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All I Need Is Kill

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 五章 大通りでの戦闘

 同時刻。空京、繁華街を通り抜けた先にある大通り。
 多くの通行人に紛れて現代の部隊は進み、廃倉庫へと向かっていく。
 そして大通りの中盤に差し掛かったとき、その部隊の前に一人の少女が現れた。

「ねぇ、そこの団体さん。あたし達ナタリーって修道服を着た子を探ししてるんだけど、知らない?」

 そう話しかけた前に立ち塞がる少女はミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)
 彼女の質問に、現代の部隊の中から東條 厳竜斎(とうじょう・げんりゅうさい)が前に出て、返事をする。

「子供を捜してる? はて迷子かのう」
「そうそう」
「……なんて嘘つけぃ。そんな殺気バリバリの迷子探しがあるかぃ」
「ははは、お爺さんの言うとおりだよ。これは迷子探しなんて生易しいものじゃない」

 ミルディアはそう言ってヒートグレイブを手に取り、厳竜斎に炎を纏った石の刃を向ける。

「ほら、ナタリーさんはその中にいるんだろう? こっちは分かってるんだ。
 あたしらの狙いはその子だけだから。死にたくなかったら、さっさと出して」
「仮にその子がいたとしてもはいどうぞ、って言えるかい。爺ちゃんにちゃんと説明してごらんなさいっ」
「説明? してほしいのならしてあげる。
 あたしらは十年後の未来からやってきて、このままだと後に空京の惨劇って呼ばれることになる事件が起きて、全人口の半数以上が死ぬ。そして、それを阻止するためにはナタリーさんを殺す必要がある。で、教えたから、その手で彼女を殺してくれる?
 ……ってか、そもそも信じてくれないし、やってくれないよね。さあ、あたしは答えたよ。次は、お爺さん達がイエスかノーかを答える番だ」

 それを聞いて厳竜斎はふむ、と呟いて問いかけた。

「……もし、ノーと答えればどうなるのじゃ?」
「別に。ここで殺し合いが始まるだけさ」

 ミルディアがそう素っ気なく吐き捨てると同時に、周りの通行人の波からぽつぽつと武器を手に持った未来の部隊の契約者が現れた。
 その数はナタリー達を取り巻く者達より遥かに少ない。が、彼らはナタリー達を包囲している。また、回りには通行人が多くいるため乱戦になることは火を見るより明らかだ。
 そうなれば、ナタリーという守る対象がいる者達よりも、何も守る者がいない攻める側のほうが有利になる。
 ナタリーの周りの契約者達もそれを感じつつ、各々の武器に手をかける。現代と未来。二つの部隊の間に緊張が走り――厳竜斎はカッカッカと笑い声をあげた。
 
「物騒じゃのぅ。怖いのぅ」

 厳竜斎の突然の奇行に、ミルディアは訝しむような目で彼を見る。

「……お爺さん。なにを考えている?」
「いやいや、ただこのままじゃと、誰かが死んでしまうと思ってのぅ」
「それがどうした。あたしは別に構わない」
「……でもな、あんた。一つの死を覆せば別の死が起こる。そいつは誰かの大事な人かもしれんのぅ?」

 大事な人、という単語を聞いたミルディアの手に、僅かばかり力がこもった。
 それを見逃さなかった厳竜斎は穏やかな口調で、彼女に問いかける。

「今ならまだ間に合う。……考え直してはくれんのかのぅ?」
「……あたしはこの部隊に雇われた傭兵だ。請けた仕事はこなさなきゃなんない」
「どうしても……か?」
「……あたしは金がいるんだ。病院で寝てる大切な人のために。あたしは金がいるんだ。家で待つ旦那と子供のために。
 クライアントは金を弾んでくれると言った。だから過去にまで仕事にやってきたんだ。……クライアントのツラに泥を塗ったくる様なことはしないよ」

 言い切ったミルディアは外見こそ小柄で童顔だが、彼女の表情はそれに似つかわしくなく、れっきとした傭兵のもの。
 それを聞いた厳竜斎は少し残念そうにそうか、と呟き、また言葉の続きを紡ぎ始めた。

「……ふむ、あんたも未来からやって来たクチか。
 ならあんた、俺に見覚えあるか? 無い? んじゃあ、違う分岐に入ったわ」
「……お爺さん、話を逸らすのはそこまでにしておくんだね。そろそろ無駄話も止めて、答えを聞こうか」
「まー年寄りの話はきくもんじゃよ。例えば、そうじゃな……俺ぁこう見えても七十年後の未来からきた未来人なんだが、証拠を見せてやろう。今から五秒後に爆発が起こる……な?」

