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リアクション
■ツタの化け物攻防戦・前編
――激化の一途を辿る、大型輸送飛空艇の護衛任務。空賊とツタの化け物たち、二つの勢力が協力して(とはいっても、空賊がツタの化け物たちに合わせている状態ではあるが)飛空艇の中に積まれている物を奪おうと攻めたててくる。しかし、護衛として飛空艇を守る契約者たちによってその侵攻は防がれており、むしろ契約者たちの優勢……というのが現在の戦況だった。
「ふむ、船長に話を聞いてみたが今のところ積み荷を調べられた様子は全くなかったようだ。足止めだとしたら、その理由もさっぱりだな……む、あれは……」
夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)は草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)、ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)、ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)の三人と共に船長から話を聞き終えて戦場に戻ってきたところだった。飛空艇から出てすぐに翼と樹菜の二人を見かけると、ホリイが安心したように甚五郎に声をかける。
「あ、あの人たちも旅行に参加してるってことは無事だったんですね、よかった」
「そのようだな。……羊羹のこと、気にしているかもしれない。一言挨拶をしてこよう」
甚五郎の言葉に頷く三人。ホリイが『ガードライン』による防御を担当し、ツタの化け物たちの攻撃を受け止めると、すぐに草薙が飛空艇から持ってきたロープや網、大きな布に油を染み込ませた物を『サイコキネシス』で操って巧みに化け物たちを縛り上げる。そして網や布に包ませると、甚五郎とブリジットが火をつけて化け物たちを火攻めに追い込んでいく。
「周囲索敵――今は大丈夫です、わずかですが会話は可能です」
「……あ、確か空京で逃げてた時に助けてくれた……あの時はありがとう!」
ブリジットの索敵で敵が少ないことを確認すると、すぐに甚五郎たちは翼と樹菜へ挨拶をする。ぶつかった際に落としてしまった羊羹のことは気にしていないことなどを伝えていると、翼の姿に気付いて佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)が駆け寄ってきた。
「翼さん、大丈夫でしたかぁ?」
ルーシェリアも空京で翼と遭遇し助けていたものの、はぐれてしまっていたため心配だったのだろう。翼たちが護衛任務につくと聞いて、同様に護衛任務に来たものの話しかけられるタイミングがあまりなく、ようやくそのチャンスが来たようだ。
「うん、私のほうは大丈夫。あの時ははぐれちゃってごめん、慌てて逃げてたから……」
「気にしなくていいですよぉ。――それにしても、この戦況から見るに空賊たちは何か事情を知ってそうな感じがしますねぇ」
チラリと上空を見るルーシェリア。……空には、いまだに小型飛空艇に乗って輸送飛空艇周囲を旋回している空賊の姿がたくさん見える。
「ちょっと話を聞いてみましょうかぁ……こんなこともあろうかと、準備しておいて正解でしたねぇ」
そう言うと、ルーシェリアはどこからともなく巨大な注射器・《レティ・インジェクター》を取り出した。それに跨ると、注射器はふわりと浮いて小型飛空艇と同じように空へ飛んでいってしまった。
「う、うそぉ……」
翼もこれには驚くほかない。……ルーシェリアはそのまま、上空の空賊を相手にしている契約者たちの援護に向かっていったのであった。
「これからどうしましょう……」
大型輸送飛空艇に乗せてもらい、目的地まで移動する予定だったラトス・アトランティス(らとす・あとらんてぃす)、七瀬 灯(ななせ・あかり)、泥人形 十六式(どろにんぎょう・じゅうろくしき)の三人。やんごとなき理由により、灯が魔鎧状態となっている十六式を身に纏い、中心となって行動している。飛空艇が不時着する際、危険を察知してか安全な場所に身を隠していた灯だったが、今は貨物室付近でラトスと相談をしていた。
