀は呟いた。
レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)とミア・マハ(みあ・まは)は、人数の少なさをゴーレムで補った。
「ならば」
玄秀が中指と人差し指を上げた。――たちまち、周囲が霧に覆われる。しかし、
「おかしい……濃すぎる」
玄秀は高濃度の【アシッドミスト】を展開したが、それにしても濃すぎる。自分たちの視界まで、覆われるはずはない。どうやらレキたちも、同じことを考えたらしい。
刹那、玄秀たちへ向けて雷が落ちた。一発、二発、三発と続けざまに攻撃される。
それを【歴戦の防衛術】や【ファランクス】でどうにか凌ぎ、最後の一発がなぜか上空へ放たれた後、玄秀は印を結び始めた。
一方のレキとミアは、高濃度の【アシッドミスト】で服がじりじりと焼けていた。
「しまった……!」
レキとミアは、魔法を防御する術を持たなかった。とりわけミアは、「離偉漸屠」を装備していたため、防御力が著しく下がっており、皮膚までも火傷したように赤くなっていた。
しかもどうやら敵は、この霧にしびれ粉を混ぜているらしい。【命のうねり】でのダメージ回復も追いつかない。
となれば、短期決選しかない。二人は【サンダーブラスト】と【天のいかづち】で、気配を感じるやとにかく攻撃をした。レキの【アシッドミスト】は濃度が低いが、代わりに水分が多く、ダメージが増えるはずだ。
二人の力も尽きる頃、霧が晴れ始めた。そして自分たちの上空に、九曜の魔法光陣を認めた。
「いかん……!」
ミアは言うことを聞かない体を無理矢理動かし、「栄光の杖」を振るった。
「堕ちよ!」
「我が主に手は触れさせぬぞ!」
玄秀の前に広目天王が飛び出し、【奈落の鉄鎖】をまともに受ける。広目天王は、地面に叩きつけられ、そのまま意識を失った。
「九曜召雷陣!!」
上空の陣から、円形に雷が落とされる。
「わあ!!」
衝撃が全身を貫く。レキの口から叫び声が吐き出された。
「レキ!!」
手を伸ばしたミアにも雷が落ち、二人は気を失った。
ゴーレムは動かない。
ティアンは呆然とそれを見ていた。
「こんなの……良くないよ……」
「何がだ?」
「だって……」
「待て待て待てー!!」
入り口から飛び出してきたのは、森崎 駿真(もりさき・しゅんま)とキィル・ヴォルテール(きぃる・う゛ぉるてーる)だ。
駿真は、気絶したレキとミアに駆け寄った。
彼らは入り口に【禁猟区】を仕掛けて、本部を見回っていた。ちょうど裏口に着く直前に反応がありすっ飛んできたのだが、
「くそ! 間に合わなかったか!!」
「オレに任せろ!」
キィルが三人を庇うよう前へ出た。その構えを見て、玄秀は微笑を浮かべた。
「グラップラーですか。この世界で物理攻撃はほとんど意味がないと知っていて、敢えて戦いを挑むんですね」
「おうよ!」
キィルが地面を蹴る。突き出される拳を、ティアンがバックラーで捌いていく。逆の手に握られた「白の剣」は、強く掴まれたままだ。
レキとミアの体を塀際まで移動させた駿真は、すぐさま参戦した。
「食らえ!」
【光術】を玄秀に向けて放つ。が、それに気づいたティアンが、【ファランクス】で自身ごと防御する。
「何でだ!」
駿真が怒鳴った。びくり、とティアンは彼を見つめた。
「おい、駿真……」
キィルがきょとんとする。
「あんた、何でこんなことしてる!? したくないことを、何で我慢しているんだ!?」
「わ、私は……我慢なんて……」
「だったら、さっきから何で剣を使わない!?」
ティアンはハッとした。強く握り締めたため、指は血が止まるほどに白くなっている。
「それにそんな辛そうな顔をして……」
「辛くなんて……」
――辛かった。
駿真の言うとおりだ。やりたくてやっているわけではない。だがそれ以上に、ティアンは玄秀を守りたかった。もし玄秀に捨てられたら……そこから先は考えられない。考えたくもない。
役に立ちさえすれば、玄秀の言うとおりに動いてさえいれば、傍にいられる。それだけが事実だ。
そう――それだけだ。
「それしかないんだもの!」
【ライトブリンガー】が発動し、近くにいた駿真が吹っ飛ぶ。
「駿真!!」
「大丈夫だ!」
光属性があるとはいえ、【ライトブリンガー】は物理攻撃だ。攻撃力自体は、左程大きくない上、今のティアンには迷いがある。
だがキィルは、納得いかない。
「こッの!!」
タトゥーの入った腕に、全く同じ模様の炎が纏わりつく。
「……頃合いか」
玄秀が呟く。
「え?」
「広目天を拾っていけよ」
キィルの炎が玄秀たちを襲う直前、煙幕ファンデーションが撒かれた。キィルの動きが一瞬遅れ、【火術】が発動した。
「くそ! 外したか!?」
煙幕のせいで、狙いをよくつけられなかった。辺りが晴れた時、そこに玄秀とティアン、倒れていた広目天王の姿はなかった。
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