 そう言うと厳竜斎は手の平を突き出し、一秒が過ぎるごとに親指から順に指を折っていく。

「四……三……二……一……」

 零、と最後に呟き厳竜斎は最後の小指を折る。
 と、同時。大通りのあちこちで――小さな機晶爆弾が一斉に起爆した。

「ッ!?」
「ほらほら、予言通りじゃろう?」

 得意気な笑みを浮かべる厳竜斎に対して、ミルディアの表情が焦りで僅かに歪む。
 突然の事態と悲鳴をあげて逃げまとう通行人により未来の部隊の包囲網が崩れ、それを察知した相田 なぶら(あいだ・なぶら)がすかさず耀助達に言った。

「ほら、皆は先に行って。ここは俺達が食いとめとくから」

(って、いうのは建前でその実、気に食わない人達を自分自身でぶっ飛ばしに行きたいだけだけどね。
 俺も人のことは言えない程度に見っともないけど……まぁこういう性分なんだからしょうがないか)

 なぶらは光明剣クラウソナスを鞘から抜き取り、構える。
 耀助はそんな様子のなぶらを見て、真面目な声で問いかけた。

「……けど、ここでの戦闘は殺し合いになるぞ。いいのか?」
「いいから。せっかく厳竜斎がつくった活路、無駄にしちゃ勿体ないよ」
「……悪い」
「気にしないで。さあ、振り返らずにとっとと行って」
「分かった。――アコ!」
「了解!」

 耀助の呼びかけに応じて、アコが煙幕ファンデーションを使った。
 途端、生み出された白い煙が二つの部隊を包む。爆発と煙幕。二つの行動により未来の部隊が瓦解している隙に、現代の部隊は数人を残して走り出した。

「やってくれるじゃない……! ローザ、部隊の状況はどう!?」

 張られた煙幕のなか、ミルディアはパートナーのローザ・ベーコン(ろーざ・べーこん)に質問する。
 呼ばれたローザは悲鳴のなかからその声を聞き取って、それを頼りに彼女のもとに駆け寄った。

「……ダメだな、完全に崩された」
「そう、ならあたしらだけでもナタリーさんを追いに――」
「それはダメだ。……焦るなよ、ミルディア。
 一つの目的は失敗したが、もう一つの目的ならまだ遂行できる。……仕事は慎重に、確実に、だ」
「……そうね。ありがとう、ローザ」

 ローザに宥められたミルディアは部隊の状況をより詳しく理解するために耳をすませた。

『おい、いたぞ。こっちだ!!』
『うわっ、あいつらなんてものもってやがる……っ!』

 特に大きな声が煙幕のなか響く。
 しかし、ミルディアはそれが未来の部隊に所属している契約者の声ではないことに気づいた。
 おそらく、まだ現代の部隊の誰かがこちらの部隊の仲間に扮して、撹乱を行っているのだろう。

「……そうね。まだ、撹乱が続いているよう。
 今は部隊を一箇所に集結させなくちゃ。……敵さんを大通りに少しでもひきつけるために」

 ミルディアはそう呟くと、未来の部隊を落ち着かせようと号令を発しようとし――。

「ここを受け持った以上、そうはさせないよ」

 その行為を中止させるため、なぶらがミルディアに目掛けてまばゆい刀身を振りぬいた。
 超能力による破壊エネルギーが聖剣の斬撃と組み合わさり、鋭い<真空波>となって彼女に飛来する。

「――っ!」

 石製の薙刀が真空波と激突した。
 刃に纏った炎が小さく弾け、青と赤の火花を散る。

「まぁ、二人相手でも時間稼ぎぐらいなら出来るかな。
 どれだけ傷ついても、精神が尽きない限りは戦えるしねぇ」

(と言っても、はなから負けるつもりはないけどね。
 ……あんな無力な少女相手に寄って集まる大人達になんてさ)

 なぶらはそう思い、聖剣の柄を両手で力一杯握る。
 ミルディアとローザはそれに応じて、各々の武器を構えなおす。
 それを見た彼は、不敵な顔で二人を見て、

「俺はさ、割としぶとい方だから――覚悟しておいてよ?」

 そして、地を蹴った。