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リアクション
「羽純くん……!」
遠野 歌菜(とおの・かな)は、カラスに連れ去られたパートナー、月崎 羽純(つきざき・はすみ)の姿を追って、木の中を駆け巡っていた。
歌菜の付けていた結婚指輪を狙ったのだろうカラスが襲いかかって来た時、羽純は咄嗟に歌菜を庇い――羽純の方がが連れ去られてしまった、という訳だ。カラスが狙った結婚指輪は、羽純の指にも光っていたので。
「絶対に助けるから……どうか、無事でいて……!」
超感覚を発動しながら、トレジャーセンスが示すおたからの気配を頼りに、足場の悪い木の上を必死に探し回っている。
カラスが光り物を集めているならば、トレジャーセンスにも引っかかるだろうと思ってのことだが、探索範囲が広すぎるのか、明確な反応は感じられない。けれど歌菜は、直感を信じて、こちらだろう、と思われる方向をひたすらに目指していた。
「あれっ、キミ、さっきまでは居なかったよね?」
と、いきなり背後に現れた気配に、歌菜は慌てて振り向いた。そこに立って居たのは、レキ・フォートアウフだ。
歌菜はきょとんとした顔でレキを見詰める。
「あ、もしかしてキミも、パートナーが攫われたとか?」
「え? う、うん、そうだけど……あなたも?」
「ううん、ボクは雅羅さんのお手伝い」
そう答えるレキの背後には、パートナーのカムイ・マギ(かむい・まぎ)が控えて居る。
「よかったら、協力しない? 多分キミのパートナーも、同じ所に連れて行かれたと思うんだ」
「うん、そうだね」
こうも広いと、歌菜一人で探すのはまず不可能だ。歌菜はレキの申し出を有りがたく受ける。
「じゃあ、ボクたちはこっちを――」
「レキ、危ない!」
歌菜と手分けする算段をつけていたレキを、カムイが突き飛ばす。と、先ほどまでレキが立って居た辺りを、鋭い爪が裂いていった。
「きゃっ!」
不安定な足場にバランスを崩すレキを、歌菜が慌てて受け止める。
「ヘルハウンド?!」
慌てて体勢を整えたレキが振り向くと、そこには牙を剥き出したヘルハウンドが、低いうなり声を上げていた。
「何でこんな所に?」
木の上で生活するのに適しているとは到底思えない種族だ。歌菜とレキの頭上に疑問符が浮かぶけれど、現に目の前に居る以上、この辺りをねぐらにしているのだろうと思われる。
「邪魔する奴は、容赦しませんっ!」
歌菜が気迫の篭もった表情で、手にダンシングエッジを構える。大切なパートナーを連れ去られた事で、だいぶ気が立っている様だ。
「どいて貰います!」
あ、とレキが何事か言いかけるが、それよりも早く歌菜が飛び出した。舞うように繰り出される剣が、ヘルハウンドの爪を絡め取り、翻弄する。
ぐる、とヘルハウンドが低く吠えた。その口に、炎のようなものが集まっていくのが見える。
「危ない!」
ヘルハウンドは口からファイアブレスを吐くことがある。が、こんなところでそんなものをぶっ放せば、一同丸焦げだ。
レキは慌ててヒプノシスを唱える。興奮している相手にどれほど効くのかは賭けに近かったが、一定の効果はあったようで、ヘルハウンドはがくり、とその場に前足の膝を折る。
「はっ!」
そこにすかさず、カムイの光条兵器による一撃が決まった。
相手を傷つけることなく、衝撃で気絶させただけだ。
「ありがとう、助かったわ」
歌菜はほっとした表情を浮かべ、武器を収める。
「パートナーが連れ去られて焦っていると思うけど、今は冷静になって下さい」
「そうだね。それに、この場では闖入者はボク達の方だから、あんまり動物たちを傷つけるのは気が進まないな」
「……それもそうね」
レキとカムイの言葉に、歌菜も落ち着きを取り戻したようだ。すうはあと大きく一つ息をして、それからふっと笑顔を見せた。
「確かに、焦りすぎてたかも。落ち着かないと、助けられるものも助けられないよね」
「そういうこと」
歌菜の言葉に、レキもにっこりと笑う。
それからレキと歌菜は改めて、探索が済んだ範囲について情報を交換した。そして、今後も連絡を取り合う事を確認し、お互い別の方向へと散っていった。
「巣はこっちじゃ、こっちといったらこっちじゃ」
自らの第六感だけを頼りに進んでいるのは、草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)だ。
「進路選択の根拠は」
それに付いていくのは羽純とパートナーを同じくするブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)。非常にロボットらしい外見をした機晶姫だ。
