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第四章 魔王討伐と帰還


「……おまえは元魔王軍だった者じゃな」
 城に向かうエヴァルトを発見した裕輝は長老的な感じで登場。
「……そうみたいだ。それでおまえは長老か?」
 エヴァルトは見たまんま裕輝の役柄について訊ねた。
「……そうじゃ、もしや魔王城に行くのか」
 裕輝はうなずき、エヴァルトが急いでいる事を思い出し、訊ねた。
「そうだ。おまえも行く予定か?」
 エヴァルトは答えた。
「いや、そんな無茶はするつもりは無いが」
 裕輝はゆっくりと答えた。自分が戦闘に参加する予定は一切言わない。他のみんなのようなヤル気がある訳では無いので。
「……無茶か。まぁ、ここ一帯爆発に巻き込まれるという話だからな。気を付けろよ」
 エヴァルトは苦笑した。確かに最後は自爆となるのにわざわざ行くのだから。
「うむ。そちらも気を付ける事じゃ、城は動き出し、裏門や抜け道を使い多くの勇者達が向かったようじゃから」
 裕輝は長老として情報を与え、エヴァルトを見送った。
「あぁ。終わりが近いという事か俺も急がないとな」
 裕輝によってエヴァルトは今の城の状況を知った。
 話を終えたエヴァルトはまた城へ向かって急いだ。途中、キスミの悪戯の被害に遭ったので早くしなければ到着する前に終わってしまうかもしれない。

「……オレも行くかな。無茶をしにな」
 エヴァルトを見送った後、裕輝は隠れ陰陽師として活躍するべく城に向かった。

 魔王城、正門。

「……門番がいないな。誰かが倒したのか」
 何とか到着するもいるはずの門番はおらず、あっさりと入る事が出来た。実は、オデットが裕輝から貰った毒の粉で倒したのだ。
 エヴァルトはまっすぐにヒスミの元へ急いだ。

 街。

「アスカさん、来たみたいだよ。行くのだ」
 薫が疲れ切った顔をしているキスミと監視人達を発見し、アスカ達に教えた。
「……お疲れだねぇ。よし、行こうか」
 アスカは苦笑気味にキスミの様子を見た後、ホープを伴って薫達と一緒に仲間にして貰うために行った。

「……何か帰りたい。頭ん中、勇者の使命がどうのこうのとぐるぐる回ってるんだけど」
 キスミは思わず本音を洩らした。周囲を逃げられないようにがっちりと囲まれていて愉快や楽しいなどどこにもない。その上、脳内では勇者の使命が永遠と回り続け、精神的にも辛い。ちなみに樹が手に入れた剣はきっちりと装備させられている。
 前方は樹達が歩き、樹の『指揮』で勇者キスミチームはとりまとめられている。キスミの側にはルカルカ達、後方はセレンフィリティ達が担当している。逃げようとするとヴァイス達とアゾートが現れるので逃げる事も出来ない。
「それは私の台詞だ。さっさと魔王を退治して元の世界に帰してくれ」
 樹が苛立ちながら言った。
「……まぁ、それは」
 樹の正当な言い分にキスミは言葉を濁らせた。

「我らも一緒にいいかなぁ」
「私達も城へ行こうと思ってるんだけど」
 薫達とアスカ達は予定通り、キスミに声をかける。
「……別にいいけど」
 疲れて思考力が低下しているキスミは怪しむ事無く返事をした。
「……やっぱり、どこかで食事をしてから」
 キスミがぼそりと元気なく言った。もう自分を監視している視線に耐えられない。怪我はすっかり癒して貰っているが体力と精神に多少の限界が来ている。
「……」
 アスカは黙って名も無き画家のパレットナイフで軽く殴った。
「いってぇなぁ。ただ、みんなも疲れただろうから休憩でもと思って」
 軽くても痛いものは痛い。キスミは殴られたところをさすりながら恨みがましい顔でアスカをにらんだ。
「だめだよ。そんな事言って逃げ出すつもりだよねぇ」
 アスカはみんなを代表して注意。手には変な事を言ったらもう一撃加えようとパレットナイフを構えている。
「宮廷画家なのに暴力過ぎねぇか。画家って絵を描く奴だろ」
 キスミがツッコミを入れる。
「私は宮廷画家ではなくて水彩騎士。だから問題無いよ〜」
 アスカはさわやかに名乗る。
「……何だよそれ」
 不満そうな顔でまだアスカをにらんでいた。
「お腹空いたのならルカのチョコバーをあげるよ」
 ここでルカルカは持っていたチョコバーをキスミに渡した。アスカの言葉通りどこかの店で一休みをしようならば逃げられる可能性が大なので。それは他のみんなも分かっている。
「……むぅ」
 キスミは、渡されたチョコバーを仕方無くかじる。
 こんなに人数が多いとやっぱり逃げられない。

