First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last
リアクション
「いいですか、テラー様
我(わたくし)が、【さぁ!】と軽く背中を叩いたら出番です
それまでは頑張って声を出さないでじっとしていて下さい、じゃないと格好良く無いどころか笑われますよ」
「がぅがぅが……がぅ?」
「【カッコいいって美味しいのか?】……食べ物じゃありません、みんなに好きになってもらえないと言う事です
もちろん、必要じゃないところで笑われるのも同じ事です、わかりますね?」
「がぅぁぅ!!」
トレーニングルームを歩きながら、それぞれの練習風景の具合を見に来ていた演出補助の一人
コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)が獣じみた声と女性の話し声のした方を見てみると
怪人役のテラー・ダイノサウラス(てらー・だいのさうらす)と手下役のバーソロミュー・ロバーツ(ばーそろみゅー・ろばーつ)がいた
もっとも、外見が恐竜の着ぐるみであるだけでなく基本中身も野生児のテラーは怪人と言うより怪獣のそれであるが……
どうやら基本的に本能で動く彼に今期良く段取りを写している最中らしく
その今期良さからその様な事が日常なのだと判る
……まぁ親しい間柄はそれで済むのだが、そうでない者は一筋縄ではいかないらしい
もう一人の手下役のクロウディア・アン・ゥリアン(くろうでぃあ・あんぅりあん)がテラー達の傍にいる後ろで、彼女を盾にするように
綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)がおっかなびっくりとその光景を見つめている
「……これ、本当に大丈夫なの、クロウディアさん?確かに強力な怪人……というか怪獣としては彼、適役だけど」
「そんなに怖がらなくてもいいであろう
あれでもちゃんと賢いのだ、お芝居の事も、見に来る子供達のことも良くわかっている
迫力はれっきとした演出だ、ああ見えても大概の子供は恐竜が好きだからな、あれ位の方が盛り上がる
お、どうやら大丈夫らしいぞ。では台詞つきで通してみようか」
さゆみの不安気な言葉を豪儀な言葉で返し、段取りを進めるクロウディア
彼女に背中を押されるように、さゆみも怪人召還の台詞を通す事にする
「じ、じゃあいきます……!
これよりこの【悪の魔法少女『魔法少女すーさいど☆さゆみん』】があなた達を恐怖のどん底に陥れてあげます!
力には力を!古代の竜の力をここに……ゴクリ……い、出でよ!【大悪恐竜テ……】」
「がぅぁぅぐぐぐぅがぁー!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!無理無理無理無理!絶っっ対無理っ!!」
半泣きで自分の背後に回りこむ、そんなさゆみの姿に溜息をつくクロウディア
その姿を不思議そうに首をかしげながら見る大恐竜(きぐるみ)にバーソロミューは苦笑しながら説明をする事にした
「ちょっと叫ぶのが早かったですかね?
あと、元気なのはいいのですがもうちょっと迫力落としましょうか……流石に泣く子も出ちゃうかもです」
そんな面々の様子を移動がてら遠くに見ながら
ハーティオンはトレーニングルームの窓を抜けた外のテラスにやってくる
そこには今回の肝である演出の風森 巽(かぜもり・たつみ)と舌戦を繰り広げている悪役統括件、幹部役担当の
ドクター・ハデス(どくたー・はです)の姿があった
「なぜだ!こちらは一番の演出が出来るようにワザワザ高性能の3Dプロジェクターを用意したのだ!
これで巨大化の演出が出来てこそ、巨大な組織に立ち向かう緊迫感が演出できるというもの!
我が配下のオペレーター能力をもってすればこの特殊効果だけでなく、照明も駆使して自在に演出できる!
