葦原明倫館へ

空京大学

校長室

天御柱学院へ

【神劇の旋律】ストラトス・チェロを手に入れろ

リアクション公開中!

【神劇の旋律】ストラトス・チェロを手に入れろ

リアクション


第七章 ストラトス・チェロ攻防戦 2

「へへっ、楽勝楽勝、ってね」
 邸宅の周囲で唯一警備の薄くなっている場所を見つけ出し、潜入に成功していたのは瀬乃 和深(せの・かずみ)
 三姉妹にいいところを見せるためにも、多少抜け駆け気味にストラトス・チェロの確保に動いた和深であったが……その下心が、彼の判断力を若干鈍らせていたといえよう。

 邸宅に潜入してすぐ、突然の殺気に和深は慌てて跳びのいた。
 次の瞬間、彼の目の前を掠めて銃弾が飛んでいく。
 和深はすぐに銃撃の来た方を振り返り――ありえないものを見て、一瞬硬直した。

 そこにいたのは、二丁の拳銃を手にした……ビキニ姿の、長身の美女。
「壊し屋セレン」こと、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)である。
 日頃から「長身巨乳の女性が好き」と公言している和深にしてみれば、セレンフィリティはかなりストライクゾーンのど真ん中に近い相手であり、そんな相手がビキニ姿で目の前に現れてくれれば、それは素晴らしい幸運と呼べただろう……こんな状況でさえなければ。

「あたしの予想通りね……どう、痛い目に会う前に降参する気ない?」
 挑発的な笑みを浮かべるセレンフィリティだったが、残念ながらこの状況はあらゆる意味で刺激的すぎて、とても和深の処理能力が追いつかない。
「……くっ!」
 混乱したまま廊下の反対方向へ逃げる和深の足下に、セレンフィリティが数発発砲する。
 しかし、それはいずれも命中することなく、和深は次の曲がり角を曲がってひとまず射線の通らない位置に逃れた。

 だが、その次の瞬間、彼の頭の中で「ジャーン! ジャーン!」と銅鑼の音が鳴り響いた。
 彼が逃げ込んだ廊下の先で待ち伏せしていたのは、セレンフィリティとはまたタイプの違ったやや長身の美女――セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)であった。
「げえっ!!」
 ビキニ姿のセレンフィリティと比べれば露出度はやや劣るが、セレアナもロングコートの下はメタリックレオタードであり、こちらもボディラインがはっきりとわかる刺激的なスタイルである。
 そして残念なことに、彼女もまた敵なのである。
 この天国と地獄が同時に来たような現象の二連発に、和深は完全にパニック状態になってしまった。
 パニック状態なので、とりあえず逃げてみるが……そうすると、追いかけてきたセレンフィリティにまた見つかる。
 そのセレンフィリティから逃げ、逃げ切ったかと思うとセレアナに見つかり、セレアナから逃げようとするとセレンフィリティに見つかり……。
 そうして気がついた時には、彼は見事に袋小路に追い込まれていた。
 もちろん、これが全てセレンフィリティとセレアナの計算通りであったことは言うまでもない。
 二人はあらかじめ邸宅の間取りと警備状態を確認してあり、わざと一ヵ所警備を緩めて罠を張っていたのだ。

「さあ、もう逃げ場はないわよ。おとなしく降伏したら?」
 完全に退路を塞ぎ、改めて降伏を勧告する二人。
 だが、退路がなくなったことで、逆に和深は落ち着きを取り戻していた。
「残念だね……あんたたちみたいな美人さんとは、もっと楽しい状況で会いたかったんだけどな」
 返事の代わりにそう言って、静かに構えをとる和深。
 それを見て、降伏の意思なしと判断したセレンフィリティの銃が再び火を噴いた。
 その二丁の拳銃から放たれる銃撃を、和深は驚くような身のこなしで回避する。
 そしてそのままセレンフィリティに肉薄しようとしたが、その前にセレアナが立ちふさがった。
「下がれっ!」
 和深の一撃を、セレアナは目にも止まらぬ速さでかわし、次の瞬間、和深の視界が真っ白に染まった。
「!!」
 次いで、立て続けに鈍い衝撃が二度と、痺れるような痛みが襲い、和深の意識はそこで途切れた。

「犯人確保、っと」
 和深がその場に倒れるのを見届けて、セレンフィリティは会心の笑みを浮かべた。
 セレアナが「光術」で相手の目を眩ませた後、「鳳凰の拳」を叩きこむ。
 それで相手がひるんだ隙に、セレンフィリティの「放電実験」で相手を気絶させる。
 わざと侵入できる場所を作っておびき出すところから、この戦い方まで、全てが二人の計画通りだった。
 故に、二人はこの戦果に満足しており……だからこそ、そこに油断があった。
「……あ、あれ?」
 がくりとその場に膝をつくセレンフィリティ。
 立ち上がろうにも、身体がしびれて力が入らない。
「しびれ粉……誰が……?」
 二人が懸命に通路の入り口の方に目をやると……冷ややかな目で見つめる少女と目があった。
「案内ご苦労。後はしばらくそこで寝ておれ」
 一言そう言い残すと、その少女――刹那は、一人チェロの確保に向かった。