葦原明倫館へ

空京大学

校長室

天御柱学院へ

アキレウス先生の熱血水泳教室

リアクション公開中!

アキレウス先生の熱血水泳教室

リアクション

 定期的に上げられる顔、テンポよく交互に動く両足。
 セシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)は、流れるプールの流れに逆流しながら泳ぎ続けていた。
 猫を避け、球を避け、たまに少年を避け、今は犬もきたがこれも上手に避け
――海賊として更に泳げる様に特訓しておくにこしたことはないわね。
  それにしてもここはいい特訓場だわ。
 セシルは、海賊として求める戦場の海と同じような状態にあるこのプールを気に入りつつあった。
 大きな波がくれば、こちらも大きく息を吸い込み比較的被害の少ない底の方を泳ぎ進める。
 小さな波にはあえて抵抗はせずに、それを上手く利用してくぐり抜けた。
 そんな彼女の特訓の様子を感嘆し見ているものがいた。
 彼女の兄、ケヴィン・フォークナー(けびん・ふぉーくなー)である。

「セシル、特訓を手伝ってやろう」
 ケヴィンは独り言のようにそう妹に告げた。

 セシルが息つぎをしようと顔を上げた時だ。
 その顔面に向かって風の衝撃破が飛んできたのだ。
――これは、風銃エアリアル!?
  まさか……いえ、まさかじゃないわね、これは絶対に
[ちょっとお兄様! 邪魔だから帰って下さい!]
 セシルは精神感応を使い兄に呼びかける。
 返事は無い。 その代わりにもう一発攻撃が飛んでくる。
 これも全ては妹を思うが為であった。
――ああ、俺は何と良い兄なのであろうか。
 そしてセシルと同じ様に水の中で頑張る訓練生達にも同じ様に。
――その上誰にでも平等に接するとは全くもってすばらしい。
 心の中で自画自賛しながら、ケヴィンはセシルに向かって叫んだ。

「と言うわけで死ねぇセシル!放電実験ッ!」

[よーしバカ兄、後で殴るから覚悟してなさい]



 プールサイド、時間が経つに連れどんどんカオスの様相を呈するプールを見ながら、海はため息を吐いていた。
「かーい。らしくないため息だな」
 後ろからやってきた匿名 某(とくな・なにがし)が、海の横に腰を下ろす。
「海……お前ジゼルのためとはいえ、学校のプールを魔窟のプールにクラスチェンジはやりすぎだと思うんだが。
 契約者とはいえ死ねるレベルのものばかりだぞ」
「なっ俺は普通に教えるつもりだったんだぞ!
 でもアキレウスが……」
「なに、主犯はアキウレスさん?」
「ああ、一晩でこんな風にしちまった」
「へー駿足のアキレウスの異名は伊達じゃねえな!」
「笑い事じゃない。俺まで被害に遭ってるんだ。
 教官だとか何とか肩書きだけだろ」
「だな。教官とは海には似合わない役目っつか?
 反面、アキレウスさんは板についてるというか……
 あのままナイト卒業してコマンダーにクラスチェンジした挙句、勢いあまって教導に転校しそうな勢いだぞ」
「教導団にか?
 確かに似合ってそうだな……」
「……そうなるとお前も、か…… 寂しくなるからイヤだな……」
「え?」
「――お前だって、そうだろ?」
「なにがし――」

「っとこれ以上やると一部の女子大歓喜な展開になりかねないからお戯れも程々にな」
 大谷地 康之(おおやち・やすゆき)が笑いながら突っ込みを入れたところで寸劇が終了する。
「そそ、俺はこんな事やりにきたんじゃなくて”教官の教官”をやりにきたんだよ」
「は?」



