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再建、デスティニーランド!

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再建、デスティニーランド!

リアクション

「みんなーこんにちはー」
「こんにちはー」
 司会の霧島 春美(きりしま・はるみ)がミニスカートでマイクを持ってステージに元気に登場すると、客席の子供たちから声が上がった。
「声がちいさいよー。もう一回!」
「こんにちはー!」
 さらに大きな声が客席から返ってくる。春美は笑顔で頷くと続けた。
「デスティニーランド名物のヒーローショーへようこそ! 今日はヒーローがみんなに会いに来てくれるよ」
 そこまで言ったところで、突然ステージ上にドクター・ハデス(どくたー・はです)が現れた。
「フハハハ! 我こそは悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、ドクター・ハデス! ヒーローたちよ、この遊園地は我ら秘密結社オリュンポスがいただく!  出でよ、我が秘密結社の戦闘員および天才科学者であるこの俺が作り出した怪人たちよ!」
 その声を合図に、全身黒タイツを身にまとったアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)とキノコマンによる従者たちが現れる。
 ロアが特殊な照明の反射と音響演出を駆使し、客席からはさらに多くの怪人が現れたように見える。
「あなたたちは誰? ハデス? って、え、あなたたち悪者なの?」
「さよう。我らこそ悪者、悪の秘密結社オリュンポス一味だ!」
 そう言うと、一味は奇妙な笑い声や雄たけびを上げながらステージ上を我が物顔で動き回り、装飾品などを壊して回る。
「いやーん、どうしたらいいのかしら?  そうだ、みんな大きな声でヒーローを呼ぼう!」
 春美の言葉に客席の子供たちから同意の声が飛んでくる。
「せーの! 助けてヒーロー!!」
 春美と子供たちの声が重なる。
 と、ステージの奥から風森 巽(かぜもり・たつみ)結城 奈津(ゆうき・なつ)が颯爽と現れる。
「あ、あれは仮面ツァンダーと正義のレスラーよ!」
「蒼い空からやってきて、皆の休日を護る者! 仮面ツァンダーソークー!」
「デスティニーランドは良い子の皆の夢の詰まった国だぜ?  お前ら悪党達の好き勝手にはさせねぇ!」
「我らが居る限り、お前達の悪事もここまでだ!」
「ほら応援しよ、みんなの声がヒーローのパワーになるのよ」
 客席から二人のヒーローを応援する声が上がる。
「フハハハ、二人ごときで何ができる!」
「な、なんだこれは!!」
 ハデスがメンタルアサルトを発動し、二人の隙を作る。
「オリュンポスの騎士……じゃないんでした。秘密結社の戦闘員アルテミス、行きます!」
 そこに、剣を抜いたアルテミスがグレイシャルハザードを使用し攻撃に出た。
 仮面ツァンダーと正義のレスラーは応戦しようとするも、冷気とメンタルアサルトの影響で思うように動けない。
「戦闘員役とはいえ、剣を抜く以上、本気で行かせていただきます!」
 そう呟くと、アルテミスはキノコマンとともに攻撃に出る。
 アルテミスの圧倒的な優勢が続いた。
 ヒーローふたりはまずは大幹部であるハデスを封じようとするが、ミラージュや実践的錯覚を駆使され思うように攻撃ができなかった。
「みんな! みんなの力をヒーローたちに貸して!!」
 春美の声に、客席の子供たちから次々にヒーローを応援する声が上がる。
「ハッ、その程度の攻撃じゃプロレスラーの覚悟を打ち破ることはできないぜ!」
「いくぞ、正義のレスラー!」
「おう!」
 奈津は、アルテミスに向かって突撃する巽を援護するべく、魔鎧であるミスター バロン(みすたー・ばろん)の力を借りながら、周辺の雑魚を一斉になぎ払ってゆく。
「いいか、奈津。客席からの視点を意識するのだ。この角度からならば、左足のほうが映える」
 プロとして「魅せる」ことを意識したバロンのアドバイスをひとつひとつ頭に刻みながら、バトルを展開する。
