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デート、デート、デート。

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デート、デート、デート。
デート、デート、デート。 デート、デート、デート。 デート、デート、デート。 デート、デート、デート。 デート、デート、デート。

リアクション


●Happy goes Luckyもたまには……ね

 そんな嬉しい(?)アクシデントもありつつ、明日香とエリザベートはメイン目的であるウォータースライダーへと移動した。
「ざっぶーん、ですぅ!」
 最初はおっかなびっくりだったがエリザベートも楽しめるようになったらしい。一人乗りを切り上げて、明日香とともに二人乗りを楽しんだ。
 きゃっきゃと声を上げるエリザベートと明日香の真横で、ざぶんという音を数十倍に拡大したような強烈な『ざぶん』が落ち、ありえないほど高い水柱が上がった。
 しばし、ただ呆然と明日香とエリザベートはそれを見つめていたが、
「わぁ、まだお昼なのに夜の花火があがったようですー!」
 やがてふらふらとその爆心地から、ミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)がまろび出てくるのを見たのだった。
 同様にコントの爆発後ヘアーの要領で、なんとも四方八方に破裂した感じの頭髪になったエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)がこれに続いて出てきた。
「誰だ蹴りやがった狼藉者は……!」
 エヴァルトはなにかベロベロになった敷物のようなものを手にしているが、よく見ればそれが、ウォータースライダー用のゴムボートの残骸であることがわかるだろう。なにせただの滑走ではなく、目に余るほど加速のついた亜音速でブッ飛んで来たのである。怪我をしていないだけでも奇蹟かもしれない。
「ってやっぱりお前かーっ!」
 エヴァルトは頭上をクワと睨み、ブースターを減速しながら降りてくるロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)に声を上げた。
「なにが『大丈夫、任せて』だ! いい加減なこと言ってウォータースライダーに突入させだだろうが! その上ブースター全開のキックまでかましやがって! 普通の人間ならバラバラになっていたぞ!」
 エヴァルトの言う通りで彼とミュリエルは、二人乗りウォータースライダー用のゴムボートに乗ったところでロートラウトの全力強襲を背に受け、ついさっきまで人類未到のスピードの世界に突入していたのだった。
 されどロートラウトは、チッチッチとでも言いたげに指を振って訂正した。
「『大丈夫、任せて』って言ったんじゃないよ。こう!」
 なぜか中指をビシリと立て、ロートラウトは宣言したのである。
「だーいじょうぶ! まーかして!」
 なんとなく眼鏡をかけたほうが似合う感じで声を上げた。
「全然大丈夫じゃなかったぞコラー!」
「そうカッカしない。人生には息抜きというものが必要だよー」
「おまえは息抜きのあいまに人生やってるんだろう」
 それを聞いてあはははと笑いながら、ロートラウトはプールにぽちゃりと着水した。さっきは中指立てだったのが、ここで唐突に彼女はVサインした。しかしそれはVというよりは、立てた指をやや曲げた妙な形のVである。
「やぁ。R(あ〜る)・ロートラウトちゃんだよ」
「ロートラウトさん、前髪が垂れて片眼が隠れてますー」
 などと合いの手を入れるミュリエルを押しのけ、ふたたびエヴァルトがロートラウトに詰め寄った。
「急にキャラを変えるんじゃない! ……じゃなくて、おいこら、正気に戻れ! お前は機晶姫だ、アンドロイドじゃない!」
「ロボットじゃないよ、アンドロイドだよ」
「『ロボット』だなんて言ってないだろ! 文字通り頭のネジのひとつでも外れたか!?」
「ご飯……」片眼が隠れたままのロートラウトがまた、突然こんなことを言った。
「ご飯?」
「ご飯を食べられないとお腹がすくじゃないか。お腹がすくと怒りっぽくなるじゃないか。怒ると胃に悪いんだ。胃が悪いとご飯が食べられなくなるんだぞ。ご飯が食べられないとお腹が……」
「もういい! もういいから! だからロートラウト、そーいう色々危ないネタやめろって!」
 黙ってくれ、とエヴァルトはロートラウトの両肩に手を置き、前後にぶんぶんと揺する。すると、なにやらぽろぽろとロートラウトの体より落ちて、プールにぽちゃぽちゃと降ったのだった。すぐにそれが何か気づいて、エヴァルトはまたもや青ざめた。
「だぁーッ、ネジ落とすなーッ!」
「するとお兄ちゃんがさっき言った『頭のネジのひとつでも外れたか』は真実だったというわけですね」
「そこ! ミュリエルもつまらないこと言わない! ていうかネジ拾って、マジで」
 怒ったり嘆いたり泣きそうになったり、なんだか今日は表情のころころ変わるエヴァルトである。
「あれ、ネジがいっぱい落ちたから首が外れそうだよ。そうだ! 花火大会になったら、首だけ高いところに置いてよく見えるようにしよう……って、ボクってそんな構造してたっけ……まぁいっかー」
「まぁいっか、じゃなーい!」
「お兄ちゃん、楽しいデートですね」
「どうしてそういう結論になるんだーっ!」
 ……といった塩梅で彼らは、なんとも騒がしいデート(?)となりそうなのであった。

