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第二章 「決戦の舞台に向けて」

「多勢に無勢か……」
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)を取り囲むように≪猿魔エシュ≫達が迫ってくる。
 ≪猿魔エシュ≫達は涎を垂れ流しながら焦点の合わない目をエヴァルトに向けている。威嚇するような声は、言葉にならず笑い声にさえ聞こえた。
「理性が失われているようだが……それでも武器を持っているだけで有利だと勘違いしてはいるまいな?」
 一体の≪猿魔エシュ≫がエヴァルトに迫ってくる。
 相手が棍棒を振り上げた瞬間。エヴァルトはすり足で一気に懐に潜り込むと、そのまま肘で相手の胸を吹き飛ばす。
 肺をやられてよろめく≪猿魔エシュ≫の顔面に、エヴァルトの拳が叩き込まれた。
 その一撃を堺に次々と襲いかかる≪猿魔エシュ≫達。
 エヴァルトは攻撃を避け、吹き飛ばし。棍棒を掻い潜って腕をへし折った。
 動きを最小限に抑えつつ、エヴァルトは決して囲まれぬように細心の注意を払った。
 そして確実に相手の体力を削りながら、隙を逃さず一体ずつ確実に仕留めていく。
 周囲の敵を一掃した時には、深呼吸をして息を整えている傷一つ負っていないエヴァルトの姿があった。
 そこへアルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)が≪猿魔エシュ≫を蹴散らしながらやってくる。
「エヴァルト殿、素手でよくあれだけの数を相手にする気になりますね」
「何、ちょっとした腕試しさ」
「なるほど。自分も負けていられませんね」
 エヴァルトとアルトリアは笑みを浮かべて≪猿魔エシュ≫を倒しにかかる。
 ≪猿魔エシュ≫を薙ぎ払うアルトリア。その脇を≪機晶ドール≫が駆け抜けようとするが、アルトリアは気にせず≪猿魔エシュ≫だけを狙いに行く。
「おい、無視していいのか?」
「大丈夫です。後ろには信頼できる方がいらっしゃいますから」
 エヴァルトの言葉にアルトリアは振り返りもせずに自信満々に答えた。
 アルトリアの脇を抜けて行った≪機晶ドール≫は会場を目指す。
 すると、≪機晶ドール≫の背後から大きな馬の影が迫る。
 雪が積もり始めた芝生を駆け抜けていた馬のひづめが、≪機晶ドール≫の背にのりかかり動きを止めさせた。
「アルトリアちゃんにそんなことを言われたら頑張るしかないじゃないですか!」
 ルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)が聖騎士の駿馬の手綱を握りしめる。
「期待には応えて見せますよ!」
 片手に槍を握るルーシェリアが手綱を引くと、馬は鼻を鳴らして走ってくる≪機晶ドール≫に向かっていった。

 ルーシェリアが翠門 静玖(みかな・しずひさ)の脇をすり抜けていく。
「後ろで仲間が控えているとはいえ、俺達もできるだけ数を減らしてやらないとな。……おっさん援護する!」
「頼む!」
 静玖は【パイロキネシス】で≪猿魔エシュ≫を牽制しながら、風羽 斐(かざはね・あやる)が【歴戦の魔術】を打ち込む隙をつくる。
 ≪機晶ドール≫から【カタクリズム】でナイフを奪いとる、静玖。
 朱桜 雨泉(すおう・めい)が無防備になった≪機晶ドール≫に、死角から攻撃をかけて行動不能にした。
「結構数がいますわね」
 雨泉が額にできた汗を拭き取るながら呟いた。
「そうだな。メイ、ここは協力して乗り切るぞ」
「チームワークですね。わかりました。支援をお願いいたします」
 斐、静玖、雨泉の三人は絶妙なチームワークで向かってくる敵を行動不能にしていく。
 その様子を別荘の正面玄関で見ていた謎の魔法少女ろざりぃぬ(九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず))は、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)に協力を要請する。
「私は敵に魔法を決めにいきます。援護をお願いします」
「いいよ。ボク達に任せてよ」
 レキはろざりぃぬの後ろについて銃を構えた。
 ≪機晶ドール≫がろざりぃぬの元へと向かってくる。
「……来ましたね。私は魔法少女ろざりぃぬ! 悪を浄化し皆に日常を守る存在! よって心無き戦士に、このろざりぃぬは負けません! 今、あなたの凍てついた心を溶かしてみせる! さぁ、私の魔法であなたを――のわっ!?」
 ノリノリで名乗りを上げていたろざりぃぬに≪機晶ドール≫のナイフが迫り、どうにか慌てて身体を逸らして避けた。
 邪魔されたことでイラッと来たろざりぃぬが舌打ちをする。
「人がバッチリ決めてたのに! 人の話は最後まで聞きなさぁぁぁぁい!!」
 ろざりぃぬは≪機晶ドール≫の手を叩いてナイフを吹き飛ばすと、間接技を決め始めた。
「どうですか、私の魔法は!!」
「それって本当に魔法かな?」 
 レキがろざりぃぬの魔法(?)に首を傾げていると、仲間の防衛を抜けてきた敵が走ってくる。
「おっと、ここから先には行かせないよ! 援護をお願い!」
「任せてください! 絶対この場を死守してみせます!」
 レキの射撃を援護する形でカムイ・マギ(かむい・まぎ)が攻撃を仕掛ける。
「そういや≪機晶ドール≫は戦うことしか考えないはずなのに、なんでボク達を無視して会場に向かおうとするんだろう? ……もしかして誰か操っている人がいるのかな」
 レキは周囲を警戒しながら向かってくる敵を蹴散らした。


 ――戦闘が始まって随分経った。
 
 生徒達の努力の甲斐もあって≪猿魔エシュ≫と≪機晶ドール≫の軍勢がまばらになってきた。
 しかし、それは同時に生徒達の体力の消耗を意味していた。
 一定の間隔で攻撃をしかけてくる敵。間違いなく敵は消耗戦を挑んできている。
 そのことを早々に理解した生徒達は一発逆転を狙っていた。 
「……ルーシェリア殿、そろそろ例の作戦を行きます」
「うん、いつでもいいですよぉ」
 ルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)の許可をもらったアルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)は、大量の≪猿魔エシュ≫を倒してきた剣を天に向かってかざした。
 すると別荘の屋根の上で待機していた緋柱 透乃(ひばしら・とうの)が嬉しそうに声を上げる。
「やっと出番みたいだねっ♪」
 頭の上に雪を乗せた透乃は、横に置かれていた巨大な雪の塊を両手を大きく広げて持ち上げる。
「じゃあ、いっくよぉぉぉ――!!」
 透乃が身体ごと使って雪の塊を前線のアルトリアに向けて投げつける。
 豪速球で向かって飛んでくる雪の塊。
 アルトリアはそれに向かって炎を帯びた剣を構え――

「行きます!――煉・獄・ザァァァン!!」

 ――雪の塊に向かって振り下ろした。
 雪と炎がぶつかり、周囲を白い蒸気が支配する。
 視界が遮られた敵の足が止まる。
「陽子ちゃん、一気にラスボスを潰しにいくよ!」
「はい!」
 透乃が屋根から飛び降り、緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が後を追いかける。
「私達も行きますよ!」
「派手に暴れさせてもらう!!」
 さらにフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)達とグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)達も後を追う。
 彼らは足の止まった雑兵の間を抜けて、一気に≪灼熱の猿王――タル≫と≪雷鳴の魔人使い――アンダ≫とを狙って駆け出した。

 一発逆転の一手。それはボスを倒すことである。