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悪意の仮面・完結編

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悪意の仮面・完結編

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第6章

 さあ、最後の事件の幕を開けよう。
 ここはツァンダの一角。居並ぶのは、体のラインをハッキリと浮かび上がらせたチャイナドレスの冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)
「……どこから現れるか、分かりませんものね……」
 何気ない風を装いながら、周囲に警戒の目を向けている。
「早く引っかからないかな……」
「これ、結構重いんだけど」
 買い物袋を抱えた緋山 政敏(ひやま・まさとし)カチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)
「うううーん、なんだか寒くなってきました〜」
 こちらはコルデリア・フェスカ(こるでりあ・ふぇすか)。彼女らの共通点は……外見1、および2を参照すること。すなわち、こうしてツァンダの街を騒がせる貧乳強盗団をおびき寄せているのである。
「……これ、私がここまでする必要なかったのかも……」
 ぽつりと、その中に混じっている騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が呟いた。その胸元は不自然に大きく膨らんでいた(外見2を参照すること)。
「……来る!」
 屋根の上。風の流れの変化を感じて、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が呟いた。
「さあ者ども! いっくわよ!」
 夜の町中に、声が上がる。同時に、かっと輝く光。
 星双剣グレートキャッツを展開しながら、路地から駆けだしてくるセイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)である。そして、その背後からは彼女と同じ黒い仮面をつけた女子の集団。その特徴は、むろんそのすとんとした胸元である。
「巨乳はみんな許さない! 滅びてしまえばいいのよ!」
 セイニィの描く刃の軌跡が縦横無尽にその場を駆け回る。一瞬の早業で、その場に居並ぶ女子の胸元が切り裂かれたのである。
「かかれ!」
「イエス、ちっぱい!」
 セイニィのかけ声に合わせて仮面を着けた女子が走る。増幅された悪意の影響か、超人的な速度で手にしたサラシを女子たちに巻き付けていくのだ。
「やんっ! これじゃあ巻き付けきれなくてきついですわっ」
 鼻にかかった声をあげる小夜子。サラシの巻かれた上下からこぼれてしまいそうなサイズが、これではますます強調されるばかりだ。
「この、見せつけて! もっともっとぐるぐるにしてやりな!」
 びしりとあからさまに青筋を浮かべたセイニィの指示に、女子たちが小夜子に群がる。
「……食いつきましたわね!」
 小夜子が踊るようにくるっと回ったかと思うと、飛びついてきた女子がばたばたと重なって倒れる。倒れざまに仮面を奪うのも忘れない。
「しまった! 囮か!」
「気づくのが遅いよ! カチュア!」
「ええ!」
 カチュアに群がる女子の仮面を割りながら叫ぶ政敏に答えて、カチュアが買い物袋を放り投げる。その中にはたっぷりと水の入ったペットボトル。
「……はあっ!」
 カチュアの巻き上げる暴風が、こぼれる水を含んで周囲に降り注ぐ。
「……あっ!」
 水を浴びたセイニィのグレートキャッツが出力を減じられる。きっとつり気味の目がカチュアに向けられた。
「良いですわね、濡れても体のラインが目立たなくて」
 自分の手で胸を隠しながら、カチュアが当てつけのように言う。
「セイニィは正義! じゃなかったのかよ! こんなことしやがって!」
 ひるんだ隙に、政敏のワイヤークローがひるがえる。セイニィは暴風の中を飛ぶのではなく、床に張り付くようにかがんでこれをかわした。
