校長室
【なななにおまかせ☆】恵方巻き冬の陣!?
リアクション公開中!
終 章 恵方の彼方に 昨日はとんでもない節分だった。 【則巻 マモリ】は調理場で気絶しており、店の中には眠りこけた店員や客らが死体のように転がっていた。 もちろん、恵方巻きはほとんど売れず、マモリは眼鏡をかけた神経質そうな主任に怒られた。 『お前の作った恵方巻きがマズいから売れないんだ』と……。 でも、マモリは覚えていた。 自分の身体に天使が入り込み、世の人に恵方巻きを食べさせた事。 天使達が皆さんに恵方巻きを配ってくれた事。 夢だったかも知れないが、普段、陽の光に当たる事のない裏方の身にとって、それは嬉しかった。 (そうだ。明日からも頑張って、海苔巻きを作らなくちゃ……) スーパー『トヨトミ』の屋上。 沈む夕日を見ながら彼女は両手で手すりを掴むと、身体を大きく逸らし空を見上げた。 真っ赤な雲と暗闇の境目、それが一日の仕事の終わりの合図となり、そのまま帰路に着く。 ……はずだったが、その日は違った。 ☆ ☆ ☆ 「よぉ」 「えっ?」 声が聞こえ、マモリが横を振り向くと、そこには手すりに跨る瀬島 壮太(せじま・そうた)の姿があった。 「だ、誰ですか!?」 「誰だっていいだろ。それよりもさ……」 壮太は半額シール付きのパックに入った恵方巻きを取り出すと口に運ぶ。 「あー!? 私の恵方巻き!」 それはもちろん、マモリが作った恵方巻きだった。 壮太はモグモグと口を動かし、最後まで食べ終わると口を開く。 「やっぱり、お前の恵方巻き。美味いじゃん」 「えっ?」 「オレの考えはこうだったんだよな。あの騒動は、恵方巻きが好きでしょうがない奴の犯行だって」 「あの騒動?」 「いや、こっちの話」 実は今回の騒動は、泉 美緒(いずみ・みお)の友人らに頼んで揉み消されていた。 だから、事件の元凶が誰であったか、その場に居合わせた者しか知らない。 壮太は、本当は誰よりも早く、マモリの元にたどり着いていたのだ。 (マイナーだし、地域限定だし、半額にしても一部の人にしか食べられない恵方巻きを不憫に思った犯人は、無理やり恵方巻きを食べさせるという暴挙に出たんだろう) これが壮太の推理だったが、ニアピン賞だったようだ。 そして、犯人を見つけたら、説教でもしてやろうと思っていた。 だが、恵方巻きに夢中なマモリの姿を見ていると、止めるのが気の毒な気がして、どうしようか考えている間に事件が解決してしまったようだ。 「……でも、オレに言わせてみれば、ぶっちゃけ恵方巻きって食いづれえんだよ!」 「ええぇ!?」 「あんな太巻き。一気に食えとか何なんだよそりゃ! 新手の拷問か! しかもこんなやり方、恵方巻きをますます嫌いになる奴のほうが増えるんじゃねえか!!」 目を逆三角にして、身振り手振りを大きくして、突然の逆ギレである。 本当は調理場に乗り込んで言ってやろうと思った言葉だったが、機会を失ってしまった事から、イライラして乗り込んできたのだ。 「や、やっぱり……食べずらいですか?」 「おっ?」 しかし、逆ギレされても恵方巻きの事になると、マモリは目をキラキラと輝かせて尋ねてきた。 そのポジティブな彼女に対しては、男を見せねばならぬ。 壮太は不良のようにしゃがみこむと、つい説教臭く語ってしまった。 「だからここはひとつ。もうちょっと細巻きにするとか食べやすい工夫をしたほうがいいと思うんだが……」 「それでは恵方巻きでなくなってしまいます」 「そっか? じゃあ、いっそチャーハンのように炒めてみたらどうだ?」 「それは恵方巻きでなく、チャーハンなのでは……」 「じゃあ、新しい恵方巻きなんか出来ねーじゃねーか!!」 二人が恵方巻き論を熱く語っていると、後ろからガヤガヤとした声が聞こえてきた。 ☆ ☆ ☆ そこに現れたのは金元 ななな(かねもと・ななな)や、泉 美緒(いずみ・みお)らの今回の騒動に巻き込まれた面々だった。 彼女らも壮太と同じ様に、パックに入った恵方巻きを手に、マモリの元へやってきたのだ。 「いやー、昨日はちゃんと恵方巻きを食べれなかったから、今日こそちゃんと食べようと思って!」 「ささっ、マモリちゃんもこっちに来て」 「えっ、私なんかもいいんですか?」 「いいの、いいの!」 昨日の敵は今日の友。 スーパーの屋上は宴会さながらとなり、落ち込んでいたマモリも元気を取り戻したようだ。 そして、機嫌を良くしたマモリに、なななは恵方巻きの食べ方を聞いた。 すると、マモリは私に任せろ! とばかりに恵方巻きの説明を行う。 「そっか、今年(2022年)の恵方(北北西)を向いて、目を閉じて一言も喋らずに口に頬張り、願い事をすればいいのね」 皆は教えられた通りに北北西を向き、目を閉じて、無言で口に入れる。 口の中に様々な味わいが広がると、何だか幸せな気分になってきた。 ☆ ☆ ☆ 「何をお願いしたの?」 ――誰かが彼女に聞いた。 すると、彼女は笑いながら答える。 「お願いじゃなくて、目標かな。新しい恵方巻きを作って、あそこにいる人をギャフンって言わせるって……」 その表情はとり憑いた鬼が去ったかのように、とても晴れ晴れとしていた。 2022年2月――。 まだまだ厳しい寒さの残る月だが、暖かな春は確実にその足音を進めている。
▼担当マスター
サナンダ アナンダ
▼マスターコメント
お久しぶりです。 サナンダ アナンダこと、サナアナです。 今回のシナリオに参加してくださった方々、本当に有難うございます。 食べ物は粗末にしないようご注意下さい。 鬼の大半は一般人です。 色んな制約の中、アクションを考えるのは大変だったかもしれませんが、とても楽しくリアクションが描く事が出来ました。 最後まで読んでいただいた方にも感謝します。 また次の機会がありましたら、宜しくお願い致します。