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動物たちの裏事情

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動物たちの裏事情

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第一章「何も見てません」

 そして時は少しさかのぼり、ここは件の遺跡。その近くで修行をしていた佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)と兄、佐々木 八雲(ささき・やくも)は、動きを止めた。弥十郎の意識が他にそれたからだ。
「どうした?」
「いや、高級珍味が」
「高級珍味……? ふむ」
 弥十郎の言葉に周囲を見渡した八雲は、弟の言葉が嘘ではないことを知った。そこにはたしかに、高級珍味といわれるユニコーンがいたのだ。
『おぉ、あのタテガミ旨そうだなあ』
 精神感応で呟く八雲。ちなみにタテガミ、とは馬の首辺りの肉のこと。
『そうだね。久しぶりにスライスしたタマネギと、おろしニンニクで食べたいねぇ。
 あ、実家から醤油送ってもらってたかなぁ。あれじゃないと』
 弥十郎もまた、精神感応で返事をする。
 そんな兄弟の見ている先で、ユニコーン(たち)は遺跡の中へと入って行った。
「でもこの辺りでは見かけないのにどうしたんだろう?」
 少し気になった弥十郎たちは追いかけて遺跡の中へ。と、まず目に入ったのは罠にかかったもこもこした何か。近寄っていくと、その周りにいるゴリラやユニコーン、蛇、カラスなどに睨まれたものの、敵意はない。と手を挙げながら近寄り、何かを罠から助け出す。どうやらリスのようだ。
 リスは慌てたようにユニコーンの背に乗った後、そっと顔をのぞかせ、こてんと身体を丸めた。お辞儀をしたかのような仕草に、思わず弥十郎のほほが緩んだ。
「これは……見事に罠だらけだな。そうだ、弥十郎。罠を多く解除した方が勝ちって事でいいか? 負けたら、恋ばなな」
 八雲は言うや否や遺跡の罠を解除し始めた。弥十郎は兄がなぜ罠の解除を始めたのか瞬時に察して少しだけ笑い、慌てて解除を開始した。罰ゲームは本気だろうと思われたので。
 戸惑っている動物たちに目線を合わせ、微笑む。
「行っておいで」
 事情は理解できないものの、動物たちが無事に帰ってこれるように2人は罠の解除をしていった。


「ペ、ペットさん達をさらっちゃうおうとするなんて、ゆ、許せないです!」
 リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)のあげた気合いの声は、石造りの遺跡の中に不気味に響いた。
「小娘。静かにせんか。やつらに見つかったらどうずる」
「ご、ごめんなさい」
 そんなリースを叱る桐条 隆元(きりじょう・たかもと)の声も結構大きい。セリーナ・ペクテイリス(せりーな・ぺくていりす)は、そんな2人をのんびりした顔で眺めている。
 彼女たち3人は、盗賊たちの情報を他のメンバーたちに知らせようと、盗賊を探していた。最初、隆元は外から探す予定だったが、セリーナが【人の心 草の心】で入り口付近の植物に話を聞くと、すでにかなりの盗賊たちが中へと入ったらしく、バラバラに動くのは危険なので一緒に行動している。
「ここでイキモとやらに恩を売っておけば、わしのマホロバにある温泉宿の名も上がるやも知れぬから協力してやってるだけだ。べ、別に、イキモが連れていたペットの事を心配して盗賊退治に付き合う訳ではないからなっ!」
 ツンデレいただきました。ありがとうございます。
 ペットの小糸【吉兆の鷹】に高い位置から敵の捜索を頼みながら、隆元はかなり真剣な目つきで盗賊を探している。先ほどの言葉、どちらが彼の本心かなど。言うまでもない。
 セリーナは車いすを器用に使い、足場の悪い遺跡の中をすいすいと進んでいる。そして自生している植物を見かけると声をかける。これを普通の人がみたらただの怪しい人だが、彼女は花妖精。植物の言葉がわかるのだ。
「うんうん、そうなんだ。ありがとう。……リースちゃん。こっちの方にたくさんの人間が歩いて行くのを見たって。盗賊さんたちかも」
 リースはその言葉を聞いて少し考えた。遺跡の中は別れ道が多く、普通に考えれば大勢で固まって行動はしていないはず。となると、そのたくさんの人間とは盗賊の可能性が高い。
 隆元もまた、セリーナの指差した方角を少し調べてから、うなづく。
「たしかに誰かが通ったようだな。罠も解除されておるようだ」
 リースたちは慎重にその方角へと歩いていく。そして、
「これは蹄の跡だな」
「こっちのは蛇だ……どうやら別れているらしいな」
「ちっしゃあねぇ。俺たちも別れるぞ」
 バラけて行く盗賊たちを発見。その盗賊たちの見目形に何か特徴はないかと観察し、右手の甲に入れ墨をしているのを見つけた。リースは2人のパートナーに目配せし、携帯電話を取り出した。遺跡へ入る前に聞いていた他のメンバーたちの番号を押す。