「お告げじゃ」
ブリジットの懐疑的な質問にも、羽純はしかし揺るがない。
突然訳も分からず巨大カラスに連れ去られたパートナーを追って此所までやってきたは良かったのだが、この広い木の中のどこに連れ去られたのかまでは流石に解らない。どうやら周囲には同じような境遇の契約者達が多い様だが、彼らもまだ巣の位置は特定出来て居ないのだろう。せわしなくあちこち飛び回っている。
「しかし、雅羅が関わっておるとなればある意味納得じゃが、発動回数が一定に達するとレベルアップでもするのか? あの体質」
漏れ聞こえてくる情報から、雅羅絡みであるということは察しが付いている。だが、雅羅の体質が第三者まで巻き込んで、直接の被害を及ぼすなんてことは今まで無かった、はずだ。
「甚五郎を連れて行ったのはおそらく、光り物を集めるというカラスの習性ゆえの行動でしょう。ホリイを纏っていましたから」
「いくらなんでも人間大のものまで集めるかのう……? まあ、なにはともあれ早いこと助けねば。パートナーロストする。行くぞブリジット」
「そうですね」
二人は頷き合うと、パートナーの姿を探してさらに進んでいく。
「イコナー、どこだー」
「イコナちゃーん!」
パートナーの名前を呼びながらワイルドペガサスの手綱を取るのは源 鉄心(みなもと・てっしん)とティー・ティー(てぃー・てぃー)だ。
「全く、荷物は守ったくせにイコナは守らなかったとか」
「わ、私だって、桃やブドウを守るために必死だったんです!」
鉄心からの白い目に、ティーは顔を赤くして反論する。
鉄心のパートナーであるイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が、ティーと二人で買い物をして居る途中、いきなりカラスに襲われたのだ。慌てて鉄心を呼び、カラスの後を追ってみれば、たどり着いた巨木の周辺には、どうやら同じような目的の契約者達。
「玉藻ー!」
と、鉄心たちの背後からまた一人。蹂躙飛空艇に乗った樹月 刀真(きづき・とうま)だ。その横には、小型飛空艇ヴォルケーノに乗った漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)の姿もある。
「キミたちも、誰か連れ去られたのか?」
「ん? ああ、パートナーが突然カラスに……」
「俺達もなんだ。その上、他にも同じような状況の連中が居るらしい」
顔に焦燥を滲ませている刀真に、鉄心が声を掛ける。
「早く見つけてやりたいんだ、協力しないか」
「……ああ、その方が良さそうだ」
目の前に広がる広大な森、いや、一本の巨木を前に、刀真は渋い顔で頷いた。
四人はそれぞれの相棒を駆って、四方へと散る。
木の内部を一人、枝伝いに飛び回って探索して居るのは、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)だ。
敏感に殺気を感じ取り、或いは神の目を使い隠れている動物やカラスたちを見抜きながら、迅速、正確な攻撃で沈黙させて進んでいる。
「あの子、ちゃんとおとなしくしてるかしら……人質向きじゃないもの、セレンの性格は」
はあ、とため息交じりに連れ去られたパートナー、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)のことを思う。
はじめ、パートナーが上着だけを残して消えた時には、一瞬何が起こったのか理解出来なかったが、同じようにパートナーを連れ去られたと騒ぐ生徒達が周囲に居た為、すぐ事と次第に気づくことが出来た。
おそらく上着を脱いで昼寝でもしていて、その下にいつも身につけているきらきらした素材の水着を、カラスに狙われたのだろう。
光り物を狙ったカラスの犯行ならば、おそらく巣に「収集」されているはず――と、雅羅達に同行し、ここまで追ってきたは良いのだけれど、何よりの心配は、パートナーがきちんと、囚われのお姫様で居てくれるかどうか、だ。すれ違っても厄介だし、攫われたことに腹を立て、見境無くして暴れられたら輪を掛けて厄介。
しかし、連絡を取ろうにも、セレンフィリティの携帯電話と銃型HCはそろって、彼女の上着のポケットから発見された。テレパシーの類いが使えないことを恨む。
「頼むから、大人しくしててよね――」
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