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リアクション
何台もの悪のグルメバギーが街を爆走していた。
目標のバスに対して包囲網を敷くように、それぞれ別のルートから向かっているのだ。
◇ 悪のグルメ組織(の別動隊)、戦闘不能の巻 ◇
そのルートの一つ。
住宅街に入る手前の道が、何かに塞がれていた。
「なんだ……?」
気付いた運転手戦闘員が手前でバギーを止める。
助手席に座っていたミリタリールックの戦闘員がバギーから降りて確認すると、道を塞いでいたのは大量の土嚢だった。
ちょうど腰ぐらいの高さまで、人はおろか虫の入る隙間もないほど綺麗に積み重ねられている。
訝しむミリタリー戦闘員の様子を、離れた場所からこっそり見ているのは葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)とセイレム・ホーネット(せいれむ・ほーねっと)だった。
気配を殺し、物陰にじっと隠れて様子を伺っている。
「なんでこんなところに土嚢が……それにしても見事な土嚢だな。おい、俺は奥の様子を見てくるから、お前たちはここで待っていてくれ。なあに大丈夫さ、俺には花子ちゃんからもらったお守りがあるからな!」
ミリタリー戦闘員はバギーに向かってそう言うと、土嚢を登り、上に立って辺りを見回した。
しかし、土嚢があること以外に変わった様子は見られない。
「なんだ、何も無いじゃないか」
安心したミリタリー戦闘員は、裏側へ飛び降りた。
着地したと思った瞬間、地面にカモフラージュされていたシートを突き破り、そのまま落とし穴へ落ちていく。
ぽよん、と底に激突するが、ほとんど衝撃を感じない。
あれ?
落下したミリタリー戦闘員が慌てて怪我と周囲の確認をする。
穴は肩ぐらいの深さで底には何かが敷かれているらしく、怪我も痛みもなかった。
「あーびっくりした。へへ、これも花子ちゃんのお守りのおかげかな」
とりあえずここから出よう、とミリタリー戦闘員が穴から顔を出したその時。
物陰から素早く出てきた吹雪が、手にした料理(不適切な映像のため、モザイク処理をしてあります)を口にねじ込んでいく。
不意を突かれたミリタリー戦闘員が思わずそれを飲み込んだ瞬間、落とし穴が閃光に包まれ、爆発音と共に空高く打ち上げられた。
ひゅるひゅるひゅる……ぽん。
遥か上空で爆発するその姿に、
「あの人どうなったの?」
とセイレムが空を見上げながら吹雪に問いかける。
「彼は……星になったんだよ……」
吹雪がそう答えると、二人は空を見上げて敬礼をした。
お守りを手に笑顔のミリタリー戦闘員が空に映る。
そこに【ミリタリー戦闘員 再起不能(リタイア)】という文字が重なっていく。
「無茶しやがって……」
バギーの方からは、そうつぶやく声が聞こえてきた。
◇
さらに別のルート。
早朝にもかかわらず、大合唱をしながら走る迷惑バギー。
一緒に歌いながら走らせていた運転手戦闘員が、前方に何かを発見した。
グルメ組織の一員としての勘がブレーキを踏ませ、バギーを急停車させる。
はたして道路のど真ん中で見つけたのは、お皿に乗ったおにぎりだった。
丁寧に上からラップがかけられており、今すぐにでも食べられそうな状態で置いてある。
「ごくり。美味しそうなおにぎりだが……なんでこんなところに?」
一人だけバギーから降り、皿へと近づいた運転手戦闘員が首をかしげる。
その後ろへ音もなく近づいてきたのは久遠 青夜(くおん・せいや)だった。
ぎりぎりの距離から飛び掛かり、瞬く間に運転手戦闘員を羽交い絞めにする。
「よくやった青夜」
横から出てきた御宮 裕樹(おみや・ゆうき)が、紫色に沸き立つ得体のしれないものを運転手戦闘員の口の中へ突っ込んでいく。
抵抗できない運転手戦闘員は吐血の代わりに紫色の煙を吐きながら痙攣し、やがて動かなくなるとぐったり崩れ落ちた。
「さすが青夜の最終兵器だな。爆発のリアクションすら出来ないとは可哀想に……」
「むー……」
戦闘員に同情する裕樹に対し、青夜が頬を膨らませる。
しかし、実際に自分が作った料理の威力を目の当たりにした手前、なんとも文句が言いづらい。
「それにしてもあいつら……仲間がやられたっていうのに気付きもせず、暢気に歌い続けてるぜ。この調子で全員におしおきをしてやろう」
裕樹はおにぎりの皿を持つと、バギー内の一人にだけ見える位置へ置きなおした。
青夜に合図をして再び隠れると、おにぎりに気付いた戦闘員がふらふらとやってくる。
「げへなっ」
「もるうぁっ」
「きれいな川だ……あ、おじーちゃーん」
あっという間に乗っていた四人の戦闘員たちを次々と戦闘不能にしてしまう。
死屍累々と化した光景に、裕樹は罪悪感に駆られていた。
予想以上にこれは危険だ、と内側がホーロー仕立てになっている最終兵器と書かれた入れ物に対して、念入りに封印措置を施していく。
「さぁ、これを食べて口直しをするんだ……そして、反省したならば―――本当に美味しい料理を作って、無理やりではなく、旨い物を食べて幸せになる事を願って他の人に自ら食べてもらえるよう努力をすれば良い……」
裕樹は青夜に手伝ってもらいながら倒れている戦闘員たちを道路の脇に寄せ、一人一人に対して、そっとおにぎりを渡していった。
弱々しくも確かに受け取る戦闘員たちに向かって優しく頷く。
「これで全員か……あいつらが間抜けだったのもあるが、一撃で仕留める破壊力が尋常じゃなかった。喜べ、今日は青夜の大手柄だぞ」
「裕樹! それ全く僕を褒めてないでしょ、全力で貶してるでしょー!!」
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