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シャンバラ大荒野にほえろ!

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シャンバラ大荒野にほえろ!

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4
 反省すべき点はいくつもある。
 作戦の詳細について話を詰めている富田林から離れ、のるるは地面に転がった岩に寄りかかって、ぼんやり考えた。
 何故、易々とウィルスなど打たれてしまったのか。
 今考えれば、思い当たることはあった。一人で飛び出して行ってしまった富田林を追ってあのオフィスに行った時に、ふいに呼び止められた男は、確かに倉田だったと思う。
 その時の倉田が一週間の軟禁で手配書の写真と面変わりしていたのは確かだが、富田林を追うという目の前のことに必死で、そちらに完全に気を取られていたのだ。
 それで自分たちの追っている被疑者に気がつかないなんて。いったい、自分は何の為に捜査に参加しているのか。
 あのとき気づいていれば、或いは、彼らが荒野に放逐されることも防げたかもしれない。
 契約者への依頼にしてもそうだ。
 空京警察の管轄という制限でできない調査を、自由な立場の契約者に協力してもらいたい。
 そんなつもりで出した依頼ではあったが……本当は、パラミタ人と契約者を認めようとしない富田林を見返したい、いいところを見せたいという、子供じみた気持ちからではなかったのか。
 竜巻に追いかけられて荒野を逃げ惑いながら、のるるは、どこかで楽しいと思っていた気がする。
 富田林や自分を助ける為に、次々と皆が集まって来てくれることが誇らしかった。
 けれどその結果、こんな危険なことに大勢の人を巻き込んでしまった。
 そして今は、よりによって自分自身が危険なウィルスの「運び屋」になってしまっている。
 両手で自分の体を抱きしめる。
 今、この体の中に、恐ろしい殺人ウィルスがいる。
 ……これだから、ガキは。
 富田林の言葉が、耳に蘇った。
「……何やってるんだろう、あたし……」
 そんなふうには見えなかった。
 倉田宗という人は、そんな恐ろしい人間には思えなかった。
 恐ろしい殺人ウィルスを作り、それを人に植えつけて平然と笑っていられる人間……のるるには、そんな人間は想像もつかなかったのに。
「何をしてる」
 ふいに富田林の声がして、のるるは顔を上げた。
「1時間で出発すると言ったろう。仮眠の取り方も知らんのか」
 相変わらず不機嫌な顔で自分を見下ろしている富田林を、のるるはじっとみつめた。
「限られた時間で身を休めるのも、刑事の仕事のひとつだぞ」
「……トンさん」
 めずらしく富田林は呼び方に文句を付けようとしない。ちょっと安心して、のるるは続けた。
「あたし、トンさんに謝らないといけないことがあるんです」
「何だ」
 思い当たることが多すぎてわからねぇよ、という憎まれ口にちょっと笑って、
「トンさんが空京を出たって知ったとき、本当なら小型結界装置を取りに本部に戻るべきでした」
「ふん、目先のことに囚われるからだ」
「……わざとなんです」
 富田林が片眉を上げてのるるを見た。
「倉田さんと一緒だって知らなかったから……トンさん一人なら、その……」
 のるるは富田林の視線を避けて、気まずそうに自分の手元を見つめている。
「あたしと、契約すればいいと思って」
 富田林が心底驚いたようにのるるの顔を見つめた。のるるは誤摩化すようにえへへと笑って頭を掻いた。
「そしたら、空京を出ても当面の危険はないし、それに……トンさんも「こっち側」の人になる訳だし」
「お、お前な……」
 呆れ返って言葉を失っている富田林に、のるるは泣き笑いのような表情で言った。
「ダメですよね、あたし……そんなことじゃ、何の解決にもならないってわかってたのに」
 相手の意志を無視して「こちら側」に引き込んだところで、パラミタが嫌いな契約者が一人できあがるだけのことだ。
 それでも、もしかしたらわかってもらえるかもしれない、というのは、甘え以外の何ものでもない。
 富田林は頭を抱えて、今までにないほど深いため息をついた。
「まったく、これだからガキは……」
 のるるは肩を落としてうなだれた。
「……ですよね……子供って言われても、仕方ないですね」
 泣いちゃいけない。
 泣いたら、本当にただの子供になってしまう。
 唇を噛み締めて、きゅっと目をつぶったのるるの頭を、ふいに、包み組むように大きな手が撫でた。
「……焦るな」
 のるるは、顔が上げられなかった。だた驚いて目を見開いたまま、富田林の声を聞いた。
「ガキがガキなのは当然だ。そればっかりは焦ってもどうにもならねぇ」
 今日の騒ぎでもつれ放題になったのるるの猫っ毛を、富田林の手がくしゃくしゃと掻き回す。
「ガキに足りないのは、経験だけだ。それは、何度でも叩き潰されながら、ひとつひとつ積み上げていくしかねぇんだ」
 妙に実感のこもった、静かな口調だった。
「お前はそれでいい……焦るな」
 のるるの瞳から、ぱたぱたと涙が地面に落ちた。抑えていた感情が溢れ出して、どうにもならない。
 俯いたままで富田林の肩に顔を押しつけて、消え入りそうな声で呟いた。
「トンさん……あたし、怖い……」
 富田林は、のるるを支えるように手に力を込める。
 そして、言った。
「大丈夫だ、守ってやるよ……俺たちが、な」
 何の気負いもないように、自然に。
 波が引いていくように、自分の中の嵐のようなものが凪いでいくのがわかる。
 のるるは埃だらけのスーツの袖で涙を拭って身を起こす。
 そして、富田林を見て微笑んだ。
「トンさんって、なんか……お父さんみたい」
 富田林は、顔をしかめた。