なのに……なのに、使用却下とは……実に納得できんぞ貴様ぁぁぁぁぁぁ!」
猛然と抗議しながらも、自分の優秀な部下の紹介を忘れない辺り、抜け目の無い悪の首領
叫びと共に彼に指を指された先には、彼の配下で唯一の照明係
ヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)が胸を張って親指を立てていた
一通り彼の主張を最後まで聞いた後、巽は眉を寄せ、ペンの尻でこめかみをポリポリ掻きながら台本に目を通す
「や、だからプロジェクター使用しなくても巨大化できる面々がいるって事なんだって
もちろん使わないなんて言ってない、内容的に演出で必要なところも多いからそこに使わせて……」
「だからって、正義の演出ばかりに使用するのが気に食わんのだ!
俺は悪の……悪の演出のために!」
「うん、だから最後の大勝利前の大爆発で……」
「絶対嫌じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
半分キャラが崩れかけながら大反対する悪のリーダー、ドクター・ハデス
まぁ演出とはいえ普段は巽もヒーローに該当するわけで、比重のバランスは相対するのも無理は無い
実際この話し合いは数時間に渡る平行線らしく、見かねた者がハーティオンに助け舟を求めたわけである
「随分とやりあっている様だが、進展はあまり無い様子だな、二人とも」
到着早々にハーティオンが言った言葉に、ようやく両者の火花が消え脱力したようにお互いイスの背もたれに寄りかかる
台本をパラパラ捲りながら、やや疲れ気味に巽が口を開いた
「やっと来たかハーティオン
いや、各々の主張やアピールしたい気持ちとかはわかるんだが、やっぱり纏めるのは大変だよ
特に悪側の主張が色々あって、正直まとめ切れない……まいったよ」
「まるで我々が目立ちだがりの様な言葉だな……だがそれは認めよう
というかまだヒーローはいいではないか、芝居である限り必ず最後は勝つのだからな
その分、悪は最後は散るのだからその前にちゃんとPRしないと、ただの引き立て役ではないか」
眼鏡を拭きながら舞台監督の言葉に反論する悪の首領
再び始まりそうな平行線を止めるべく、ハーティオンは舞台表を見せながらハデスに声をかけた
「君の言い分は良くわかったよ、ドクター・ハデス
だから希望に近い使用が出来る場所を話を少し変更して作ってみた、演出として可能かどうか舞台装置担当にも
確認を取ってOKが出たのでちょっと見てほしい、ここなんだが……」
表を覗き込み、彼の示す場所を凝視するドクター・ハデス
ちょっとしてから難しそうにゆがんでいたハデスの口から、ふふふふという忍び笑いがもれる
「……成る程。上等だ、その案を承認しよう……実に悪らしい演出だ!流石だなコア・ハーティオン!」
変更の内容が気に入ったらしく、打って変って上機嫌になる悪の代表
ハーティオンも上手くトラブルが消化できたので、軽い息と共に返答する
「受け入れてくれて何より、問題が解決して良かったよ。ではこの方向で悪側の演出は任せる
あと巽、話は別なのだが……」
そのまま隣にいる巽に質問するハーティオン
「ヒーロー組の何人かがどこにいるのかわからないんだが……
鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)とかエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)の行方を知らないか?」
「ああ、彼等なら……」
溜息と共に彼等の置手紙をハーティオンに渡しながら、巽が返答する
「大事なところに颯爽と現れる演出を吟味中だと、本番まで見せたくないから見えない所で稽古するってさ」
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
そんなキャスト達の練習が繰り広げられている所から離れ
学園内の音楽練習室では、司会……いわゆるMCの役を担当する面々が練習と打ち合わせを行っていた
様子を見に来た今回のイベントの主催者である百合園女学院のトップの二人……
桜井 静香(さくらい・しずか)とラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)がそっと部屋を訪れると
シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)の声が聞こえてきた
「会場みんな〜!大変だよ!このままだとヒーローが負けちゃうよ!
