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【冬季ろくりんピック】雪山モンスター狩り対決

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【冬季ろくりんピック】雪山モンスター狩り対決

リアクション

 ――西シャンバラ・雪山エリア2――



 ――ラーメンの方が美味しい……。
「キノコだって調理次第じゃ負けちゃいねぇ! それに今回の勝負の分かれ目はキノコだッ!」
 ハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)は高らかに展望を断言した。
 それよりも勝負の分かれ目なのは理解できるが、調理次第とはどういうことだ――?
「料理も採点になったっけ?」
「食通の血でも騒いだんじゃ?」
「2人とも違いますわ。『彼女』に手伝ってもらえなかったから」
『ああ〜』
 クリストバル ヴァリア(くりすとばる・う゛ぁりあ)の言葉に、ひそひそと会話をしていた天津 亜衣(あまつ・あい)鶴 陽子(つる・ようこ)は頷いた。
 彼女とは佐野 実里(さの・みのり)のことであり、ハインリヒはキノコ狩りを手伝わせようとしたのだが、それは先の言葉――ラーメンによってピシャリと断られていた。
 だからついつい小言のように頭に言葉が増えてしまったが、確かに勝負事というのは一発の大勝利よりも、小さくコツコツと安い勝ちを積み上げて行く方が往々にして結果を伴うのだろう。
「オレは負けない。ラーメンよりもうまいキノコを食わせてみせるぜッ」
 ハインリヒは完全に――勝負事に勝った後に重点を置いているようで、となればキノコ狩りは自動的に3人になるし、元々そのつもりだった。
「じゃ、あたしは痺れ虫の始末かな。キノコ生えてる木の上からボトボト落ちてきたりして〜」
「ちょっと……やめてよ。鳥肌が立っちゃったじゃないの。それじゃ、私は万が一に備えて回復するわ」
 亜衣の少し意地悪で悪戯な言葉にクリストバルは身体に自身の腕を巻き身震いし、一歩下がる立ち位置を自然と選択した。
「あんまりリアルな事言って想像させないでよね。ま、私が見つけてあげるよ」
 陽子が風の便りを駆使し、辺りを見渡す。
 視界良好の雪山エリア2では木はぽつりぽつりとしかその姿を現していないが、
「あそこが怪しい!」
 陽子が指差したのは一本の木――その根元だった。
「よし、オレがぐるぐる肉焼きセットでスーパーデリシャスな肉を焼いているうちに、メインに添えるキノコを頼むぜッ」
(あ、本当に料理メインなんだ……)
 パートナーの誰もがそう思いながら、目的の木の根元へ行くと、冷たい雪を必死に掻き分けだした。
 腰の当たりまで掘り起こすと、その木の根元はぱっくりと二又に割れており、その中――大樹の中に大量のキノコが生えていた。
『ビンゴッ!』
 そうして亜衣、クリストバル、陽子の三人が一斉に屈み、穴の中へ戻ろうとして、
 ゴンッ――!
 さすがに三人同時に入れるほどの穴ではなく、頭と頭を打った衝撃に身体を起こし、その拍子に木にも頭を打ち、覆いかぶされた木の雪が一気に彼女らにドサリと落ちた。
 生き埋めにはならなかったものの、胸のあたりまで雪に埋もれた彼女らの視線の先――木の枝には無数の痺れ虫が張り付いていた。
『いやああああッ!』
 ぼとり、ぼとりと零れ落ちてくる痺れ虫に叫びながら、陽子が風術で雪と虫を一斉に巻き上げ、亜衣とクリストバルが一匹ずつ対処した。
「キノコラーメン……何味ならいいだろうな……」
 ぐるぐる……。
 ハインリヒは肉ときゃーきゃー雪遊びに興じている彼女らを見つつ――実際には頑張って駆逐、採取中なのだが――そんなことを思いながら待っていた。

 ハインリヒ・ヴェーゼル、採取10点、小型モンスター(痺れ虫の固まり)10点――。



「東チームの拠点規模からして我々より装備は劣勢だろうな。戦略的に見て両チーム共に大物狙いで勝負を決すると思うが、参謀長はどう見る?」
 リブロ・グランチェスター(りぶろ・ぐらんちぇすたー)の言葉に、マグナ・ジ・アース(まぐな・じあーす)から助っ人を依頼された羅 英照(ろー・いんざお)が答えた。
「その通りであろう……。が、大物に数に限りがある場合、それにとりかかる人数が余剰でも困ろう……」
「セオリーも大事だが、それを生かす為にも足場は固めておいた方が良いな。参謀長もそう思わないか?」
 全く、こんな面白い祭りに少尉――小暮 秀幸(こぐれ・ひでゆき)――が不参加のは残念だと思うリブロであったが、指揮官というのは1人ではないし、指示出来る者もまた1人ではない。
「では、各々小型モンスターを狩って場を制圧してこよう」
 リブロから眼で合図を受けたレノア・レヴィスペンサー(れのあ・れう゛ぃすぺんさー)が言うと、追随した契約者達が散った。