「このまま隠れてるわけにもいかないだろう。乗り込んできた奴を倒す方向で行くべきだと思うが」
「――そうですね。空賊の目的は多分ここの貨物だと思いますし、この飛空艇に安く乗せてもらった恩もあります、ここを守りましょう」
十六式も肯定の意思を示す。三人の意見が一致したところで、この貨物室を守ろうと出入り口付近で身を潜めていると……貨物室に入ってくる人影がいた。
「これ以上先には進ませません!」
その人影の進攻を防ぐべく物陰から姿を見せて立ちふさがる灯。……が、その人影は空賊ではなくこの飛空艇の女性乗組員だった。灯たちもこの大型飛空艇に乗せてもらった時に話しかけられたので認識がある。
「って、あなたでしたか……どうしたんですか?」
「貨物が奪われてないかどうかのチェックをしに来たの。でも、あなたたちが守ってるんだったら奪われてはなさそうね」
そのまま貨物室に入って、貨物のチェックをしていく女性乗組員。非常事態とはいえ、かなり落ち着いているような雰囲気である。……手早く全ての貨物チェックを終えると、何事もなかったかのように女性乗組員はその場を後にしていった。
「――さ、空賊が来たら追い返しましょう」
再び灯たちだけになった貨物室。気合を入れ直すと、物陰にまた隠れて貨物室の防衛に当たっていくのであった。
――ツタの化け物たちの数が、心なしか増えているようだった。どうやら化け物を操る黒幕がその数を増やしていると思われ、契約者たちは化け物たちの処理に人数を割き始めていた。
「六時方向、まだくる!」
先ほどまで計器類のチェックをダリルたちとやり終えた後、《宮殿用飛行翼》で上空に飛び、そこから『ホークアイ』で戦場を見渡している清泉 北都(いずみ・ほくと)。『超感覚』と『禁猟区』も駆使し、あらゆる方向からの敵襲に備えていた。
ちょうどツタの化け物たちの出現を空気の振動で感じ取り、地上にいるクナイ・アヤシ(くない・あやし)、遠野 歌菜(とおの・かな)、月崎 羽純(つきざき・はすみ)たちにすぐに伝えていく。
「こっちでも『超感覚』と『殺気看破』で感知した! 翼ちゃんたちに先輩としてしっかりしたところ見せないと――魔法少女アイドル・マジカル☆カナ、参ります!」
「こちらのほうはお任せくださいませ!」
歌菜とクナイがそれぞれ前線に立つと、歌菜は『ブリザード』、クナイは《ブレスオブアイシクル》でそれぞれツタの化け物たちを広範囲に凍らせていく。
「種が放出される前に一気に片付ける……!」
凍らされ、絶命寸前と判断してか種の放出の前兆を見せ始める化け物たち。それを絶対に防ぐために、北都とクナイ、歌菜と羽純の四人は化け物たちへ一斉に攻撃を仕掛ける!
北都は急降下しながら、凍りついているツタの化け物へ『サイドワインダー』を繰り出して一気に砕き、凍りきれていない化け物単体に対して『千眼睨み』でその身を石に変えさせ、上空域まで離脱。その流れに乗ってクナイも『シーリングランス』を振るい、凍結しているツタの化け物を破砕、一掃していく。しかしどうやら、種の放出はスキルの類ではないらしく、スキル封じの力は発揮されなかったようだ……。
「はあああああっ!!」
羽純が駆ける。『ゴッドスピード』で加速力を付け、化け物たちに肉薄すると――両手の二槍による『歴戦の武術』で敵を次々と破砕。放出されようとする種も歌菜が『天の炎』によって一斉に焼却処理されていった。
「空賊のほうは――大詰めみたい、私たちはツタの化け物を全部倒しちゃおう!」
「もちろんだ。北都とクナイも引き続き頼む」
「困ってる人を助けるのは当然だものねぇ、一気に片付けちゃおう」
「そうでございますね。……にしても、なんでここにツタが出てきたのでしょうか?」
