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【神劇の旋律】ストラトス・チェロを手に入れろ

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【神劇の旋律】ストラトス・チェロを手に入れろ

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序章 ファウスト・ストラトス

 ファウスト・ストラトス(1976-2021)。
 当世最高の作曲家・演奏家・指揮者の一人であり、彼の作った曲は「神劇の旋律」と称えられている。

 もともとは一般家庭に生まれたが、幼少時からピアノの演奏などで音楽に親しむ。
 その後、音楽大学に進学・卒業した彼は音楽家の道を歩み始め、いくつかの小さなコンクールで賞を獲得するなどするも、世間的には無名のままの不遇の時代が長く続いた。
 ファウストの名が知られ始めるようになったのは2010年代初頭からで、その時彼はすでに30代の半ばに達していた。
 当時のファウストは日本を活動の拠点としていたが、新幹線開通後はシャンバラにも活動範囲を広げた。

 家族構成については不明。
 高校時代に交際していた女性がおり、彼女と結婚したとの説もあるが、本人が一度も公にしなかったため謎に包まれたままである。
 また、パラミタで活動していることからパートナーも存在していると思われるが、こちらも詳細は不明なままである。

 2021年、空京にあった邸宅が火災に見舞われ、その大半が焼失。
 ファウスト自身もこの火災によって死亡した*。享年44歳。
 火災の原因については「人気を妬んだ同業者による放火」「金儲け主義に反発したファンの凶行」「物取りの仕業」「事故による焼失」「自殺」などの様々な説が飛び交っているが、現在に至るまでその原因は判明していない。





 ストラトス楽団

 ファウスト・ストラトスの率いていた楽団。
 もともとは彼の音大時代の仲間たちでつくられた有志の楽団であったが、ファウストの知名度が高まるにつれて公演の回数も増え、またより高いレベルの演奏が求められるようになったためか、徐々にもともとのメンバーは減り、新しいメンバーと入れ替わっていた。
 ファウストの死後ほどなくして楽団は解散したが、そのかつての楽団員の多くは現在も別の楽団などで演奏を続けている。






「……こんなところか」
 そう呟いて、黒崎 天音(くろさき・あまね)はウィンドウを閉じた。
 これくらいの情報なら見つけるのは容易だったが、「それ以上」の情報となると、今度はもうどこを探しても見つからない。
 その一線の引き方が、あまりといえばあまりにも見事すぎた。
「謎のカリスマ、か」
 ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)がぽつりと呟く。
 普通は有名になればなるほどプライバシーというものは失われていくものなのだが、ファウストの場合はこれだけの高い知名度を誇りながら、そのプライベートについてはほぼ完全なまでに秘密を守り通していた。
 それが可能なのは、もちろんクラシック界という「品のいい」世界に所属していたからというのもあるだろうが、ファウスト自身の持つ「謎のカリスマ性」のようなものによるところも大きいのだろう。
「不用意に他人を踏みこませず、さらに踏み込めないことを納得させる。簡単な話ではないはずだけどね」
 もう一度先ほどのウィンドウを開き、資料を上からゆっくりと眺め――最後の脚注に目を止めた。





 *当時ファウストがいたと思われる部屋付近は特に損傷の程度が激しく、遺体は確認されていない。