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金の道

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金の道

リアクション

 静かな森の中を、タンという跳躍音と息を吐く音だけが切り裂いていく。

「……ネイジャス、少しスピードを落としてもいいんじゃないか?」

 ヤジロ アイリ(やじろ・あいり)が、先を行くパートナーのネイジャス・ジャスティー(ねいじゃす・じゃすてぃー)に呼びかける。

「アイリ、何を悠長なことを言っているの? アムリアナ様の聖廟が盗賊団の手にかかっているかもしれないのですよ。一刻も早く金の道に着かなければなりません!」

「ネイジャス。あなたがアムリアナ様を敬愛しているのはよく分かりますが、何事も焦りは良い結果を生みませんよ」

 もう一人のパートナーであるセス・テヴァン(せす・てう゛ぁん)が静かにネイジャスを諭すが、彼女は構わず疾走し続ける。

「あちゃーネイジャスちゃん、これは完全に自分の世界に入ってるねぇ」

そして、三人目のパートナーであるバン・セテス(ばん・せてす)は愉快そうに笑いながら彼女を追う。

「既にセイニィたち先行隊が向かっているとはいえ、盗賊団たちは大勢という話ですわ。もし、彼らのうち一人でも聖廟の中に入ったりしたら大変です!」

「あははは。アムリアナ様の事となると、ネイジャスちゃんは人が変わっちゃうんだから」

 バンは軽口を叩くが、そう言いつつも全力でネイジャスについていく。やはり、彼もどこかで金の道を心配しているのだろう。

 しばらく走り続けること十数分、ようやく彼らは金の道へと到着した。

 そこでは、既に戦闘が始まっていた。いや、人数だけを見れば、それは戦闘というよりも一方的なリンチに近いとすら言えるかもしれない。

「今からでもいい! キミたちもここを聖地と思っているなら、戦いを止めて共に守らないか?」

サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)が周りを囲む大勢の敵たちに向かって停戦を求めるが、

「ひゃっはああ! 俺たちはここがどんな場所だろうが、金銀財宝さえあれば興味ないぜえ!!」

 彼らはパラ実生ではなく、欲にまみれた盗賊団であったため、聞く耳すら持とうとしない。

「くそっ! 正義も誇りもない下衆めらがっ」

サビクのパートナーであるシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)が吐き捨てるように言う。

「無法者には女王陛下の神罰がくだりますよ! 速やかに降伏しなさいっ」

 サビクたちの元に着いたネイジャスたちが戦闘へと加わり、降伏を求める。が、やはり

「おっほ、さっきから次々美人ばかりが集まってくるじゃねえか! 姉ちゃんたち、そんなに俺らと遊びたいの?」

 降伏をするどころか、盗賊団たちは舌なめずりをしながら近づいてくる。

「ったく、こいつらは……みんな行くぞ!」

 シリウスは魔法携帯【SIRIUSγ】を取り出して、魔法少女シリウス・リリカルCへと変身する。そして、空飛ぶ魔法↑↑を唱え、一気に敵の包囲網から抜け出すことに成功する。

「今だっ!」

 ネイジャスがライトニングランスで頭上から猛攻撃を仕掛け、相手を痺れたところをすかさずサビクが女王の剣で薙ぎ払う。

「てめえら、調子に乗るなよ!」

 辛うじて攻撃を避けた者たちが、ネイジャスとサビクがスキルを使った隙をつき、襲いかかろうとする。しかし――

「そうは、させるかよっと!」

 ブラックコート絶対闇黒領域を使って気配を消していたバンが、背後から敵に思いっきりその身を蝕む妄執を浴びせて相手に幻惑を見せるる。

「うぎゃああああああ……」

「聖廟を穢す者には神罰が下りますよ!」

 今度は、霧隠れの衣でバンと同じく気配を消していたセスが我は科す永劫の咎を唱え、幻覚を見て錯乱状態の敵を石化させる。

「よしっ、みんな大人しくなったな」

 倒れている盗賊団たちの面々を、アイリは持ってきていた縄で全員グルグル巻きにした。そして、幻覚や石化を解いた後、空京警察へと運び始める。

「ふぅ……アムリアナ様の聖廟を守る事が出来て良かったです」

 ネイジャスがほっと一息つくが、

「ごめんっ!実はもう既に盗賊団たちは金の道の内部に入っちゃったんだよ……ここに残ってたのはほんの一部なんだ」

 サビクがすまなそうに首を垂れる。

「ええ?! あれでほんの一部なの!」

「ああ、オレたちや他の人間が入り口付近で足止めをしている間に、セイニィたちが中に入って先回りする時間はギリギリ稼げたとは思うんだが……」



 ネイジャスたちが入り口付近で戦闘を繰り広げていた頃、金の道の内部でも敵の足音は聞こえ始めていた。

「どうトーマ、敵は何人ぐらいだと思うかい?」

 御凪 真人(みなぎ・まこと)が、パートナーであるトーマ・サイオン(とーま・さいおん)に声をかける。

「下忍の皆にも探らせてるけど、次々と人数が増えてるから大まかにしか分からないって」

「そうなのですか……でも、おおよその場所さえ特定出来れば対処出来ないことはないと思います」

 同行しているエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)がそう言うと、真人も頷き、ディテクトエビルを発動させて敵の位置を探り始める。

