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朱色の約束

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朱色の約束

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:対ビショップ・ゴーレム 後方・北東側





「レーザーなんて、撃たれる前に撃てばいいじゃない」
 まず最初に、一撃を繰り出したのは和深ととルーシッド・オルフェール(るーしっど・おるふぇーる)の駆るアルノ・マイノだ。友人である庚がチャンスを作るのを信じて、上空で隙を窺っていた彼らは、対神スナイパーライフルによる奇襲で、宝玉を狙い撃った。だが、流石に一撃で破壊できるほど生易しいものではない。火花は散ったが、削れた量も些少だ。
「まだまだ……っ全弾食らわせるよ!」
 張り切って引き金を引こうとするルーシッドに、流石に和深も苦笑気味に「ルーシー」と声をかけた。
「あんまり無茶はしないでくれよ、ルーシー」
 無茶が聞く機体じゃないんだから、と宥めようとするが、戦闘中の高揚感がテンションを上げてしまっているのか、引き金から手を放す気配が無い。あまり無茶をすると、仲間を巻き込むだろ、とまで言ってようやく収まったところで、今度はディアーナのセレーネーが前へと飛び出してきた。
「守備力の高い相手には、波状攻撃、間髪入れちゃ駄目、間髪入れちゃ駄目……」
 教科書をなぞるような言葉を繰り返しているのは、緊張のせいだろう。機体の操縦が劣っているわけではないが、ランチャーの残弾を意識して銃剣付きビームアサルトライフルを取り出したのは、遠距離攻撃型の相手に対して、射程の問題からやや無謀と言えた。一発目が発射されたことで、攻撃者と認識したビショップのレーザーが牙をむく。
「……っ」
 だが、その瞬間、間に割り込んだのは、御凪 真人(みなぎ・まこと)パラスアテナ・セカンドだ。その重量級の機体のビームシールドが、バチバチと音を立てて直撃を阻害した。
「闇雲な攻撃は、危ないですよ」
 そう言うと、続けざまのレーザーに対して、その射出の瞬間に大型ビームキャノンで迎え撃った。大出力のビームがレーザーを押し戻す間、セレーネーを後ろに下がらせた。
「波状攻撃をするつもりなら、まずは敵を見極めて連携を確認せんとのう」
 味方を巻き込みかねんぞ、と名も無き 白き詩篇(なもなき・しろきしへん)が言うのに、ディアーナは頷くと、冷静さを取り戻してビショップから距離を取った。
「そうだ……私だけが、戦ってるわけじゃないんだ」
 モニターには、ビショップと相対する友人たちの姿がある。そして――……
 そのモニターに映らない遠方から放たれた一撃が、ビショップの宝玉に火花を散らせる。狙撃手、キルラス・ケイ(きるらす・けい)がビショップのレーザー射程外から放った漆黒の魔弾だ。超感覚によって研ぎ澄まされ、紅の魔眼によってその魔力を増した弾は、着弾と同時、朱の飛沫を散らしながら燃え盛る。その力が宝玉の魔力に干渉したのか、ビショップのバランスを僅かに狂わせた。
「よし、効いてるさぁ……!」
 その効果の程にぐ、っと拳を握ったが、それも束の間。
「……っと、危なかったさぁ」
 攻撃者を認識したビショップが、バランスを崩しながらもキルラスを射程内に捕らえ、反撃してきたのだ。銃舞で踊るようにして辛くもそれをかわし、キャッスル・ゴーレムから離れるような方向で後退していくキルラスを、ビショップが執拗に追いかける中、アルノ・マイノが再び上空から急降下すると、コロージョン・グレネードを食らわせた。黒い腐食性の粘液を撒き散らされ、宝玉に絡みつく。
「よし……っ」
 ルーシッドがその成功に喜ぶ傍らで、和深は注意深く宝玉を見やった。
「これで、少しでも機能障害が起こってくれれば……」
 果たして、レーザーを完全に沈黙させることこそ出来なかったものの、粘液に阻害されているからか、その射出角度は明らかに狭まっている。
「今だわ……っ」
 それによってできた死角に、ディアーナがセレーネーを飛び出させた。焦るな、と心に言い聞かせながら、接近する速度の中でも照準を丁寧にあわせると、ルーナがモニターをじっと睨むように見やって、離脱できるギリギリのタイミングを見計らい「いまだよ!」と声を上げたのと同時。ディアーナの多弾頭ミサイルランチャーが、一斉にビショップの宝玉に向けてミサイルを発射した。
「あ……当たった!」
 連続する大きな爆発音が空気を震わせ、センサーが着弾を示している。自らの攻撃の成功に、喜びより先に安堵がディアーナの体を襲った。
「やったね!」
 ディアーナが、ルーシーの喜ぶ声に応える間もなく。その横を今度は真人のパラス・アテナが飛び込んでいく。ミサイルの攻撃によって、やや歪になってしまった宝玉は、それでも懸命にレーザーを打ち出してくるが、真人はそれを避けるでもなく、僅かに体の向きを変えながら、二重のシールドを突き出した。重装甲タイプのパラス・アテナでは、回避をするほうがロスになるためだ。
「とはいえ、何度もは効かんぞ……!」
 いくら頑強な設計をしているとは言え、攻撃を食らい続けて平気なはずは無い。だが、やや焦りの滲む白き詩篇の声にも真人は「大丈夫ですよ。白の設計ですからね」と揺るがない。
「死中に活あり、肉を切らせて骨を断つ、です」
 瞬間。何度目かのレーザーが放たれるのと同時、それをかわすことなく敢えて受け止めたパラス・アテナは、そのど正面からビームキャノンを発射した。その巨大な出力が、レーザーを相殺し、宝玉へと激突する。
 そして、次の瞬間。
「行くぜえええ……!」
 今までの牽制のための遠距離攻撃をかなぐり捨てて、勇平の駆るバルムンクがビショップへと肉薄した。
 気合一閃。
 パラス・アテナのビームキャノンの着弾と同時、度重なる攻撃に亀裂の入った宝玉は、一気に振り下ろされたスフィーダソードによって完全に砕け散ったのだった。