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第一章 見知らぬ大地に立つ

 街。

「あの兄弟さんがまた何かやってしまったようですが、このふぁんたじーな世界は素敵ですね。しかも本格的ですよ。私は普通に通りすがりの忍者さんですね。マスターは魔術師さんですか?」
 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)は楽しそうに賑やかな城下町を見回した。好奇心で『超感覚』の耳と尻尾がピコピコと動いている。
「……あぁ、そうみてぇだ。それより、あのアホ兄弟をさっさと見つけ出して説教してやらねぇとな」
 ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は答えるもフレンディスに溢れる好奇心に苦労の予感を感じて軽く頭痛を感じていた。
「ふふふー、今こそ優秀な犬たる僕が活躍する時代がやってきました! 僕こそは勇者なんて下等生物を超えた勇ましい犬、勇犬です! ご主人様見ていて下さい。勇犬たる僕の活躍でこの下等生物が住む世界が救われるさまを。エロ吸血鬼は僕の従者としてついてくるがいいのです」
 忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)は激しく尻尾を振りながら勇猛果敢愛らしく歩き始めた。年頃なのか何かを読んだのかこの世界に入ったショックなのか新たな世界に目覚めた様子である。
「……あの犬、何かに取り憑かれたか」
 ベルクはぼそりと言った。また吠えるばかりで役に立たないだろうと思いながら。
「待って下さい。まずは、お店で聞き込みですよ!」
 フレンディスは急いでポチの助の後を追った。
「おい、フレイ。あまり一人で勝手にウロウロするなよ」
 ベルクは、フレンディスの発言に嫌な予感を感じ、注意を促すもフレンディスはどんどん手近の店を聞き込みのために覗き回った。

 『陽竜商会』という看板が掲げられた店前。

「とうとう我輩(わたし)の時代が来た!!!」
 大商人クロウディア・アン・ゥリアン(くろうでぃあ・あんぅりあん)は看板を見ながら大声を上げた。
 お金大好きのクロウディアは仮想世界だというのに全く動じていない様子。むしろ絶好のチャンスだと思っている。
「ぐげるぐりぃぐがぁぅ?」
 恐竜の着ぐるみを着ているテラー・ダイノサウラス(てらー・だいのさうらす)は、何が起こったのか全く分かっていない様子。
「さぁさぁ、商売、商売。商人魂が燃える。二人共、ぼやっとするな。もったいないぞ」
 クロウディアは『根回し』で大量に用意した武器などを残像が見えるほどの速さで棚に並べ、のぼりを設置した。
「なんだかなあ」
 レオニダス・スパルタ(れおにだす・すぱるた)は、現実世界と変わらないクロウディアの守銭奴な様子に何とも言えない様子。
「仮想世界だが、全くそう感じないよ」
 グラナダ・デル・コンキスタ(ぐらなだ・でるこんきすた)は、商売の準備を手早く終わらせるクロウディアを眺めながら言った。
「まあ、良いんじゃない。やりたいこと出来るならね。とりあえず、あたしはテラーとマスコットでもするよ」
 レオニダスはグラナダに言ってからクロウディアが『根回し』で用意した剣と盾を装備し、テラーと外で客集めに行った。レオニダスは、マスコットなのに武装をしているが可愛いので何の問題も無い。
「……それならあたいは用心棒でもするか」
 グラナダもクロウディアが『根回し』で用意した強力な刀を手に仕方無く動き始めた。用心棒として店主クロウディアの側に控える事にした。

