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君と僕らの野菜戦争

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君と僕らの野菜戦争
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第一章:野菜狩り御一行様



「くくく……。吾輩は、野菜四天王の一人にしてジョージ農園の年長者、ジャック・豆野木である。ここから先は通さんぞ、人間ども」
 巨大なツタを生やした大豆の親玉は、噂を聞きつけてやってきていた救援部隊を前に立ちはだかっていました。
 もちろん、救援部隊と言っても野菜戦争の援軍ではありません。
 事件を根底から解決しようと力を貸してくれる、主に人間たちの協力者たちです。
 彼らを通してなるものかと、ジャックは部下である枝豆モンスターを大量に引き連れて農園への道を塞いでいたのでありました。
 確かに、現在農園を支配する野菜モンスターのボスはトマトのナポリオンとナスのウェリントンです。しかし、ジャックは彼らが農園に来るもっと前からこの地に根を張り、転生に転生を重ね何年にも渡っておいしい豆を実らせてきたのです。
 ボスの二人に権勢では劣りますが、農園の収入を支えてきた誇りがあります。よそ者をおいそれと農園に入れるわけには行きません。
「残念だが、お主らにはこの土地の肥やしになってもらおう」
 ジョージはそう言いながら、枝を鞭のようにしならせます。
「……」
 まず真っ先に無言でジャックに斬りかかったのは、フェイタルリーパーのアルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)です。
 彼女は、手当たりしだいに野菜を切り刻んでいこうと最初から決めていたのです。
 襲いかかって来るツタをかいくぐりあっさりと間合いをつめたアルトリアは、ソニックブレードでジャックを真っ二つに斬り割きます。
「ギャアアアス!」
 断末魔の悲鳴を上げて、ジャックは動かなくなりました。もう死んでしまったのでしょうか。
 口の割りにはあっけないものです。
 と……。
「気を付けてください。枝豆が……!」
 不意に、アルトリアに声がかかりました。
 殺気感知で危険を悟ったルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)はアリストアの間に割って入って、ファランクスとフォーティテュードを即座に展開します。
 次の瞬間、背後で、パンパンパンッ! と激しい音がしました。
 枝豆の群れが破裂し無数の固い豆が勢いよく撒き散らされ凄い勢いで襲い掛かって来ます。
 まるでショットガンのような攻撃ですが、ルーシェリアの防御で皆事なきを得ます。
 さらにもう一発、二発、鉄砲の弾を撃つかのごとく大豆は中身の豆を弾き飛ばしてきます。
 しかも、どういうわけか豆は鉛色に輝きカッチカチです。完全に兵器と化しています。
 当たったらかなり痛そうです。外れた豆がどれだけ地面にめり込んでいるかを見れば、その威力はわかろうというものです。
「枝豆は嫌いじゃないですよ。茹でてもおいしいですけど、焼いてみてはどうでしょうか」
 アリストアは怯んだ様子もなく、ザクザクと枝豆モンスターを斬り刻んでいきます。
 煉獄斬で剣が炎をまとっているため、斬るたびに豆がこんがりと焼けおいしそうな匂いが漂ってきます。
 そういえば、少々お腹が減ってきたような気もしますが、食事の時間にはまだ早いでしょうか? ふとそんなことを考えていると。
「くくく……」
 どこからともなく不気味な笑い声が聞こえてきます。
「……下!?」
 ルーシェリアはもう一度殺気を感知して叫びます。
 が、今度は間に合いませんでした。
 地面から生えてきたツルが、二人の足を取り巻きつきます。
「こざかしいですわ」
 アリストアは、足元から伸びてきたツルを切り捨てようとして……。
「……!」
 腕までツルにとられてしまいました。
 ルーシェリアも、則天去私を放つより先に枝に邪魔されてしまいます。
 不覚とはいえ不覚ですが、ツルの動きは凄い早さです。しかも頑丈で力も強いので簡単に引き千切れそうもありません。
「う……、私としたことが……」
「吾輩は滅びぬ。この地に根を張っている以上、どこからでも生えてこようぞ」
 なんとジャックです。まだ滅びてはいなかったのです。
 その言葉通り別の地面から生えてきて、あっという間に再び同じ姿にまで成長し襲いかかってきました。
 ツタをしならせ、硬い豆を鉄砲のように放出する弾丸攻撃は結構効きます。が。
「そうは好きにさせるか!」
 ジャックの攻撃から二人をかばうように間に入ったのは、葦原明倫館の長原 淳二(ながはら・じゅんじ)です。
 彼は野菜戦争に巻き込まれ、少し離れたところで戦っていたのですが、隙を見てこちらにやってきたのでした。