*

「さて……」
 残されたリブロ達も小型モンスター狩りに馳せようとするのだが、どうもその必要はないらしい。
 レノアが武器を取り、ゆっくりとリブロの前に歩み出たからだ。
「中々賢いじゃないか。孤立した瞬間を狙う、悪くない作戦だ。そう思わないか、参謀長」
「商隊を襲いながら覚えた知恵……否、味をしめたのだろう。が、数だけでは埋まろうものではない……」
「ではッ」
 レノアが特製機晶爆弾を取り出すと、それを力の限り遠投し、爆炎波で炸裂させた。
 空中で爆発したそれは、激しい閃光と爆音を発し、構えなければ吹き飛ばされそうなほどの風を巻き起こし、行き場を求めながらその風は軽い雪を吹き飛ばしていく。
 そうして雪の中でその身を隠していた氷小龍はその身を裸にされ姿を晒し、一手遅れているうちに、リブロの機関銃で穴空きにされ、レノアの剣で切り刻まれていった。

 リブロ・グランチェスター、小型モンスター10点――。


 ズボフッ――!
 大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)に噛み付こうと飛び込んできた氷小龍は、その鋭い牙で食い千切り、自らの口をジューシーな赤い血で潤すことなく、散弾によって弾け飛んだ。
「目標撃破でありま――」
 ズボッ――。
 続けざまの鈍い音が、脚が雪に埋もれるものだった。
 パワード装備での積雪はその力の向上故、埋まりやすかった。
「剛太郎様、肩を……」
 コーディリア・ブラウン(こーでぃりあ・ぶらうん)が傍に身を寄せると、その肩に体重をかけて雪中から足を引き抜いた。
「すまない、コーディリア。自分もまだ力加減が分からないで」
「い、いえ……私はただお傍でサポートをすることが役目です」
 そう言って少し恥ずかしげに俯いたコーディリアは、再び自分の作業――ぐるぐる肉焼きセットで肉を焼く――に戻った。
 広い雪山エリア2を探索し狩りすることもなくただ時間が流れ、仕方がないと休憩に食事でもとしていた最中の奇襲であったが、それは難なく撃破された。
(これって……このままぐるぐる回して火を通せばいいだけ……? 一応塩コショウくらいは振ってみたけれど……)
 初めての調理に、コーディリアはただただ困惑し、火が完全に通ったところで肉を刺した棒を外した。
 さて、一仕事――といっても文字通りの一狩り――したことだし、この肉で腹を満たそうと、互いに一歩歩み寄り気付いた。
 その匂いに釣られしモノが雪の中を這い泳ぎ、隆起させながら剛太郎達の元へ。
 ミミズが這い出るようにその隆起から氷小龍が飛び出し、すぐさまコーディリアを引き寄せた剛太郎が2発の散弾を群れに放った。
 角度の広い円錐の飛び散りに4匹の氷小龍が血飛沫を上げ、白雪に倒れた。
 が、数が多い――。
「態勢を整えるでありますッ!」
「ゃッ!?」
 剛太郎がコーディリアを持ち上げると――それは俗にいうお姫様だっこで――自身の埋もれてしまう足に力を入れた。
 パワード装備ならば、例え雪に膝まで埋まろうが、逃げ切れるだろう。
 コーディリアがせっかく焼いてくれた肉を落ち着いて食べれるまで、暫しの時間を要するのだった。

 大洞 剛太郎、小型モンスター10点――。



(さて、どうしようか)
 杜守 三月(ともり・みつき)が考えるは――この対決での自分達の立ち位置、狙いであるよりも――パートナーである杜守 柚(ともり・ゆず)についてだ。
 虫除け線香の煙の向こうの柚の表情は此処にあらずで、それが高円寺 海(こうえんじ・かい)を思っていることは三月からすれば明々白々である。
「はぁ……」
 塵も積もって山となった溜息が柚の背をどんどんと押し潰していくのが目に見えて、どう声をかけていいものやら――。
 乗り気でなかった海にもう少し柚が積極的に押せば良かったのだろうが、そううまく事を運べれば何も苦労はないのだ。
「三月ちゃん……海くん、ちゃんと私達の活躍をテレビで見てくれてるかな?」
「だ、大丈夫だよ! 海はテレビで僕らをちゃんと見ててくれるって言ったから!」
 海がもう少し女性の扱いが上手ければと三月は思うのだが、それはそれで海ではないなとも思う。
「ぁっ」
 そんな彼方への意識も、契約者であるが故に――そして狩りに参加している時点で――嫌でも現実に引き戻された。
 急速に波打ち、柚達に直進してくる氷小龍が5体。
 視界良好のエリアであるが故、殺気看破や超感覚に頼る必要もなく、敵の姿を捕捉できた。
 普通に、いつも通りと前置きができるならば、数の差は覆せるだろう。
 しかし柚がへこたれている今――どうすべきか。
「柚……ッ! 僕はね、無茶とか強引とか、そういうのは嫌いじゃないよ!」
「三月ちゃん……?」
 三月が一歩前に出ると、光術を目くらましに使い、氷小龍の進軍を一時的に止めた。
 そして直進から蛇行で詰める距離が遠くなった群れに、三月は懐から特製機晶爆弾を取り出し、群れの側面のなだらかな積雪地帯にそれを投げつけた。
 爆弾が雪の中に埋もれた衝撃は凄まじく、白雪が四方八方津波のように盛り上がっては、氷小龍を飲み込んだ。
 埋もれた龍が再び陽の目を見る前に、三月はサーベルを片手に隆起し始めた積雪に飛び込んでいき、剣を振るった。
 その強引さは5匹すべてを倒したが、三月に軽いかすり傷を多く負わせ、柚から回復を受けることとなったが、これでいいのだろう。
 手慣れた回復の合間に見せた三月の瞳を見た柚はそのメッセージに気付き、次こそは――と優しく微笑めるようになったのだから。
「次は、海くんと一緒に。頑張って誘います」

 杜守 柚、小型モンスター10点――。