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学生たちの休日9

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学生たちの休日9
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    ★    ★    ★
 
「この辺は、小洒落た店ばっかりだなあ」
 洒落たブティックの前で、店の中をちょっとのぞき込んで、瀬乃和深が言った。
「和服ではないですし、ちょっと私には似合いませんね」
 他の所へ行きましょうと、上守流が瀬乃和深をうながした。
 そのブティックの中では水原ゆかりとマリエッタ・シュヴァールがお買い物の最中だった。
「秋にむかって、こんなのはどうかなあ」
 試着室から出て来た水原ゆかりが、マリエッタ・シュヴァールの前でくるりと一回転した。
 水色のサマーワンピースのスカートがふわりと広がり、上に羽織った白いカーディガン裾がそれに合わせてマントのように広がった。
「似合ってるわよ」
「ふふっ」
 マリエッタ・シュヴァールに言われて、水原ゆかりが嬉しそうに白いつば広の帽子をわずかにかたむけて目深に被る。
「マリエッタにも選んであげる」
 そう言うと、水原ゆかりがマリエッタ・シュヴァールを試着室に引っ張り込んだ。
 ややあって出てきたマリエッタ・シュヴァールは、レモンイエローのキャミソールとティアードスカートに着替えていた。ただ、このままではあまりにも夏っぽい。
「できれば、秋物のコートとブーツも合わせてコーディネイトしたいんだけど……」
「もちろんです。さあ、一緒に選びましょう」
 水原ゆかりはマリエッタ・シュヴァールの手を取ると、今選んだ服と合わせる小物を物色し始めた。
 さすがに、あまりおねだりするのはよくないと、マリエッタ・シュヴァールは必要な物だけを選んだ。もともと、今日は水原ゆかりの昇進祝いなのだから、あくまでも主役は彼女だ。
 
    ★    ★    ★
 
 着飾った水原ゆかりとマリエッタ・シュヴァールがブティックを出ていくのと入れ違いに、及川翠たちがわいわいと店に入ってきた。
さて、どうしようかのう。洋装は、あまりなじみがないのじゃが……」
 ならぶ洋服を見て、神凪深月がちょっと困ったように言った。
「じゃあ、私が選んであげる。これなんかどうかなあ」
 そう言うと、オデット・オディールが透かし編みの黒いカーディガンをハンガーから取り出した。それを神凪深月の身体に当ててみる。
「に、似合うかのう……」
「うん、とっても。じゃあ、私はお揃いの白いのにしようかなあ。ねえ、着てみようよ」
「それじゃあ、ワンピースとかにしないと合わないよね。どれどれ、これなんかどうかなあ」
 濃いめのグリーンのワンピースを選んで、ネスティ・レーベルが言った。オデット・オディールと共に試着室に神凪深月を連れ込んでさっそく着替えさせる。
「うー、これ大人っぽくて着てみたいけど、私には無理だなあ。はあっ〜」
 シルクでできたチャイナドレスを手で触りながら、瀬乃月琥が溜め息をついた。瀬乃月琥の身長に合うサイズの服は子供服しかない。さすがに、ここには子供服はおいてはないようだ。
「えっ、パートナーが増えた? はいはい、詳細は後で聞くから。今は後にして」
 突然かかってきた携帯に出たシルフィア・レーンが、そそくさと通話を切った。今は、服を選ぶのに忙しいのだ。
「うん、なかなか似合っているよ」
 試着室から出て来た神凪深月の姿を見て、シルフィア・レーンがニッコリと微笑んだ。
「そうか。じゃあ、今度は、誰かを和風に……」
「それだったら、ルノちゃんがいいと思うんだもん」
 ちょっと手持ち無沙汰にして浮いていたリキュカリア・ルノの背中を押してきながら及川翠が言った。
「えっ、ボ、ボク!?」
「ようし、わらわに任せるのじゃ
 戸惑うリキュカリア・ルノをみんなで試着室に連れ込むと、神凪深月の見立てで衣装チェンジさせる。
 出てきたリキュカリア・ルノは、超ミニの浴衣ドレスだった。下がショートパンツなのがちょっと合わないが、意外とエキゾチックで可愛い。
「これだと、下はスコートなんかの方がエロ可愛いかなあ。ちょっと穿いてみよー」
 ネスティ・レーベルが、いそいそと下着売り場に突撃する。
 わいわいと、女の子たちのファッションショーは続いていった。
 