 ルーシェリアとアリストアを戒めている太いツタを切った彼は、枝豆モンスターに向けて続けざまにファイアストームを発動させザコを一掃しにかかります。
「オボボボボボ……!」
 枝豆モンスターは次々と燃え始めました。豆を炒めた香ばしい匂いが漂ってきます。
 やはり、お腹がすいてきました。いやそんなことより。
「助かりました。お礼を言っておきます」
 ツルから逃れニッコリと微笑むルーシェリアに、淳二も笑顔で返して。
「別口がやってきましたから、俺はそちらのほうに行かせてもらいます。ジャックはそちらにお願いしましょう」
「もちろんですよ、あなたたちも気をつけて」
「ああ、ありがとう。せいぜい回りに被害を出さないようにしますよ」
 そういう淳二の視線の先には、もこもこした緑の物体が地を埋め尽くすようにこちらに迫ってくるではありませんか。
 野菜モンスターの援軍のようです。しかもなんだか、殺意をみなぎらせています。
「ぶっ殺り! ぶっ殺り! ぶっ殺り……!」
「ぶっころり? が来ましたけど。どうしますか?」
 淳二の傍に寄り添うようにいた、剣の花嫁のミーナ・ナナティア(みーな・ななてぃあ)は目を丸くします。
「焼くと味が落ちるので、生のまま収穫するのがいいと思いますけど」
「ぶっころり、じゃなくてブロッコリーでしょう、あれは」
「わ、わかってますってば。ちょっと相手に合わせて言ってみただけです」
「その後ろからやってくるスレた奴らはレタスなのでしょうか?」
 淳二は真顔でボケ返して、顔を見合わせてクスリと笑う。
「まあ、気楽にいきましょう。出来れば、両方とも生で捕獲ですね」
「今日のお昼はサラダセットですか」
 淳二とミーナはブロッコリーモンスターとレタスモンスターを迎え撃ちます。
 むくむくと押しつぶし攻撃に出てくるブロッコリー。それを淳二はザクザクと刈っていきます。
 炎も味を落としますが、冷凍もよくありません。ミーナは魔法でブロッコリーを攻撃しないほうがいいでしょう。
 従いまして、淳二が光条兵器で根元から切り取って行く作業になりますが、これがなかなか大変です。
 ブロッコリーモンスターの攻撃自体は単調で、さほど恐ろしくないのですが、他の皆さんもサラダセットを楽しみに待っています。
 商品として出荷できるレベルで退治しないといけないので気を使います。
 お百姓さんの苦労がわかるってものです。
 一方、淳二の背を守る魔鎧の南 白那(みなみ・はくな)は、“白い奴ら”が紛れ込み音もなく近づいてくるのを見つけます。
「ぶっ殺り!」
「キミたち白いじゃない。ブロッコリーじゃなくてカリフラワーでしょ」
「ぶっ殺り(しょぼーん)!」
 あっさりと論破(?)され、ややキレ気味に突撃してくるカリフラワーの大群を、白那はツインブレードでテンポよく切り取ります。
 おいしそうな新鮮野菜が瞬く間に収穫されていきます。
 そうこうしているうちに。
「シャアアアッッ!」
 レタスも葉をカッターのように鋭利にさせて切りかかってきました。荒っぽい奴らで怒っています。
 それを切り返しておいて、淳二は問いかけました。
「ボスはどいつですか? お前らを率いる野菜四天王みたいなのがいるんでしょう? 出てこいよ」
「ふふふ……。ぽくをお呼びかい?」
 なんと上空から返答がきました。
 視線を上げると、キャベツの化け物が空に浮きながら、偵察しているではありませんか。
 真っ赤な目はつぶらでとてもプリティです。飼いたくはなりませんけどね。
 とびっきり大きいキャベツモンスターは誇らしげに言います。
「知ってたかい? ブロッコリーもカリフラワーもキャベツの変種なんだよ。だから、キャベツのぽくが彼らを率いてるんだよ」
「わざわざ薀蓄をどうもありがとう。つまり、お前がこいつらのボスってわけですか」
「そのとおり。ぽくは野菜四天王のキャーベェ。ぽくと契約して野菜少女になってよ」
「わけわからん上に、俺は少女じゃねぇ!」
 ブチリと何かが切れる音がしました。あまりのウザさに、淳二は問答無用でキャーベェを焼きつくします。もう全力です。跡形も残すつもりはありません。
 もちろん、ミーナと白那も同時攻撃です。
「キャーーーーーーーーーー!」
 キャーベェは耳障りな断末魔をあげて、程なく滅びました。
 そもそも、全力を出した人間に野菜ごときが勝てるはずがありません。
 ぶっころりたちは散り散りに逃げていきます。
「さて、これでこの辺にはしばらく何も寄ってこないだろう」
 ほっと一息ついて淳二はニッコリと微笑みました。
 一方。
「くくく……。よくぞ吾輩を倒した。だが、第二第三の豆の木が」
「わかりましたから、そろそろ消えましょうね」
 ルーシェリアもジャックにとどめをさすところでした。
 なに、簡単なことです。何度でも生えてくるなら、根っこを消滅させればいいだけのことです。
「お゛も゛も゛も゛も゛も゛も゛…………!」
 ジャックは痛恨の叫び声を残して消え去りました。
 アルトリアと共に足元の地面ごと豆の根を焼き尽くし、豆を全滅させます。
 死屍累々の現状を見渡して、アルトリアは言います。
「さて、次の野菜いってみましょうか」