「しかし、規模が超えててアレだけど、兄弟仲が良いね」
 キスミの横を歩くホープは同じ兄弟形態のためか多少の親近感を持ちながら話しかけた。少しだけ兄弟で仲良く遊べる事に羨ましいと思っているようだ。
「……んー、そうかな」
 キスミはぼうと考える。それほど兄弟仲を改めて考えた事は無かった。幼い頃から今に至るまで気付いたらほとんど一緒につるんで悪さをしていたから。
「キスミって自分の兄さんと喧嘩したり気まずい思いしたことないの?」
 ホープはさらにキスミに訊ねる。
「喧嘩とかはあるかなぁ。いつもヒスミの奴がやり過ぎてオレまで怒られたりとかあってさー、今回だって」
 キスミは今までの事を思い返す。二人の喧嘩の理由は、動物変身薬を巡る騒ぎのように自分が上だとか言って揉めるような幼稚な事がほとんどである。

「……仲が良いのはいいんだけど、二人共悪乗りし過ぎだよねぇ」
 薫はため息をつく。やり過ぎるヒスミを面白いからと言ってキスミが止めなかったのは明白なので。責任は二人共等しくある。

「……でも一緒にいるんだ。兄離れとか考えないわけ?」
 とホープ。
「将来は分かんねぇけど、今は考えてないかなぁ。二人の方がおもしれぇし」
 キスミは、ホープの問いかけにニカッと笑いながら答えた。
「……その面白いに他人を巻き込むのはどうかと思うが」
 悪びれる様子の無い笑顔に孝高の一言。
「……」
 思わず沈黙するキスミ。実際に巻き込まれている人に言われると言葉がを失う。
「それに双子だからさー、入れ替わってもばれなくて、面白いし割と便利だし」
 キスミは再び悪戯っ子の笑顔でホープの話に戻った。
「……そうなんだ」
 ホープはそう言って黙った。道がずれていなければ、ロズフェル兄弟のように自分も兄さんと仲良くしていた時があったのかなと考えていた。
「……ホープ」
 アスカはホープが自分の兄弟関係の事考えているのだろうと察し、静かに様子を見ていた。
 勇者キスミチームは森の入り口に到着した。

 森、入り口。

「連れて来たぞ」
 先頭組の樹が森の入り口に立つ北都と白銀に呼びかけた。

「それじゃ、行こうか。今はちょうどモンスターが少ないみたいだしね」
「ついて来いよ」
 森の案内として果物屋店主の北都と看板犬の白銀が加わった。森の方は北都の『禁猟区』でモンスターがいない時を選んでいるのでまっすぐ魔王城を目指すだけだ。
「……またかよ」
 北都達と再開したキスミの表情は優れなかった。

 森の中をさまよう一行。
「……地図だとこの周辺だけど」
 北都は勇者キスミチームの一人から借りた地図で現在地を確認。
「ここじゃないか」
『超感覚』で周囲と様子の違う場所を見つけた白銀が土をどかしてそれらしき場所を示した。
「ここだな。さっさと行って来い」
「僕達は少しここにいるから」
 案内を終えた白銀と北都は勇者軍達を見送った。

「……魔王軍に乗り込むぞ」
 樹を先頭に抜け道を通って城壁の内側へ。