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リアクション
第10章 アイデア術を考えてみようStory7
「アイデア術かぁ。祓魔系は他の人が考えていそうだし、私には仲間を守るような術が合ってるかな」
味方を守れる術を作ろうと五月葉 終夏(さつきば・おりが)は、何かいい案はないか、両手で抱えている聖杯を眺める。
「その前に…、あの子に効いておかなきゃね」
いつまでもクローリス、使い魔、君…などといった呼び方では、自分自身が望んだ友達や相棒のような関係にはならないように感じた。
どのように名を呼べばよいか聞こうと、聖杯を掲げて授業で習った通りに呼び出した。
「やっほー、終夏!」
3時間目の授業の時と同じように、彼女の肩の上に載る。
「ねぇ、どういうふうに呼んだらいい?」
「クローリスでいいよー。なまえは、それくらいしかないよー」
「じゃあ…私が名前をつけてあげるよ」
「あんたがなまえをつけてくれるんだねー。なになにーー、どんなのー?」
早く聞かせてほしい!と両足をばたつかせる。
「カスミソウのみたいな子だから「スーちゃん」と呼ばせて貰って良いかな」
「わぁーい。アタシのなまえ、スーちゃん♪」
終夏がつけた名前を気に入り、きゃっきゃと喜ぶ。
「ねーねー、あんたはなんて呼べばいいのー?おりがでいいのかなー」
「スーちゃんはなんて呼びたい?」
「―…んー。おりりんって呼ぶー」
「今日はね、チームを組んで術を考えるんだよ。スーちゃんも協力お願いね」
「おもしろそーっ」
楽しいことなのかな?と思ったスーは興味津々に目を輝かせる。
「こんばんは。俺たちも協力するよ」
術の発動のタイミングを計ろうとクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)が終夏に声をかけた。
「ありがとう。でもまだ術者を探している途中なんだよね」
「その子、もしかして使い魔?」
終夏と同じくチームを組む相手を探しているフレデリカが、彼女の方に乗っているスーを見つめる。
「スーちゃんって呼んでくれると嬉しいな」
「名前をつけたのね」
「友達になったのに、ずっとクローリスとか呼ぶのもあれかなって思ったんだよ」
「(そうね。私がルイ姉を、剣の花嫁って呼ぶようなものだもの)」
フレデリカがルイーザに接している態度と同じく、種族のような呼び方などで呼ぶのは好まないのだろう。
「使い魔ですね。花と草・樹のほうのどちらでしょうか?」
レイカもスーの姿を見つけて終夏に声をかけたようだ。
「花のほうだよ。スーちゃんって呼んであげて」
「スーちゃんですか…。可愛いですね」
終夏の肩に乗ってべったりくっついてる少女を見る。
「アイデア術を試してみるのかな?参加させてほしいな」
「いいよ!一緒に組もう」
「ありがとう♪」
弥十郎はポレヴィークを使役する綾瀬とは組めなかったが、どこにも参加出来ないままなのは悔しいな…と参加したのだ。
「哀切の章を使える人がいるといいのだけど…」
「わたくしでよければ、お手伝いしますわ」
もう皆組んでしまったのだろうか?と悩むフレデリカに、リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)が声をかけ、彼女もチームに参加する。
「ありがとう、そうしてもらえると助かるわ」
「スーちゃんの力を借りて、本とか闇黒属性に対する耐性を得ることが出来る魔道具を、複数合わせて魔性から味方を守る結界とかを作ることは出来ないかな?って考えてみたんだ。皆はこんなのがいいって思いついていたりする?」
「アークソウルにクローリスの芳香を乗せれば広い範囲で生物の心を落ち着かせたり、癒すことができるのではないでしょうか?」
宝石で地球人以外のパラミタの生物を探知し、その対象がいる場所へ広げる役割としてアークソウルが適しているのではと、レイカが考えた。
魔性に憑かれたこともある生き物たちが、憑いた者を祓った後のケアとしてもよいのでは?と思い提案する。
「私はまだ経験が浅いから、そんなに遠くまでは広げられないと思うよ」
「術者がたくさんいないと難しいということですか?」
「んー…。スーちゃんはどう思う?」
「おりりんが1人でやるのは大変だよー。アタシののうりょくを使う時、おりりんのせいしんりょくをしょーもうさせちゃうのー。いっぱいしょーもうすると、おりりんつかれちゃうよ」
「そっか…。ごめん、やっぱり無理みたい」
芳香を広げられる範囲にも限度があるし、今のままでは厳しいとレイカに言う。
「そうですか…」
術として不可能ではないものの、終夏に私1人では厳しいと言われてしまった。
「私は結界術がいいと思うわ。エアロソウルがあればフラワシ以外の霊などを見ることが出来るし、アークソウルで魔性などに憑かれていない者を感知することも出来るでしょ?結界には、ホーリーソウルの治癒効果を付与しておくといいわね。魔性に侵入されないようにするんじゃなくって、結界に進入した魔性を迎撃するほうが好ましいわ」
侵入を防ぐ術だと囲まれた場合、出ることも困難になってしまう。
ゆえに囲まれる前に、結界に近づけないようにするか、追撃し祓うしかないのだ。
「皆、出入口の近くに来てくれる?」
「ここではいけませんの?」
雑草が茂っていないし地面も平なのに、なぜ移動するのか疑問に思ったリリィが首を傾げた。
「私たちの術を見たいっていう人がいるのよ」
「見学者の方が待っているんですのね」
「講義というより、自由行動のような形式だからな」