「お値段は張りますが、商品は高性能! 買って後悔一切無し! 覗くだけでも大丈夫ですよ! 買取も受け付けていますよ!! 陽竜商会をよろしくお願いします」
「がぎぁぅ、がぎぁぅ」
 レオニダスとテラーが声高く宣伝をする。ただ、テラーは何をしているのか分からないままレオニダスの真似をしていた。
 愛らしいマスコットに引き寄せられ、訪れる客達は多かった。
 商売の方は、己の意思は決して譲ろうとしないが、引き際も心得ているなかなかの大商人としてクロウディアは順調に売り上げをのばしていた。高額と支払い方法に文句をつける客がいても支払いの際に書かせた血判入りの誓約書を盾に受け流し、暴力沙汰はグラナダがさらりと片付けてしまう。
 買取も相手の足元を見まくりの上、支払金の半分は『愚者の黄金』という守銭奴っぷり。
 それでも愛らしいマスコットに惹かれてやって来る客は減らなかった。

 とある露店。

「スウェル、スウェル、この世界面白いです! 勇者と魔王の物語そのままですよ。胸が躍ります。町の人になって楽しみましょう。そうです、道具屋さんになって勇者さん達のお手伝いです」
 アンドロマリウス・グラスハープ(あんどろまりうす・ぐらすはーぷ)は広がる仮想世界に楽しそうに声を上げる。
「……うん。道具屋の兄妹で商売。アンちゃんがお兄ちゃん。勇者が魔王倒すまでのんびり楽しもう」
 アンドロマリウスに賛成するスウェル・アルト(すうぇる・あると)の口調は淡々としてはいるが、しっかりと楽しんでいる。
「それ、いいですね。さっそく、アンちゃん&スウェルの道具屋さん、本日開店ですよ!」
 アンドロマリウスは手を叩き、大きな声でさっそく道具屋を開店させる。
「……お兄ちゃん、はりきり者」
 アンドロマリウスが客寄せをしている間、スウェルは道具屋妹になりきりながら品物を並べたりした。
 道具屋をしながらのんびりと二人はこの世界を楽しんでいた。

 花屋。

「いやはや、またあの兄弟に巻き込まれるとはね」
 花屋兼庭師となったエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は、ロズフェル兄弟に呆れつつもどこか楽しそうである。それもそのはずで周囲には愛してやまない花達がいるのだ。
「……エース」
 店先の花の手入れをしているエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)は『人の心、草の心』で植物達と楽しくお喋りをしているエースを見て当分話は終わらないなと思っていた。
「いらっしゃいませ」
 エオリアは一人店の切り盛りを始めた。

 総合雑貨店。

「……良い武器、防具、アイテム、揃えられるだけ揃える事は出来ましたね」
御神楽 陽太(みかぐら・ようた)の子孫の御神楽 舞花(みかぐら・まいか)は偶然イルミンスールを訪れていた時にこの騒動に巻き込まれてしまったのだ。
 そして、『資産家』『貴賓への対応』『財産管理』を使ってたった一人でも十二分にまっとうな商人として頑張っていく舞花。
「あとは、来るを待つだけですね」
 舞花は店内に並ぶ伝説級の武器や防具、貴重なアイテムを眺めながら言葉を洩らした。
 商品は、探索や交易というか『掘り出し物』、『秘宝の知識』、『ダウジング』、『用意は整っております』を駆使して揃えたのだ。
 商人として精一杯勇者軍をサポートするために。
「……頑張りましょう」
 舞花は深く深呼吸をして気を引き締めた。

 露店、果物屋。

「……」
 店先に立つ店主清泉 北都(いずみ・ほくと)はきょろりと周囲を観察。見慣れない世界が周囲に広がり、馴染みのある状況を感じ取る。
「……なぁ、北都」
 横にいる白銀 アキラ(しろがね・あきら)も北都と同じ事を考えていた。
「巻き込まれたみたいだねぇ」
 犯人をよく知る北都はため息をつきながら言った。
「だよな。どうするんだ」
 白銀も同じように呆れている。
「とりあえず、町人としてやろうかな。その内、向こうからやって来るだろうし」
 北都は果物屋店主として活動する事にした。店をしていれば必ずあの兄弟がやって来ると思いながら。
「……それが一番だな。それじゃ、オレは看板犬にでもなって客に癒しを提供するか」
 白銀は狼に獣化して看板犬となった。
 果物屋は開店した。