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凶暴なるマンドラゴリラ

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凶暴なるマンドラゴリラ

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第一章 マンドラゴリラを求めて

 イルミンスール魔法学校の近くにある地下洞窟。
 その手前で、アーシアはぼけっとしていました。
 参加者達を送り出したものの、どうにもヒマです。
 それに、洞窟の中から聞こえてくる音は、やけに賑やかです。
「こんなにうるさいもんだったかなあ……?」
 アーシアはそう言うと、大きく伸びをします。
 安全と思って送り出しましたが、何か事情が違うのかもしれません。
「これは、確かめてみる必要がありそーだよね」
 そう言うと、アーシアは洞窟の中へと走り出します。
 決して、面白いからじゃないと。自分にそう言い聞かせながら。

「オイラは育ち盛りなので食べ盛り。そこに食材があるからオイラは行くのさ〜」
 地面に埋まったままのマンドラゴリラを前に、クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)は楽しそうに笑います。
「アレ植物なのか一応……」
 一方のエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は、マンドラゴリラを植物のカテゴリーに入れることに抵抗があるようです。
「植物には惜しみなく愛情を注いでいると自負している俺だけど。マンドラゴリラを植物の仲間に入れるのにはやや抵抗を感じるよ」
「えー、なんで?」
 疑問符を浮かべるクマラに、エースはハッとした様子で手を振ります。
「いや、かわいくないからとかそういう事じゃないよ? アグレッシブすぎる気がするというか……まあそれはさておき」
 確かにエースの言うとおり。
 植物とカテゴライズするには少々元気すぎるかもしれません。
 食べ物としても植物としても、進化する方向性を間違えたとしか思えません。
「収穫した以上は食べなくてはならないのです。食べる事は正義です」
 キリっとした顔で言うクマラに、エースは苦笑します。
 一応マンドラゴリラの生態も知っておきたいし、食い意地張ったクマラがどうしても食べたいと騒ぐし。
「ゴーヤー味なら未熟状態の奴が一番美味しい気がするにょん。だからターゲットはまだ青い果実の君なのにゃー!」
 そう言って、クマラはマンドラゴリラをビシッと指差します。
 そして、一気にマンドラゴリラを引き抜くクマラ。
 それと同時にヒャッハー、という音が響きます。
 地面に飛び出してきたのは、青いゴリラ……もとい、立派なサイズのマンドラゴリラ。
 植物とは思えないフレキシブルな動きで振るう拳を、クマラは紙一重で避けます。
「美味しく食べてあげるからね」
 そう言って、にっこりとエースは笑います。
 なるほど、こうして見ると植物らしき特徴を幾つか備えています。
「普段どんな植物相手でも愛情たっぷりに応対できる自信があるんだけれど。今回のはなかなか難易度高いなぁ。でもそこは耐えて何とか収穫してみせようじゃないか」
 これも美味しいゴーヤチャンプルーのためだよ、と言うエース。
 植物にしては戦闘力が高そうですが、自分達の敵ではない。
 それが、一目見て分かったからです。
「どうせ後で炒めるんだから火炎系スキルで攻撃しても大丈夫にゃん」
「粉砕したらダメだからね」
 捕獲後の後の処理を話し合うクマラとエース。
 そこには、一切の隙は無く。
 もはや、戦いの結末は見えていたと言えるでしょう。

「僕は技術畑なんだけど……なんでこんな……」
 阿部 勇(あべ・いさむ)は言いながらも、洞窟の壁を調べています。
「ここを補強したほうがいい」
「よし、分かった」
 そう勇に答えたのは、オリバー・ホフマン(おりばー・ほふまん)でした。
「ま、こういうのは慣れてるからな。期待してもらっていいぜ」
 言いながら手際よくオリバーは動き出します。
「よし、その調子で崩落個所の補強、および修復をするぞ。道の塞がっている所も開通させてやろう」
 夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)も、勇の指示に従いながら動きます。
 土を塗り、木材での補強も忘れずに。
 このまま坑道を作れてしまいそうなくらいの補強を甚五郎達は行っていました。
 一番適任だろうと思って現場監督役に連れてきましたが、どうやら正解だったようです。
 そう、マンドラゴリラの大量発生によって地下洞窟の岩盤は緩み始めていました。
 崩落が起きてしまってからでは遅いのです。
 こういった事は、事前に防ぐことが大事。
 それが分かっているからこそ、甚五郎は今回、サポートに徹するつもりでした。
「のぅ、妾は何をすればいい?」
「ん? そうだな……」
 草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)の質問に、甚五郎は考えます。
 主に敵の警戒をやってもらうつもりでしたが……。
「ひゃあ……ゴ、ゴリラがー!」
 そこに走ってくるのは、リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)でした。
 一本ずつ引き抜いて処理するつもりのリースでしたが、そこに運悪く完熟マンドラゴリラが他のマンドラゴリラを引き連れてやってきたようです。
 流石のリースも一体多数では分が悪く、何とか立て直すべくチャンスを狙っていたのですが……。
「あれの対処をするか。その後は警戒を頼む」
「うむ。そこの、こっちにくるのじゃ!」
 羽純の叫び声に、リースも素早く反応します。
 助っ人さえいるならば、リースとて遅れをとるつもりはありません。
「わ、分かりました!」
 そう言って走ってくるリースを迎え入れるべく。
 そして、やってくるマンドラゴリラの団体を迎え撃つべく。
 途中の補強作業を中断して、甚五郎達は武器を構えます。
「やれやれ、まさか補強が早速役に立つなんてね」
 皮肉交じりの勇の言葉。
 地響きの中で、もう一つの戦いが始まります。