出向いてやるのも親切というものだろうと、クリストファーは椅子代わりにしていた石の上から立ち上がる。
「ぁ、きた!」
約束どおり待っている郁乃が、大きく手を振る。
マビノギオンの方はすでにノートを開き、メモしようとスタンバイしている。
「さっきの使い魔はポレヴィークだったけど、こっちのは花の魔性か」
ルカルカたちの術を見学していた一輝は、待たせないように急ごうと駆ける。
「―…コレット、歩きながら読むのは危ないって」
「(章がない本だけでは、サポートしたりするのは難しそうね)」
勉強熱心なのはよいが、スペルブックを使った時の詠唱ワードを考えてみたり、イメトレしながら歩いたり、糖分を吸収しようと一口サイズに切り分けたショコラティエのチョコを食べている。
「なあ、それってどうやって使うんだ?」
ペンダントの使い方について唯斗が弥十郎に質問する。
「銀色の蓋っぽい部分を外して、宝石を入れたり取り出したり出来るんだよ。アークソウルやエアロソウルは1度祈りの言葉を唱えると、精神力がきれるまで持続するよ。ホーリーソウルは宝石の力を発揮するたびに、唱えないといけないんだけどね」
「へぇー…助力型なんだな」
「今のところはそうかもね」
「弥十郎、始めるよ」
「うん、今行くから待って!じゃあ、ゆっくり見学していってね♪」
斉民に呼ばれ、片手を振りチームメンバーの元へ戻る。
心に幸福な気持ちを与え、皆の精神状態をリラックスさせようと、クリストファーとクリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)は幸せの歌を歌う。
魔道具を使うタイミングを合わせるために、メトロノーム代わりにもなるだろうと、スローテンポでクリストファーがリュートを弾く。
術者たちはそれぞれのポジションを決め、魔道具を扱う順番はルイーザが決めた。
フレデリカたちペンダント使いが、結界の魔方陣の中心にいるスーに宝石の力を与える。
銃の発動前に注意点として、異なる種類のものや、章と宝石の効力も同時に与えないことを、フレデリカが術者たちに伝えてある。
土台となるアークソウルの能力をスーに与えるため、ルイーザと弥十郎、フレデリカとレイカがペンダントに触れると飴色の光が溢れ出す。
それはスーが生み出した蔓に溶け溶け込んでいく。
リュートの音色に合わせ、斉民とフレデリカのエアロソウルも蔓に吸収される。
最後の1つ、ホーリーソウルの癒しの力をフレデリカがスーに与えると、残るは魔性を祓うリリィの哀切の章の力のみだ。
「人に仇成す悪しき魂に哀れみを。世の切なさを魂に封じ、苦しみを吐き出す哀れな魂よ。わたくしの心から溢れる哀れみは神からの哀れみ。神の代行者のひとりとして、救いの機会を与えましょう」
祓う対象となる者がいないため、聖なる側へ誘う言葉は言わず、章の詠唱ワードのみを紡ぐ。
リリィに与えられた章の効力を受けたスーは花びらを舞い散らせ、白く染まった葉で魔方陣の中に、ふかふかのソファーを作ったり白い花で日傘を作る。
「術は成功したんですの?」
「場内の魔性に協力してもらって、試すしかないわね」
「おゥ、呼んだカ?」
「今から私たちは結界の中に入るから、近づいてみてくれる?」
「そんなもんでいいのカ?」
「えぇ、お願いね」
どのような反応があるか試そうと、フレデリカたちは結界の中へ入る。
魔性がそこへ近づこうとすると…。
「ウァーーーッ」
舞い散った花びらを踏んでしまい、アークソウルの効力で魔性だと判断され、哀切の章の半分の威力をくらってしまった。
「踏むと地雷のような反応があるのね」
「なんダ、それを避ければいいのカ。アーーーー!!?」
器から離れて不可視の者となり、ふよふよと飛び接近してみるが…。
章とエアロソウルの力を得ている蔓が、虚空から現われバシンッと叩き落される。
姿を消してもすぐにばれてしまうようだ。
気配や相手の姿は、スーも察知したり見ることが出来る。
「仲間の魔道諸なのは、対象外にしてくれるのかしら?」
「おりりんがそうしてっていったらね」
「終夏に言えばいいのね」
「教えてくれれば、スーちゃんに伝えるよ」
「さっそくだけど、試しにこの周りにいる術者以外の者も、対象外にしてもらえる?」
「うん。スーちゃん、お願いね」
「わかったー!」
「このように効力を得たクローリスは、心を落ち着かせるだけではないのですね…」
結界の中に入ったマビノギオンが、ぶつぶつと呟く。
「草のソファーふかふかだねっ」
郁乃は転がってみようと、ぼふっとダイブする。
「それぞれの能力をここまで生かせるとは、とても興味深いですね」
「なかなかの癒し空間だな」
結界の中にいれば治療もしやすいし、休憩も出来そうかと一輝も観察する。
「女の子らしい空間ですわね」
いかにも乙女が好きそうな雰囲気だというふうにリリィが言う。
「スーちゃんが女の子だからっていうのもあるけどね」
「でも、とてもキレイだね」
クリスティーも結界の中に入ってみる。
「精神ダメージの治癒は。どうやって行うのかな?」
「スーちゃんに頼んでみるよ。スーちゃん、癒しの力を使ってみて」
「わかったー!」
友達の頼みにスーが頷くと、日傘からキラキラとした光が発せられる。
「この光を浴びると癒えるってこと?」
「たぶんそうだね」
「ソファーに座って、回復を待つなんてちょっと優雅だね」
「成功したみたいね、組んでくれてありがとう」
「やっぱり休憩場所は大事だよね」
戦場では休める場所なんて、ないに等しい。
ゆえに、休職所としても使える場は必要なのだ。
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