「へへっ、近づいてきたらあたしのフラワシでこてんぱんにしてあげるんだから!」

 エッツェルのパートナーである緋王 輝夜(ひおう・かぐや)は、待ちきれない様子で辺りを見回す。

「あら、張り切り過ぎて戦闘前に疲れたりしないように気を付けましょうね」

 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が、先生の卵らしく輝夜を静かにおさめさせる。

「……敵の位置が分かりました。どうやらこの場所から南南西の方角200メートル付近にいると思われます。そろそろライトの灯りを消して小声で話した方がよさそうですね」

 真人はそう言って自身の持っていたライトを消し、他の者もそれに倣って灯りを消していく。

――――辺りは漆黒の闇に包まれた。

「この中で広範囲攻撃が得意なのは俺とエッツェルさんですね。後はどちらかというとタイマン向きな能力を持っている方が多い」

「にいちゃん、オイラも下忍たちを使えば『コウハンイ』攻撃ってやつ出せるぜ」

「でも、下忍を使ってしまってはこちらの存在が気づかれてしまいますよね? 人数はあちらの方が有利なのですから、出来るだけ気付かれずに数を削りたいところです」

「あら、それなら事前に金の道に入ってくれた者たちが仕掛けておいてくれた罠を利用すればいいんじゃないのかしら?」

「あたしは面倒臭いことしたくないから、とにかく敵を目の前まで誘導して貰って、ズゴーンってフラワシでぶっ飛ばしたいっ!」

 皆が各々意見を出し合う中、真人は話しを素早くまとめ始める。

「なるほど、大体作戦は立てられました」

 そう言って、真人は皆に小声で耳打ちする。話し合いが終わると、四人はそれぞれ別の方向へと散って行った。

――それからしばらくして、何も知らない盗賊団たちが真人たちが居たエリアまでやって来る。

「あ〜歩いてばっかで疲れたぜえ」

「だな。金銀財宝が眠ってるって言うから来てみれば、行けども行けども洞窟ばかり。噂は本当なのかよ?」

「だが、あのティフォンが長年守っている『金の道』だぞ? きっと素晴らしいお宝があるに違いない」

 盗賊団たちはそんな事を言いながら、通路を通り過ぎようとした。

「うぉ? 何かが足に躓いたぞ」

 一人の盗賊が声をあげ、手に持っていた松明を下に向けます。すると、暗闇からにゅっと巨大な芋虫が姿を現した。

「な、なんじゃこりゃあ」

 芋虫に驚いた盗賊団たちは、我先にと駆け足で通路を抜けていく。だが、そのせいで足元がお留守になり……。

 ゴロゴロゴゴロ……

「お、おい何かさっきから嫌な音が聞こえないか?」

「は? さっきの虫見てビビってんのかよ」

「おまっ! 一番驚いてたのはおめえだろうが」

 盗賊団が醜い争いを繰り広げている間に、仕掛けられていたローリングストーンはすぐそこにまで来ていました。

 ゴロゴロゴロゴロゴロ!!!!

「うっ、うわああああああ!!」

 盗賊団の目の前には自分たちの三倍はあろうかという巨大な石の玉が、目前まで迫って来ていたのです。必死に彼らは石から逃げます。逃げて、逃げて、逃げ続ける彼らの目の前に現れたのは、Yの字型別れた二つの道――

「じ、自分は狭そうな右に行くぞ!」

「くそっ、せっかくだから俺はこの左の道を選ぶぜ!」

 全滅は勘弁と、盗賊団たちは二手に別れた。

「うわぁあああ、左の道は行き止まりかよおおおおお!!」

 左の道を進んだ先には、落とし穴が仕掛けられ、さらにその先にはツルッツルに磨かれた登り坂があった。

「くぉおおおお! この罠を仕掛けた奴をぶっ飛ばしてえええええ」

 左の道を選んだばかりに、哀れな盗賊団は次々と落とし穴に嵌っていった。しかも、落とし穴の先は地下水脈と繋がっており、そのまま金の道の外へと排出されてしまった。

 そして、右の道を選んだ盗賊団たちはというと――

「へへっ! この狭い通路なら一体一で戦えるじゃん」

 輝夜がフラワシを降臨させて待ち構えていた。彼女はミラージュを使って自分の分身を作り出し、たださえ狭い通路を隙間なく埋めつくす。そして、持ち前のスピードによる多数の残像や幻影を残しながら移動し、打撃や蹴りと共に繰り出されるフラワシによる不可視の斬撃は、残酷な威力を伴いながら盗賊団たちを襲った……。

「アタタタタタタッ!!!」

「あべしっ!!」

 盗賊団が突かれた体の部位を抑え、苦しそうにのた打ち回る。

「こ、この女はやべえ! ここは一旦引くぞ!!」

 盗賊団たちは正面突破を諦め、通路を引き返そうとする。だが――

「ふふ、この鬼祓いの薙刀の威力をとくと味わいなさい……」

 別れの道の手前で光学迷彩を使い、気配を消していた祥子が盗賊団たちを後ろから挟み撃ちにした。

「て、てめえら卑怯だぞ!」

「はは、頭脳的と言ってくださいよ」

「さすがにいちゃんの考えた作戦だぜ!」

 真人とトーマは輝夜たち背後から援護しながら、笑みをこぼす。

「おっと、蟲を使って盗賊団を誘導した私のことも忘れないでくださいよ?」

 エッツェルも祥子の方に合流し、盗賊団たちは反撃する隙もなく、全員倒され、そのまま捕まることになった。