「ジゼルさーん!」
「姫星ー!」
 友人の姿を見つけて駆け寄る次百 姫星(つぐもも・きらら)とジゼルの二人。
 後ろから姫星を見ていた彼女のパートナー鬼道 真姫(きどう・まき)は、てっきり二人が女学生らしく抱き合ったり手を握りあったりするのかと思ったのだが、
どこか致命的にズレている二人が出逢うとそういう挨拶はないらしく、二人は腕と腕をガシーンと組み合わせて何故か喜んでいた。
「応援に来ましたよー!」
「ありがとー! 姫星、パラ実の水着似合ってるわね」
「ジゼルさんも素敵じゃないですか」
「でもこれ私ちょっと恥ずかしい。
 なんで胸のとこ空いてるのかな〜……。
 ってそんな事言ってる場合じゃなかった。私そろそろ次の訓練に行くの。あっちの流れるプールで」
「本当に大変ですよねぇ……。
 私も昔この身体に慣れなかった頃はよく失敗してました。
 でも、ジゼルさんなら大丈夫です。
 絶対に出来ます! 絶対にやれます!
 だから頑張ってぇわぁぁ!?」
 会話の途中だったのだが、ジゼルの視界から急に姫星の姿が無くなる。
 姫星が居たはずの場所に現れた真姫は、プールの姫星に向かって言った。
「姫星。
 折角なんだし……この際、あんたのカナヅチも克服してきな!」
 呆気に取られているジゼルに、真姫は向き直って笑顔を見せる。
「あんたがジゼルかい?」
「は、はい!」
「話しは姫星から聞いたよ。
 特訓。若いねぇ〜、青春だね〜。
 いいよいいよ、そういうの。頑張りな!」
「ありがとう!」
 頭を下げるジゼルに向かって片手を上げると、真姫は姫星を追いかけ始める。
「ほらほら、しっかりバタ足して、手で水かきな!」
「ぐぽっ……ごぼぼぼ……

 ぷばぁっ!げふぉげふぉ……わ、私、カナヅチなんですよ!?」
「何言ってんだい! だから練習するんだろ!?」
「無茶言わないでうわぁ流れが急にぃぃ ……ごぼぼぼ……

ぷばぁっ! げふぉげふぉ…… こんなの無茶です!? 
助けあぎゃ今度は波がぁぁ……ごぼぼぼ……」
「そんなんじゃ、流れや波にのまれるぞ〜。はははっ!」



「おい、しっかり固定されてるか?」
「大丈夫よ陣、問題ないわ!」
 ジゼルの声を受けて、高柳 陣はホエールアヴァターラ・クラフトのエンジンを掛ける。
 流れるプールで、ジゼルは「教官って程じゃないが」という陣に訓練を付けて貰う事になった。
 陣のパートナーで現代の水泳を学んでみたいという木曽 義仲(きそ・よしなか)と一緒に身体をロープで固定をし、
陣とユピリア・クォーレ(ゆぴりあ・くぉーれ)の乗る水上オートバイに逆走して貰う少々きついものの、今迄に比べれば遥かに人間的? 訓練である。
「激流に逆らって泳ぐというのは、体も鍛えられて良いな」
「そうね義仲、私もなんとかやってみるわ! 陣、ユピリア、お願い!」
「よし、じゃあそろそろ行くか。
 走るぞ!」
 面倒くさがりの陣が、わざわざ大声を上げて迄ジゼルと義仲に合図をしたのだが。
「ッ!?」
 いつの間にか彼のハンドルの握る手は上からがっしりと掴まれた手で固定され、踏もうとしたアクセルには既に先客が居たのである。
「ユピリア!?」
 慌てて振り向いた陣だが、この時ばかりは??普段、陣しか見えていないユピリアも後ろを向いて居た。
「一言、ジゼルに言っておく。

 あなたは泳ぐ事に向いてはいないの」
「……そんな……
 教えてユピリア、私の何がいけないの!?」
「いいわ、教えて上げましょう。
 あなたが泳げない理由。その原因は……