「奈津、貴様はデビュー前のヒヨッ子だ。そのヒヨッ子がヒーローショーとは言えこんな立派な場で、観客の目に触れる。その重みを知れ。そしてレスラーとして観客の歓声を浴びる喜びを覚えろ。貴様は今日、『プロ』レスラーとしてステージに立つのだ!」
 本番前にバロンに言われた言葉を、実践を持って刻み込んでいく。
 攻撃を受けそうになると、バロンがディフェンスシフトやエンデュアでフォローしてくれた。
「チェンジ! 轟雷ハンド! 青心蒼空拳! 青天霹靂掌!」
 巽は歴戦の立ち回りや軽身功、特技の<武術>で、スピードを生かしたカンフーアクション的な格闘戦を展開しながら、轟雷閃を使用した必殺技を放つ。
 臨機応変にロアが音響や証明で演出を補助するため、実際以上に動きのあるステージが展開されていた。
 その派手な演出に、客席の子供たちからは歓声が上がった。
 奈津とアルテミスのアクションで割れた照明の破片が客席に飛んでいったが、最前列で待機している健勇がこっそりと遠当てで打ち落とした。
 奈津とアルテミスは一瞬だけ健勇に目線で礼を告げるとすぐににらみ合う。
 巽は奈津の援護を受けながら一気に敵を退けると、ハデスを追い詰めた。
「諦めろ! ドクターハデス!」
 アルテミスも奈津とにらみ合いの状態となっていた。
「フッ、フハハハハ! それで勝ったつもりか。仮面ツァンダー! 正義のレスラー!」
「なんだと!?」
「ゆけ! グラキエス!」
 その声に合わせ、ロアが落雷のSEとともに何色もの証明を一気に動かす。
 帽子を目深に被り私服で観客席に待機していたグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)が、さっと立ち上がり高らかに笑うとその帽子を取った。
 バレットペンダントトップに入れていた魔鎧を黒ロングコートと悪魔っぽい形状にして装着。
 頭に悪魔の角、背にネロアンジェロ、髪もざっと後ろに流し、顔に怪しげな紋様をタトゥーシールで入れ、手にはレプリカディックルビーを持ったその姿には禍々しささえあった。
 グラキエスは翠と健勇に空飛ぶ魔法をかけ、サイコキネシスで牽引する。
「きゃっ!! 何!?」
「うわあああああああああああ」
 驚いて空中でわたわたする翠の隣で、健勇が大きな叫び声を上げた。
「あ、あれえええええ!!???」
「直くん!?」
 なぜか直斗も魔法に巻き込まれ、一緒に浮き上がる。
 グラキエスはネロアンジェロで奈落付近まで移動すると、人質をいったん客席から死角になるところで降ろした。
「あれ? 間違えてしまったかな。申し訳ない……あ」
 グラキエスが直斗に謝る、が、その瞬間、先ほどのグレイシャルハザードで凍り付いていた設備の一部が落ちてくると直斗にぶつかり、直斗が奈落へ落ちていった。
「直くん!!」
 玲が奈落へと飛び込み介抱する。舞台裏でステージを見守っていたティアも慌てて奈落に回りこむ。
「エンド、こちらは大丈夫です。続けてください」
 ロアはそう伝えると、ティアとともに、玲と気を失った直斗を控え室へと誘導した。
 その隙に健勇が翠に状況を説明する。ステージに迷い込んだアリスを見つけたドクター・ハデスが翠のことを聞きつけ、今回健勇とともに人質役にするようグラキエスに伝えたのだ。
「そうだったんだね。びっくりしたー」
「でも、大成功だったな」
 健勇の言うとおり、状況を知らない翠が人質にされたときに見せたリアルな反応に、客席は息を飲み、はらはらと状況を見守っていた。
 奈落からゴルガイスが眼光も鋭く唸り声を出しながら登場し、グラキエスと合流する。
 黒羊軍の鎧で黒ずくめの装備に揃え、武器の刃も赤く塗り禍々しい雰囲気を漂わせたその姿に、客席からも悲鳴が上がった。
「きゃー、助けてー」
「怖いよー」
 翠と健勇も大きな声で叫びを上げる。
「わわわ、悪者増えちゃった。それに人質をとるなんて卑怯ものー! そんな子供よりこの美人のお姉さんを人質にとったらどうなの!?」
「……」
「……」
「って、スルーなの? このロリコンめー!!」
 春美の言葉に客席からどっと笑い声が起こった。
「フハハハ! これで貴様らは手出しができまい!」
「この者たちを助けたいのなら、大人しくすることだな」
「人質を取るとは卑怯な!」
「くっ……」
 ツァンダーは怒りをぶつけるが、人質がいるため下手に手を出せず、ヒーローたちは悔しげに構えを解く。
「行け!」
「ぐおおおおおおお」
