校長室
取り憑かれしモノを救え―調査の章―
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●取り憑かれたミルファ7 結界の中に入ったときから相田なぶら(あいだ・なぶら)には、よく分からない重苦しさがあった。 動きが制限されているような、単純に手足に鉛を付けられているような、そんな重苦しさだった。 「いた!」 なぶらはミルファを見つけた。 戦場跡のような場所で一人佇む姿があった。 周りには焼け焦げた生物だったものや、ただ気を失っている自分達を同じように、ミルファの足止めをしに来た人達がいた。 そして、なぶらの声にミルファはぐるりと体ごと振り返った。 「君は壊しても、殺してもいい人?」 ミルファは問う。口の端をゆがめて笑うミルファの姿は、戦いの連続で興奮しているようにも取れた。 「そういうのは嫌だなぁ」 なぶらは苦笑して、[七星宝剣]守護宝剣スターライトブリンガーを構えた。 「これ以上は……進ませない」 目的は分からないけれど、何かが起こるそれだけは確かだと思うから。それに、いろんな人が傷ついているのは確実に彼女が敵であることだから。 「ふふ、いいね」 なぶらの型を真似するように、ミルファも剣を持ち直す。 ミルファの膝が沈んだと思った、次の瞬間、間合いは完全に詰められていた。 「くっ……!」 ガキンと鉄のぶつかる音が響く。わざと剣を狙ったようにも思えるその一撃を、なぶらは鍔迫り合いの要領で押し返す。 押し返しざま、滑るようなミルファの剣閃がなぶらの腕を浅く裂いた。 「いっつ……」 焼けるような痛みに、咄嗟に【ヒール】を唱えるが、術式は発動したのに癒しの力は発動しなかった。 (これが……結界の影響……か?) 内心の驚きを顔に出さないよう努めて、なぶらは戦術を考え直す。 ヒールが使えなければ、被弾をしないように回避を優先に。そして、【バニッシュ】と【ライトブリンガー】をメインに……。 そこまで考えて、目の前に雷が落ちる。 「戦いの最中に考え事は関心しないね」 明らかに手加減された【天のいかずち】を目の前に、なぶらは認識を改めた。 (剣の腕も魔法の腕も相当だ……) それでいてもミルファの一挙手一投足全てにいたるまでに隙だらけだった。 誘っているとしか思えない、がら空きの急所。 そんななぶらの横を風が疾った。 身を低くして駆け抜ける、樹月刀真(きづき・とうま)だった。 その刀真の動きをサポートするように、漆髪月夜(うるしがみ・つくよ)が[ラスターハンドガン]の銃撃を持ってミルファを威嚇していた。 「悪いが、今のアンタをそのままと言う訳にはいかないんだ……樹月刀真、参る――」 肉薄し、ミルファに向けてそう言った。 刀真の左手に握られている[黒曜石の覇剣]がミルファの脇腹を切り裂く。 しかし、噴出する鮮血は一瞬でミルファが手で傷口を撫でた後には血の跡すら残っていない。 「……傷が治るとは言え、早すぎるでしょ」 その様子を見ていたなぶらは素直な感想を漏らした。 しかし、頭を振って自分に喝を入れ直した。 阿呆らしい再生能力に、刀真は辟易した。 確実に殺すことのできた致命傷だと思った。が、斬られたミルファは刀真を振り返って嗤っていた。 「なんなんだ、こいつは……」 「楽しめそうな人がまた一人増えた、ねぇ?」 語尾にハートマークでもついているのではないかと疑ってしまうくらいに、ミルファは嬉しそうに刀真を見ている。 そして、行動に移った。 片手で軽々と扱う、白銀の剣に紫電が宿り体全体を使った【轟雷閃】。それを刀真は真っ向から受け止める。 重い一撃だった。 「くっ……」 歯を食いしばり、剣で受け流す。ジジジと火花が散る。鉄同士のぶつかる嫌な音を聞きながら、ミルファの剣は徐々に地面へと向かった。 ミルファの剣は地面に突き刺さる。その隙を逃さずミルファの頭を蹴り付けた。 そのまま返す刀の要領でうなじに踵落としを見舞う。ゴキリと首の骨が折れる音が伝わった。 「殺った――」 頚椎を折れば、確実に殺した。と、刀真は勘違いした。 「刀真!」 後ろから見ていた、月夜が声を荒げる。危険を促すように、ミルファの体に[ラスターハンドガン]から生成される銃弾を遠慮なく打ち込む。 そのたびに、びくびくとミルファの体が痙攣をするが、爛々と狂気に輝く瞳が月夜を見ていた。 今にも月夜に向かって動き出そうとするミルファを抑えるのは、なぶらが放った【バニッシュ】の圧倒的な光だった。 月夜とミルファの丁度中間あたりで炸裂した光に、お互い目を閉じるが、意図を察知した刀真がすぐさま動く。 [ワイヤークロー]のワイヤーをミルファの腕に巻きつけ、鉤爪部分を木々に巻きつけようとする。 だが、ブツンという音と共に、ワイヤー自体を断ち切られてしまった。 「あはは、楽しいなあ……」 嗤いながら、ミルファは辺り一体を無差別に攻撃するかのように【サンダーブラスト】を放った。 雷は木々を焼きはじめ、ミルファ自身をも焦がす。 狙いを定めていない全体攻撃を避けるのは容易かったが、3人の胸中に浮かぶのは唯一つ、こいつは一体何なんだ。という思いだけだった。 燃え始める森林と、焦げ付いた皮膚すらも簡単に再生するミルファに、刀真は一度距離を取った。 「月夜」 静かに刀真はパートナーの名前を呼ぶ。 もう全力を持って戦うしかないと踏んだ。 「分かってる」 近づく月夜の胸の辺りに手をかざし、静かに言い放った。 「顕現せよ――黒の剣!」 宵闇より黒き刀身を持つ片刃の剣が現れる。刀真の振るう【光条兵器】だ。 そうして、もう一度刀真たちはミルファと相対するのだった。