みんなの元気な応援のパワーをせ〜ので送ってあげるぜ……あ……」
「また同じところで間違えましたわシリウス、【あげるぜ】じゃなくて【あげるよ】でしょう?」
「だぁぁぁぁぁぁ!そんな口調全然言わないから出来ねぇよ!盛り上げればいいんじゃねぇのかよ司会って!」
リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)の厳しいチェックにうんざりした声を出すシリウス
そんな彼女をからかうように隣で雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)が机の上に座りながら声をかけた
「だ〜め〜よ〜シリウス?司会にも基本はあるんだから、まずはそれをちゃんと理解しないと
あなたキャスト外されてやる気なさそうだけど、司会のお姉さんもニーズはあるんだから
最初から自由にやるとがっかりされるわよ〜」
「……お前が言うと、お父さん限定対象に聞こえるけどな……」
ジト目で言い返すシリウスをものともせず、台本をパラパラ捲りながらリナリエッタは返答する
「私、妻子ある人には興味ないの。あと年下も駄目なんで今回はおとなしくするわよ、多分
それに今回って百合園の校長達二人が関わってるんだから……名を汚さないようやる時はやるのよ私」
「というかオレはその片割れに何時の間にか司会でエントリーされてたんだよ
ガキどもの相手は孤児院の頃から慣れてるし、うってつけっちゃうってつけだけどよ
なんでキャストエントリーさせてくれなかったんだ?……覚えてやがれラズィーヤ!」
「かしこまりました。でも大人はともかく
子供相手に魔法少女やるのでしたら、年齢を考えないといけませんわよ……シリウスさん?」
背後からの当の本人の声を聞き、シリウスの背中がビックゥ!!……と跳ね上がる
大量の汗と共にゆっくり振り向くと、扇片手にほほほと笑うラズィーヤの姿があった
「あ……いや、そのちょっとまて、今のは言葉の勢いって言うかえっと」
助け舟を求めてリーブラとリナリエッタを見ると、いの一番に存在に気がついていたらしく
我関せずと台本読んだり練習を始めたりしている、実に司会らしい迅速な対応である
「まぁ今決まっている役柄の流れは変更できませんが、そこまでシリウスさんが魔法少女になりたいのでしたら
その格好で司会をされてもよろしいんですのよ?
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)さんや鍵谷 七海(かぎや・ななみ)さんの様な歳相応のピッチピッチした姿の中で
魔法【少女】を主張されたらさぞかし個性溢れて印象深いに違いありませんわ?
一応、ヴァイシャリーのTV局や新聞にも取材を頼んでいますので、特に注目どころだとお伝えしておきます」
「あわわわわわわわ、悪いオレがわるかった!はい喜んでこの職務を全うさせて頂きます!
というか流石にTVアップは止めて!衣装も普通にします!しますってば!!」
ラズィーヤの権力と言葉の容赦ない報復に、もはや平身低頭で謝り倒すシリウス・バイナリスタ22歳
冷静に考えれば、その魔法少女でなければキャストでも大丈夫だったはずという事でもあるのだが
もはやそこまで思考をめぐらせる事は不可能である
そんないつもの調子5割増しで生徒をいじるラズィーヤから、静香校長はそっと離脱するのであった
「えっと、ショー前に必要な事は【ステージに近づかない事】【ゴミは所定の位置で捨てる事】
【観覧スペースは多くの人が座れるように最低限に】という事
………あれ?飲食やカメラや携帯はどうするんだ?」
賑やかになってしまった部屋の一角変わり、場所は同室の別のスペース
開演前の案内MCを担当する事になった司会担当の黒一点
長原 淳二(ながはら・じゅんじ)は必要事項をメモに書き出しながらアレコレ悩んでいる最中らしく
その傍らでメモを覗き込みながら火村 加夜(ひむら・かや)が助言をしている様だ
「飲食は販売もあるので……開演までOKで、始まったら無しにしましょうか
ただ、お子さんって水分補給が必要な子もいるので【控えて欲しい】と伝えるだけでいいと思いますよ
カメラは大丈夫ですが言わなくてもいいですよ、携帯……というか音の出るものは一般的なマナーなので……」
加夜の説明を聞き、うんうんと頷きながらメモに追加記入をしていく淳二
その情報量をすこし離れた場所で聞きながら鍵谷 七海(かぎや・ななみ)はあわわわと不安げな声を漏らしている
「な、なんか司会って色々やる事やいう事が多いんだね……子供と応援しているだけじゃないんだ……」
「大丈夫だよ。今回は希望者が多かったから、そういったお約束事は淳二や他の人が担当するから
七海は私と一緒に応援がメインだから元気にやればいいんだよ!」
「うん!ホント美羽くんが一緒で頼もしいよ。緊張とかしないの?」
「人前に出るの慣れっこだから。要は勢いと元気があれば何とかなるモンだよ?」
不安げな七海とは反対に隣にいる小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は余裕で元気な事この上ない
「七海、846プロ参加で初のステージ仕事でしょ?