 ハデスの声に、ゴルガイスがヒーローたちに突撃していく。
 迅雷斬を使い、かなり激しい攻撃を加えているように演出する。
 アルテミスとグラキエスも続き、ヒーローたちをボコボコにする。
 人質はゴルガイスと共に現れたニャンルーたちが変装して、アルテミスと共に見張っていた。
 客席からは、ヒーローたちを応援する声が響いた。
「あーん、どうなっちゃうのかしら。 みんな、安心して最後には正義は勝つわ!」
「呼ばれて飛び出てニャニャニャニャーン。正義のヒロイン、ウルトラニャンコここに参上!」
「あ、あれはもしかしてウルトラニャンコ!」
 ステージ上から現れた超 娘子(うるとら・にゃんこ)の姿に春美が嬉しそうな声を上げた。
「夢を育むこのデスティニーランドでの悪行は許さない! ツァンダー! レスラー! 力をあわせて戦おう!」
「ああ!」
「おう!」
「バカな……! 仲間だと!? フッ、だがこちらには人質が……」
「今だ!」
 健勇が小さな声で合図をすると、翠がハデスたちに向けて雷術を数回実行する。そこに合わせて健勇が威力を弱めた遠当てでセットを軽く揺らした。
「ああっ! 空が怒っている! 大地が震えている! 悪を倒せと叫んでる!」
 その声に合わせ、翠が再度雷術を発動した。
 舞台袖では朱里が、状況に応じたアドリブでリハーサル以上の活躍を見せる健勇の姿を見て、頼もしげに微笑んでいた。
 突然の振動と雷にハデスはとっさに耐電フィールドを張るが大きな隙ができてしまった。
「子供達へ勧善懲悪、未来への希望を示すのが私達ヒーローの役目にゃ。うなれニャンコの拳と肉球!」
「あたしの流儀はルチャ・リブレ。天翔ける空中殺法が武器だっ!」
「覚悟しろ!!」
「くうっ!」
 グラキエスは 宙に浮いたり飛んだりしながら魔法攻撃を行い、接近戦を余儀なくされると槍での応戦するが、ウルトラニャンコとレスラーの軽い身のこなしによる華麗なコンビプレーで劣勢に追い込まれる。
 あまりにも本気の出演者たちの演技に、客席ではミリアとアリスがハラハラとしながら見守っていた。
「ヒーローが三人揃えばこっちのものよ!」
「これで勝ったと思うなよ!」
「まだまだこちらにも作戦はあります!」
 グラキエスとアルテミスが捨て台詞を残すと、グラキエスの闇術を使いながら悪役一同は奈落へと移動し、消えたように見せた。
「待て!」
 ツァンダーが悪役を追い袖にはけるのに合わせ、ウルトラニャンコとレスラーも袖へとはける。
 ロアの照明と音響の切り替えを合図に、背景が切り替わる。
 再びステージ上に現れたツァンダーはライトブレードを使い、アルテミスたちと立ち回りを演じる。ハデスの指示で様々な角度からの攻撃を加えてくるアルテミスやグラキエスたちに苦戦を強いられるツァンダー。
 合流したレスラーも、派手な演出で劣勢感を表現する。
「みんなー! ヒーローたちに力を貸してー!」
 再び春美が客席に呼びかけると、子供たちが声を振り絞って叫んだ。
「砕くぞ悪の心と野望! デスティニーランドにくる良い子をいじめる悪者は、ウルトラニャンコが許さない!」
 ウルトラニャンコの台詞を合図に一気に攻勢に出たヒーローたち。
「あたしがデッカいのをあいつ等にお見舞いする! だからツァンダーとウルトラニャンコはそこにトドメを頼むぜっ! うおぉぉ! フレア・エクスプロージョン!」
「Wデスティニーキーック!!」
 レスラーの攻撃に合わせ、ツァンダーとウルトラニャンコがダブルキックを繰り出す。
「うわああああああああああああああ!!!」
 ハデスたちが退場すると、3人のヒーローがステージ上でポーズをキメる。
 客席からは大きな歓声と拍手が巻き起こった。 
「はい、この後はステージ横のお店の横で握手&サイン会がありますからねー!  お店ではカッコイイグッズなんかがあるから見ていってね。ととと、最後にお姉さんからみんなに。 デスティニーランドにくればいつでもヒーローに会えるわ。 夢は見続けようね!」
 ウインクをして退場した春美に、再び大きな拍手が贈られる。
「みんな、お疲れ様!」
 楽屋に戻った出演者たちに、朱里がタオルや飲み物を渡していく。
「母ちゃん!」
「よく頑張ったね。格好良かったよ!」
 飛び込んできた健勇を朱里は誇らしげに抱きとめる。
 ヒーローショーは大成功だった。