「分かった。右手の甲に青い入れ墨、だな」
 携帯電話を懐にしまったエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、にっと笑った。分かりやすい特徴があれば、他の契約者と間違うこともない。何よりそんな入れ墨をいれている盗賊団ともなれば、もしかすれば賞金首が中にいるかもしれない。その賞金首をとらえたらどうなる? ……金欠から脱出できる!
 まだ捕まえていないと言うのに、捕まえた気分になっているエヴァルト。残念ながら突っ込める人間はここにはいない。
 金も稼げて密猟も防げて一石二鳥。
 そして曲がり角に到達したエヴァルトは、食パンくわえた美少女……ではなく、お金……じゃなくて、件の盗賊らしき一段に遭遇した。警戒する盗賊たちの右手をさりげなく見ると、青い入れ墨。
「なんだテメぇ」
「あ、もしかしてお前たち、遺跡調査の応援か? いやー、助かった」
「は? いや、俺たちは」
「それがさ。なんかしらねーんだが、ユニコーンとかゴリラとかが調査の邪魔してきてな。ちょっと追い払ってくれよ」
 お金が関わっているからか。エヴァルトの演技は完璧だ。盗賊たちの目が輝く。動物たちのいる方向はどっちだと聞いてきた盗賊に、エヴァルトは人差し指で暗闇を示す。もちろん、そちらに動物たちなどいない。あるのは……罠だけだ。
 【軽身功】を使用したエヴァルトは、盗賊たちの背後から襲いかかった。……卑怯ではない。作戦だ。
(動物を捕まえて一攫千金、などと思ったのだろうが…残念だったな。捕まったのはお前らで、一攫千金するのは俺だ! 穫らぬ狸の皮算用だと? 知ったことか!)

 エヴァルトと同じく、盗賊の情報をもらったマクスウェル・ウォーバーグ(まくすうぇる・うぉーばーぐ)は、御堂 椿(みどう・つばき)の【ディテクトエビル】によって盗賊の居場所を探し出し、その特徴である入れ墨が右手の甲にあるのを確認した。
 彼は、椿に連れられて今回の依頼に参加したのだが、遺跡に入ってからずっと椿から何やらプレッシャーを感じ取っていた。
 ちらとマクスウェルが椿を見ると、彼女は聖母のようにやさしい笑みを浮かべている。そう、優しい笑みである。誰が何と言おうと、優しい笑みである。
「動物をたちを使ってお金儲けをしようだなんて……絶対に許しませんよ! 盗賊達にはしっかりとお仕置きをしなくちゃいけませんね!」
 ふふふふふ。そう笑いながら呟いている姿に、マクスウェルは何も見なかったことにした。
「くらいなさい。【サンダーブラスト】!」
 椿が魔法で先制攻撃をする。マクスウェルはダッシュローラーで敵へと近づき、椿の魔法攻撃に耐えた盗賊たちを【クロスファイア】で着実にしとめていく。
「立ち塞がる敵は排除するだけだ」
 いきなりの。しかも巧みな連携での攻撃に、なんとか耐えきったのは数名。髪の毛がパーマになっているのはツッコムべきところではない。
「悪い悪い盗賊たちには、お仕置きを」
「ひぇっ」
 ある意味、耐えきらずに気絶していた方が幸せだったかもしれない。
 マクスウェルは、椿から眼をそらした。ここに他に誰もいなくてよかった。そう思った彼の目に、古い機械が倒れる光景が入り込む。機械は音を立てて破損し、じじじっという音とともに停止した。壊れたらしい。
 一体何が。
 彼が顔を上げると、ヤバイっ! という顔をしたエヴァルトがそこにいた。
「もしかして今の……」
「お仕置きです!」
「ひゃ〜〜〜〜〜〜〜、ご勘弁を〜」
 マクスウェルの口が閉じられた。エヴァルトが彼の後方を見て、口を開く。
「もしかして後ろの」
「一つ提案があるんだが」
 言葉を遮ったマクスウェルは、続けてこう言った。

「お互い、何も見なかったことにしないか?」

 エヴァルトは、無言でうなづいた。