だったらこれからこういうの増えていくんだから、しっかり最初を決めて頑張らないとね!
大丈夫、間違っても私がバッチリフォローするから!」
「……なんだかどっちが年上かわからないね、美羽さんは」
「あ、静香!来てたんだ!」
年上の七海をなでなでと触りながら元気付ける美羽の姿にくすくすと笑いながら、静香が二人の前にやってくる
学園トップの登場に少し驚く七海とは反対に、旧知の仲である美羽は嬉しそうに手をパタパタと振る
部屋で練習している面々を見ながら静香は二人に話しかける
「うん、あと数日で本番だから様子を見にね
司会……候補少ないと思ってたんだけど、予想以上だね。これで全部?」
「ううん、あと数人いる。本番の休憩でちょっと子供を参加させる寸劇っぽいのやるんだって
それはキャストとの芝居が入るから、別のところで打ち合わせと練習してるよ」
静香の問いに台本を捲りながら美羽も答える、改めてその全体を思い浮かべ七海がしみじみと話を続ける
「本当に【子どもショー】って言っても多くの人がいろんな役割で動くんだね
そこは大人も子どももステージとしては一緒なんだ」
「そうだね、だからみんなができる事をちゃんとやって、最後まで楽しんでもらえるようにしないとね」
校長室での最初の発端を思い出しながら静香が呟く
丁度そこへ淳二との話し合いが終わった加夜が静香の姿を見つけ、三人の傍にやってきた
「いらっしゃい静香さん。その様子だと他のところも見てきたのかしら?」
「うん、どこもトラブル無く順調みたいだ。さすが蒼空学園と言ったところかな」
「そりゃあね、内容を決めたのはこちらだから
ヴァイシャリーの行事とはいえ言った分はしっかりやらないと……ところで、涼司君には?」
加夜の問いに、ううんと首を横に振る静香
「一人でやらないといけない事があるから……ってここ3日ほどは会ってないよ
加夜さんこそ、そんな言葉が出るなんて以外だよ」
「ちょっとね。唐突に決まったのとあの人なりに言いだしっぺのプレッシャーがあるみたい
私も同じ位見かけてないんです。あと1日はどこかで篭ってるんじゃないですか?」
「そっか。どんな様子か見たくもあるけど……逆に好都合かな。はい、これ頼まれていた奴」
加夜との会話を続けながら、静香は手にしていた袋を彼女に渡す
そのやや大きめな袋を受け取り、中身を覗き込みながら嬉しそうに加夜が口をひらく
「ありがとうございます、バッチリですよ
装飾とかはルカさんが色々調達してくれているらしいから、後はあの人が姿を見せてから……ですね」
「うん、ここまでやったら流石にもう腹をくくるんじゃない?」
何やら周りを差し置いて心から楽しそうに笑い合う、かの学園の校長の縁者二人
その空気を感じてか、どこかに身を潜めて特訓(?)している話題の本人が
ぶるっと身を震わせたのはここだけの話である
かくして各々の準備は整い、満を持してイベント当日と日は進む
それぞれの想いを胸に、練習の成果をその身に刻み、ショーの幕は開け放たれる
その成果や……さていかに?
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last