一区切りがついたところで、態勢を整え直していく四人。その中で、クナイはツタの化け物たちがこの場所に現れた理由を『風の便り』を使って調べていく。そして、それによって空賊たちを対処している側の情報である敵の狙いが“鍵の欠片”であることを共有することに成功した。
「となると……翼ちゃんと樹菜ちゃんが頑張る時みたいだね。もちろん、私たちだって頑張らなきゃだけど」
歌菜の言葉に頷く羽純と北都たち。その視線の先には、新たに出てきた化け物の第二軍の姿があったのだった……。
「帰せ――“千烈太刀襖”」
別の戦域では、佐那のパートナーである足利 義輝(あしかが・よしてる)が『ヒロイックアサルト』である“千烈太刀襖”をツタの化け物たちへ繰り出していた。……剣聖と称されていた義輝がかつて所持していたとされる数多の刀剣。それらすべての切れ味を再現して自らの得物へ転換、数千本に及ぶ切れ味を乗せた比類なき一撃を対象へ存分に味わせる魔技。それが“千烈太刀襖”。
ツタの化け物の攻撃を義輝が一任し、佐那とエレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)が種の放出を防ぐための最終処理を行う。その中で佐那は最初に、一体のツタの化け物に対し《無光剣》で切り刻んで種の放出箇所を確認、『記憶術』で記憶するとそれを義輝に伝えて該当部位を切り離すよう示し合せていく。その後は、放出された種を『風術』で上空へ飛ばして地面への接地を防ぎ、飛ばした種をエレナが《克肖槍【Борга】》《致命槍【Дэалг】》を振るって一閃し、一気に焼き払っていった。
「咲き紊れろ――《万華桜爛》」
そして残った化け物にも義輝の得物である《万華桜爛》の花弁の刃で斬り裂いて止めを刺し、ひと段落を付けていった。
「公家様、空賊に加えてこれだけの化け物が襲ってきているとなると、翼さんと樹菜さんが危険なような気がします」
経験の浅い二人がこれだけの激しい戦いを強いられていると考えると、声をかけた身として心配になる佐那。それを感じたのか、義輝は視線を翼たちが戦っているであろう方向に向ける。
「――なら、次の戦場はその者たちの近くにする。行くぞ」
「ちょっと待ってくださいな。そこで倒れていた空賊のかたを捕まえたので、少しばかり交流会ならぬ拘留会を開きたいのですけれど、よろしいでしょうか?」
移動しようとしたその時、エレナがそんなことを。どうやら、化け物を片付け終わった際に気を失っている空賊が倒れていたらしく、エレナはその空賊をロープでぐるぐる巻きにして事情を聞こうという魂胆らしい。
「何かわかるかもしれないですし、話だけでも聞いてみましょうか。……起きてください」
義輝も問題ないと判断したのか、空賊から事情を聞くのを二人に任せていく。気を取り戻した空賊はグルグル巻きになっていることに驚きを見せるものの、事情を知ってかすぐに話をしてくれた。
「入ったばかりで俺も詳しいことは知らないんだけど……どうもこの空域は『黒鴉組』の縄張りじゃないみたいなんだ。まるで待ち合わせ先に向かうみたいにこの空域にはさっきの時間に来たみたいでさ」
……空賊の話を聞いて、思わず佐那は首を傾げてしまった。なぜ縄張りじゃないところへ空賊団がやってきたのか……?
「――ありがとうございますわ。拘留会はこれで終わり、引き渡される時まで眠っててくださいな」
そう言って、エレナは武器の柄で空賊を殴って気絶させる。そして、そのまま放置の形を取った。
「これを仕掛けた黒幕は随分と手を込んだことをなされるのですね。空賊が盛んなタシガンと違い、この辺りは空賊も比較的少ないと予備知識で聞きかじったのですが」
「わざわざ縄張りの外から連れてきた……ということは、黒幕は人数が欲しかったのか、それとも……」
義輝は今の拘留会からそのような推測を立てる。確かに戦闘は数が多いほうが有利になるが、それだけではない……そんな予感を感じながら、佐那たちは翼たちの手伝いをするべく輸送飛空艇の近くへと移動をしていったのであった。
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