「うーん、これは想像以上に凶暴ねえ」
「てめぇ! 見てねぇで少しは加勢ぐらいしやがれっ!!」
 張 宝(ちょう・ほう)の怒鳴り声に対して面白げに笑みを浮かべて軽くスルーするのはツェツィーリヤ・ラザ・ラスチェーニエ(つぇつぃーりや・らざらすちぇーにえ)です。
 ツェツィーリヤの目的は、マンドラゴリラそのものでした。
 ツェツィーリヤの研究は、凶暴な植物を沈静化、つまりは凶暴さを押さえ使い魔とする事は出来ないだろうかというものです。
 つまり、人と似たような動きの出来る植物であるマンドラゴリラはサンプルとしては丁度良いのでしょう。
 見たところマンドラゴリラが凶暴なのは、そういう防衛機能を持つように進化したからなのでしょう。
 落ち着いてみてみれば、動きは乱雑でパワー任せ。
 まともな意思を持っているのであれば絶対にしないような動きも多々見受けられます。
 意思がない以上飼いならすのは難しそうですが、育つ環境によっては多少の方向性やコントロール性をもたせる事も可能なのかもしれません。
 何しろ、魔法植物です。
 どんな特性が隠されていても不思議ではありません。
「ツェリ……」
 張宝をスルーするツェツィーリヤを見て、龍滅鬼 廉(りゅうめき・れん)は溜息をつきます。
 この二人を連れてきて大丈夫だったのだろうか。
 そう考えながらも、マンドラゴリラに蹴りを入れます。
 修行の一環になるかもと思ってやってきた廉でしたが、マンドラゴリラは中々の修行相手といえました。
 自分で引き抜く青いマンドラゴリラは普通の強さでしたが、時折やってくる赤いマンドラゴリラは、その数倍強いのです。
 戦っている途中に援軍的にやってくることもあり、実戦を想定した修行としては中々得がたい環境でしょう。
 しかも相手は植物だから、全力で技を叩き込むことに何の遠慮もいりません。
 自分の力だけではなく、相手のパワーを利用する。
 それを実践するには、このパワーだけはあるマンドラゴリラは廉にとって、絶好の練習相手です。
 しかもツェツィーリア相手に張宝がキレて叫ぶせいで、マンドラゴリラが引き寄せられるようにやってくるのです。
「くっそぉ! なんでこんなにきやがるんだ!」
「張宝ちゃんのせいじゃない?」
 混ぜっ返すツェツィーリヤに、廉は頭を抱えそうになります。
 修行になるのはいい。
 今回来たのだって、ツェツィーリアがどうしても行きたいというのでついてきたという理由もあります。
 でも、だからって。
 もうちょっとなんとかならないか……と。
 攻撃の手を休めないようにしながらも、廉は今日何度目かの溜息をつくのでした。

「すごい数ね……」
 マシンピストルをしまいながら、鮎川 望美(あゆかわ・のぞみ)は小さく息を吐きます。
「確かに。こんなものが外に出てしまったならば……」
 大惨事になるだろう。
 大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)の元に、付近の住民から駆除依頼がきたのも理解できるというものです。
 機関銃の銃先を下ろしながら、剛太郎は一息をつきます。
 倒しても倒しても出てくるマンドラゴリラは、なるほど。報酬の高さも納得というレベルでした。
 少なくとも、実習に使うような場所ではないようにも剛太郎には感じられます。
「しかし、人が随分といるようでありますが……この騒動の元凶のアーシア先生というのは」
「別に私が元凶ってわけじゃないよー。毎年この時期にマンドラゴリラの駆除は恒例行事だし」
「うおっ!?」
 剛太郎の足元にいたのは、何やらイルミンスール魔法学校の制服を着込んだ女子……ではなくアーシアです。
「でも、今年は確かに異常に豊作みたいだけどねー。マンドラゴリラは酷い環境でも育つけどさ、今年のはちょっと凄すぎるよねー」
「あの、あなたは……」
 パワードマスクの向こう側のアーシアは、一見すると美少女です。
 ペラペラとおしゃべりなのは、性格でしょうか?
「この状況って私の責任じゃないよね。ていうかキミ、誰? そんなもん着込んでるから誰だかサッパリわかんないけど。でも、備えを忘れないのはいい事だと思うなー」
「お兄ちゃ……剛太郎! また来たわよ! 今度は金色!」
「マンドラゴリラは緑も赤も金も関係ない。撃って撃って撃ちまくる!」
「おー、元気ねえ。キミ、実践魔法学に興味とかない?」
 呑気なアーシアの前で、剛太郎と望美はマンドラゴリラを駆除するべく掃射していきます。
 そう、金色のマンドラゴリラ。それは、たまにしか居ないはずのレアなマンドラゴリラ。
 それを狙って奥へと進んだ者もまた、いるのです。