    ★    ★    ★
 
「ええっと、確かみんなはこの辺で待っているはずなんだよね」
 ショッピングモールの中を移動しながら及川翠はパートナーたちを捜していた。待ち合わせをしているので、残念ながら女子買いのグループを先に抜け出してきたのだ。
「ぽんぽこぽーん♪」
「あれって……」
 なんだか見慣れたタヌキを見つけて及川翠が足を止めた。ペットショップの店先にはタヌキがいて、その両脇にはフェニックスとサンダーバードがパタパタしている。
「おやおや、可愛い召喚獣ですねえ」
 肩に極彩色の鳥を乗せたジェイドが、面白そうにペットショップの中をのぞき込もうとした。
「おいおい、いいかげんに寄り道はやめてくれ」
 ちょっと呆れたようにオプシディアンが言った。
「いいじゃないですか、たまの遊びなんですから」
「お前はいつも遊んでいるじゃないか。だいたい鳥の趣味もなあ……」
「まあまあ。あのタヌキはちょっと飼ってもみたいですかが……」
 言ったとたんに、サンダーバードとフェニックスがギロリとジェイドの方を見た。
「いいかげんにしろ」
 これ以上ここにいるとろくなことにならないと、オプシディアンがジェイドを引きずっていった。
「なんだか大人気なんだもん」
 オプシディアンたちが去った後に、及川翠がじっとタヌキを見つめた。
 ふっと、タヌキが目を逸らす。
「やっぱり、瑠璃ちゃんでしょ。ミリアとティナはどうしているんだもん?」
「えっと、中でもふもふしてます」
 徳永 瑠璃(とくなが・るり)が、ぽんぽこぽんと元の人の姿に戻って答えた
 ペットショップの中に入ってみると、ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)ティナ・ファインタック(てぃな・ふぁいんたっく)がたくさんのわんことにゃんこをもふもふともふり続けている。もう完全にわんこにゃんこまみれだ。
「えっと、ここお店だよね。なんだか、思いっきり迷惑かけているような……」
 どうしようかと困惑しながら、及川翠が言った。
「大丈夫。ちゃんとお金は払ったから。ここにいるのは、もう、みんなうちの子だよ」
 もふり続けて半分とろけたような顔でミリア・アンドレッティが及川翠に言った。
 いいのかと思って及川翠が店員さんたちの方を見ると、買ってくれたのでもうしょうがないという顔で肩をすくめている。
「可愛いですよー。みんなも買っていきましょう。新しい家族を増やしましょー」
 もふもふしながら、ティナ・ファインタックがなぜか営業活動を始める。
「にゃんこ買ってくださーい」
 ミリア・アンドレッティもノリノリだ。
「ええっと、私はいったいどうすれば……」
 呆然としつつも、わんにゃんたち分の餌皿とおトイレとカリカリを買い集める及川翠であった。
 
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「ふう、ちょっといろいろ買いすぎちゃったかなあ」
 レストランのテーブルの足許に戦利品の紙袋をいくつもおいて、水原ゆかりが言った。満足してしまったので、ちょっと疲れてしまった。
 壁に若手の絵画が飾ってあるカフェギャラリーは、ちょっと落ち着く空間だ。気に入った絵があれば買うこともできるが、今日はそこまでするのは贅沢すぎるだろう。見たところ、マリエッタ・シュヴァールも少し遠慮して買い物をしているようだし、よけいな気を遣わせてしまったのかもしれない。
 次は佐官だと思いながら、昇進は実質部下に対する責任が増大するということでもある。そう考えると、自分はまだまだ配慮が足りないとではないかと思ってしまう。
「このケーキ美味しいよね」
 そんな水原ゆかりのフレッシャーを感じとってか、マリエッタ・シュヴァールが努めて明るく話しかけてくる。
「うん、美味しいわね」
 今はマリエッタ・シュヴァールの気遣いに甘えて、水原ゆかりはニッコリと微笑んだ。