 そう、その胸!
 巨乳は水の抵抗を強めてしまうから、泳ぐのに適していないのy
」「何をアホな事を言ってるんだ」
 陣の突っ込み専用スリッパが炸裂した所で、ユピリアがアクセルを踏んだのかバイクはスタートした。
「くっ……息継ぎが上手く出来んが、これも訓練。
 このままくろぉるの息継ぎをマスターしてやるぞ!
 待っておれ、再テスト!」
「げほっげほっ」
「っジゼル殿、大丈夫か?」
 義仲は隣で溺れかけているジゼルを、ロープを引っ張る事で助ける。
「激流に飲まれないよう共に頑張ろうぞ」
「う……ん!」
――頑張るのよ私! 私が頑張って元気になると喜んでくれる人がいるんだもの!
  だからもっと頑張って、強くなってみせるんだから!!

「はあ……学校のプールとはいえ、真夏の水辺。
 スク水っていう普段見せない格好に、陣もドキドキ……って、思ってたのにどうして私がジゼルの訓練なの!?
 毎度おなじみ妄想劇場も殆ど出来なかったじゃない。
 ……まぁ、いいわ。頑張れば、陣っていうご褒美が待ってるわよね♪」
「ねぇよ。敢えて言うけど」
「もー陣ったら……

 ……やっぱり陣も巨乳がいいの?」
「は?」
「そりゃあまあ?
 ”無い”より”有る”方がいいわよねえ」
「何言ってんの?
 つーかジゼルのアレは別にデカくも無いだろ」
「はーん。 見てるんだ。
 大きさが分かるっ事はしっかり見てるんだぁ!?

 ……なんてゆーかぁ、水上オートバイって初めてだからぁ、ユピリアちゃんちょっと暴走するかもしれないけどぉ、


 許してね☆
 どす黒ウィンク。
 ユピリアは思い切りアクセルを踏み込み、前方の障害も後方の障害――もとい彼女の仲間と友人? を吹っ飛ばして進んで行く。

――巨乳なんて巨乳なんて巨乳なんてぇぇぇっ!!



「あれはまずいわね」
 ジゼルや義仲が飛ばされて行くのに、流れるプールのスピード調整パネルを前にセレアナ・ミアキスが気づいた。
 流れるプールでセレンフィリティ・シャーレットと彼女の二人は速度調整をしつつ教官としての仕事をしていたのである。
 このプールの流れるスピードがやたらめったら早いのは、主にスパルタ訓練を思い切り楽しんでいるセレンフィリティの仕業であった。
 カーブに差し掛かる場所や段差のある区画を中心にスピードを最高速にし、その上で波も一際高くする。
 それだけではサバイバルにはならないので、注意力散漫になっていないかサイコキネシスで物を投げたり、ペースが落ちたところを更に軽い眠気を誘うスキルを使う等、
心身ともに耐え切れるかどうかを厳しく査定していたのだ。
「セレン、訓練生の二人が吹き飛ばされたわ。
 一人は全く泳げないみたいだし、助けがあるまで一度水の流れる速度を弱めましょう」
「何を言ってるのセレアナ、こんなものじゃ物足りないわよ」
 当然のような顔をしてセレンフィリティがセレアナに言った時だった。
「そうよ、セレン教官!
 もっとスピードを上げて頂戴!」
 ジゼルの声が水面に飛び出してくる。
 セレンフィリティがジゼルの方へ向くと、ジゼルは犬かき状態で何とか進んでいた。
「いいわジゼル。あなた根性あるわね、気に入った!」
「ふふ、中々頑張るわね。私も協力するわ」
 セレアナは手の中に光りの稲妻を作り出し、ジゼルの目の前に向かって投げつける。
 水は流れるを通り越して荒れ狂い、さながら嵐の中に居る様な状況だ。
――溺れそう!
 でも私は、精一杯頑張るわ! 
  そうよ、絶対に泳げる様に
「なるんだからあああああああ!」
『スピードアアアアアップ!!』
 セレンフィリティの声と共に流れるプールのスピードは最高に上げられた。