「ちょっと〜! こっちまで濡れちゃったじゃないですか〜」
 抗議の声を上げるコルデリア。はたとしてセイニィがそちらに駆けた。
「全員動くな!」
「きゃあ〜っ」
 いまいち締まりのない声だが、一応は悲鳴だ。セイニィの手がコルデリカの胸をわしづかみにしている。
「この子の胸がどうなっても構わないっていうんじゃなきゃ、動かないことね」
「人質か、卑怯な……」
「巨乳にかける情けなんかないのよ!」
 叫ぶセイニィ。その前に、詩穂がそっと歩み出た。
「セイニィさん。……あなたは巨乳を憎む貧乳強盗団だったはずですね」
「……そうよ、それが……なんだって言うのよ! 巨乳は敵だわ!」
 その言葉を聞いた詩穂はゆっくり首を振り、自分の切り裂かれた服に手をかけ、ぱっとそれを広げた。
「これは質感まで完璧に真似し、外見中身ともにそっくりの胸パッド……一晩でやってもらいました」
 こぼれおちる胸パッド。その奥にあったのは、正真正銘、詩穂の絶壁、もとい慎ましやかなバスト。
「下着を奪った時点であなたはただの泥棒です。そしてその悪意の仮面は史上最悪の猥褻兵器」
 セイニィの表情が引きつる。そう、巨乳狩りの名目を掲げていながら、彼女はちっぱいに手を上げてしまったのだ。
「貴女は悪意の仮面の力に負け、巨乳狩りと勘違いしているクレイジーな大量下着泥棒。ただそれだけ、なにものでもありません」
「……ううっ!」
 どん、とセイニィがカチュアを突き飛ばす。
「……逃がすか!」
 飛び降りてきたエヴァルトがその前に立ちはだかる。星剣の威力が減じていれば、恐れるものではない。
「くうっ!」
 初撃こそかわすが、その背後には小夜子が、政敏とカチュアが迫っている。
「……今だぜ!」
 と、男の低い声が響いた。瞬間、どどどどっ! と連続した爆発が続き、地面が大きく陥没する。
「囮が多かったおかげで俺の罠が完璧にハマったぜ。よくやってくれた!」
 闇の中からヴェルデ・グラント(う゛ぇるで・ぐらんと)が叫ぶ。セイニィを止めるために罠を張っていたのだが、罠を愛するヴェルデにとっては、セイニィを止めることより罠にかけることの方が大事であり、よってセイニィだけでなく、詩穂も小夜子も政敏も巻き込む形で罠を起動したのである。
「団長!」
 ……と、その時に上空から現れたのは、セイニィの飛空艇を操る貧乳強盗団の女子だ。はっとしたセイニィが、猫のような跳躍で飛び乗り、夜の空へ飛び上がる。
「……くそっ! 逃がしたか!」
 がれきをようやくはねのけたエヴァルトが叫ぶ。
「もう少しでしたのに」
 呟く小夜子。じっと政敏がヴェルデに目を向けた。
「良いところだったのに、邪魔を……」
「罠は完璧に決まったんだが、おかしいな……」
「おいおい、責任のなすりつけあいはやめな。特に立派なモヒカン野郎に対してはな」
 ……と、ここでまた新しい声。ゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)である。
「……何してるの?」
 ぽつりと問う詩穂。ゲブーはどう見ても、貧乳強盗団の女子たちの胸をつかんで揉みしだいていたからだ。
「……この子たちはな、自分のおっぱいを……ただちっぱいだって理由だけで愛せてねえんだ。すべてのおっぱいは個性があり、無限の愛を受けるべきだってのに、他人と比べて……ただ、大きさの違いだけで、どっちが優れているとか、どっちが劣っているとか、バストサイズを奪うとか、そんな悲しいこと、俺が放っておけるわけないだろ!」
 と、言う間にも女の子たちの胸を揉んでいる。どうやらそうやって、セイニィの部下たちを無力化していたようだ。
「……なんだか立派なことを言っているようですけど、まあ、でも……」
「なんか、見逃すのも違うよね」
 ぎゅう、と拳を握る小夜子。どこからともなく杖を取り出す詩穂。
「待て! 俺はおっぱいのすばらしさをこの子たちに教えてあげてるんであって、決してやましい気持ちはねえ! それに、セイニィを追いかけないと……」
「それはそれ」
「これはこれ」
 どかばきごうっ。
「あべし!」