葦原明倫館へ

空京大学

校長室

天御柱学院へ

春を寿ぐ宴と祭 ~葦原城の夜は更け行く~

リアクション公開中!

春を寿ぐ宴と祭 ~葦原城の夜は更け行く~

リアクション

「済みません!4人、こっちに来てください。この図の通りに、床にテープで印をつけて下さい」

 陽太は《使用人の統率》の技術をフル活用して、生徒たちにテキパキと指示を出していた。
 彼が応援に来てから、仕事の効率が目に見えて上がっている。

「御神楽、こっちは終わったぜ!次は何すればいい?」

 額の汗を拭いながら、結城 奈津(ゆうき・なつ)がやって来た。
 彼女の後ろには、テーブルが整然と並んでいる。

「もう終わったんですか?早いですねー」
「これくらい、あたしにかかれば朝飯前さ。力には自信があるからね」

 彼女は『弱きを助け悪を挫くプロレスラー』を目指しているのだ。

「まだ、こっちのバミりが終わってないんですよね……。少し、休憩しててくれませんか?」
「いや〜、折角身体が温まってきたところだからな〜。それじゃ、あたしはあっちを手伝ってくるよ」

 止める間もなく、奈津は駆け出していく。

「御神楽さん、ちょっと、いいですか?」
「あ、どうしました?秦野さん」

 秦野 萌黄(はだの・もえぎ)の声に、陽太は振り返った。

「いえ、この図面なんですけど、どうも間違ってるみたいで」
「え!間違い!?」
「はい。ホラここ――」
「どれどれ……あ、本当だ!うわ〜、どうするかな〜」
「それで、今ちょっと描き直してみたんですけど」
「えっ?描き直したって、どれ?」
「コレです」
「い、いつの間に……」
「僕、こういうの得意なんだよね〜!」
「おぉ!スゴイ、本当に出来てる。バッチリですよ、秦野さん!これで行きましょう」
「やった!」

 陽太に褒められ、喜ぶ萌黄。
 そんな萌黄の笑顔を見ていると、

(みんな、やる気満々だなぁ。よし、これは僕も頑張らないと――)

 という思いが、陽太の中にも沸き上がってくるのだった。



「――皆さん、お疲れさまでした。一段落しましたし、少し休憩にしましょうか」
「お茶の準備、出来てるよ!」

 円華が休憩を宣言すると、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が待ってましたとばかりにティーセットを持ってきた。
 ノーンが【メイド向け高級ティーセット】で淹れた自慢の紅茶と、《至れり尽くせり》で用意したお茶菓子を振る舞う。
 たちまち部屋が、《メイドインヘブン》が醸し出す癒しの空気に包まれていく。


「ま、円華さん、あのさ――」

 ためらいがちに、円華に声をかける奈津。

「はい?」
「あたしたち、ずっと前から円華さんに会いたかったんだ」
「私に?」
「円華さんは、マホロバと外の世界の『絆』をつなぐ活動をしてるでしょ?」
「はい」

 萌黄の言葉に頷く円華。

「実は萌黄の両親が、マホロバで行方不明になっちゃってさ。あたしはその両親を探そうとしたんだ。でもマホロバは長い間鎖国してたし、今でも外国人には色々とうるさくて、結局萌黄の両親を探すのは無理だったんだ」
「僕たちそんな時に、円華さんの事を知ったんです」

 二人の話に、じっと耳を傾ける円華。

「もし円華さんの活動が軌道に乗って、マホロバがもっと開放的になったら、萌黄の両親を探しに行けるようになるかも知れないって思って」
「だから、『なんとかして円華さんの手伝いがしたい!』って、ずっと思ってたんだ」
「萌黄さん――」
「だから僕、こうやって円華さんの手伝いができるの、スゴイ嬉しいんだ!」
「あたしもだぜ、円華さん!この祭、絶対に成功させような!」

 差し出した奈津の手を、両手で握り返す円華。
 そこに、萌黄の手が重なる。

「有難うございます、奈津さん、萌黄さん。私……、頑張ります!」

 潤んだ瞳で、奈津と萌黄を見つめる円華。

「ダメだよ頑張っちゃ!」
「「「え?」」」

 意外な言葉に、振り向く3人。
 そこには、腰に手を当ててふくれっ面をしているノーンがいた。

「もー!円華さんは、ゆっくり休んでて!さっきから、働き詰めなんだから!」
「の、ノーンさん?今のはそういう意味ではなくて――」
「いいからホラ、座って座って!」

 ノーンは円華を無理やり座らせると、彼女の肩を2、3回揉んだ。

「あっ!イタタタ……」
「ほら〜。スゴイ肩凝ってるよ〜。あとで肩揉んであげるから、早くお茶飲んでね」
「は、ハイ……お願いします」

 改めて、紅茶に口をつける円華。
 心地良い温かさと芳醇な香りが、全身を包んでいく。


「こんにちわ」
「あ!矢野君じゃないか、久し振り!」
「御上先生、円華さん、お久し振りです」
「失礼します」
ミシェルさんもプリムラさんも、お久し振り」

 三人との再会を喜ぶ御上。

「警備に行く前に、ちょっとご挨拶をと思いまして」
「そうか。矢野君たちは、祭の警備だったね」

「御上先生、お客様ですか?」
「円華さん、矢野君たちですよ」
「どうも、ご無沙汰してます」
「佑一さん、ミシェルさん、お久し振りです。今回もご協力頂きまして、有難うございます」
「いえ、そんな――」

「あら?佑一さん、こちらの方は?」
「あ!円華さんは、会うのは初めてでしたね。紹介します、プリムラです」
「プリムラ・モデスタです」
「初めまして、五十鈴宮円華です。よろしくお願いしますね」

 にこやかに頭を下げる円華。
 しかしプリムラは何が気になるのか、円華の事をじっと見つめている。

「え、えっと――。な、何かついてますか?」

 視線に気づき、身体のあちこちを確認する円華。

「あ……。ご、ゴメンなさい」
「円華さんの着物を見てたんでしょ。プリムラは、綺麗な服とか好きだからね」
「……うん」

 ミシェルに言われて、コクリと頷くプリムラ。

「まぁ……!それでしたら、今度色々お見せしますね。今はちょっと忙しいですけど、宴が終われば、少し時間が取れると思いますから」
「良かったね、プリムラ!」
「……有難う」

 プリムラは、控え目に笑う。
 しかし佑一には、プリムラの喜びが手に取るようにわかった。