 寄せては返す波である。
 とはいえそれは海の話ではないのだ。いわゆるひとつの波の出るプールなのだ。
 しかしいくら人工の波とはいえ、自然のそれと同様に、決して同じ波はない。少しずつ変化している。満潮と干潮も、このプールにはあるらしい。
 榊 朝斗(さかき・あさと)はプールサイドの席を確保しながら、波の出るプールに遊ぶ仲間たちを見ていた。こうのんびりするのも久しぶりなような気がする。
「そういやルシェンもアイビスも色んな出来事を重ねてきたからか、すっかり変わったなぁ……」
 ふとそんな呟きが口をついて出た。
 朝斗はルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)とは昔からの付き合いだ。けれど、それまでは『どこか冷ややかなところはあるが、基本的には優しい姉』的な性格というイメージしかなかったものの、ともにパラミタに来てからは彼女の、随分といろいろな側面を見ることができた。クランジΟ(オミクロン)にキスされた朝斗を見て本気で怒っていたルシェン、かと思えば今度はそのオミクロンからキスされて動転するルシェン、ネコ耳メイド絡みだと人が変わったかの様に暴走したり、人に注目され続けるとなんか吹っ切れて高飛車な感じになったり……そう、今やすっかり名声(?)が広まったルシェンの第二人格とも言うべき『魔法少女ダークローズ★ルシェン』のことだ……最初に出会った頃からすると、本当に、かなり変わった。
 そんなことを考えていると、朝斗の視線はどうしてもルシェンに集中してしまう。
 女性というのは男性の視線に敏感だ。ルシェンも然り、それまで他愛もなく泳いで遊んでいたのが、朝斗の目に気づいてたちまちぽっと顔を赤らめた。
 ――あぁ……私をあんまり見ないで。
 体が燃えるような気がする。今現在の朝斗の目は、ルシェンからすれば熱い眼差しに感じられた。自分がガゼルになり、チーターの注視を浴びているようにも思えた。露出控えめの水着にしたつもりだが、それが却って、朝斗の視線を鋭くしたのかもしれない。隠れているからこそ、見たくなるものがあるというわけだ。やはりきっちりとデートということにして、朝斗と二人っきりで来るべきだったろうか。そして一日、恋人のようにふるまって彼の求めに応じてあげてもよかっただろうか。キスしたいのならしてくれていい。体に触れたいのであっても許そう。けれどそれ以上は……どうしよう。もし激しくされたりしたら……。
「ルシェン、どうかしましたか?」
 朝斗と同じプールサイドから、不思議そうな表情でアイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)がルシェンを見ていた。
「体温が急速に上昇しているようですが、何か具合でも悪いのですか?」
 アイビスからすれば謎だ。ルシェンの体調は万全のはず。なぜあんなに赤くなり熱くなっているのか。周囲の水が沸騰しそうなくらいに。
 今度はそのアイビスに、朝斗の視線は向いている。
 アイビスは朝斗と出会った頃は、無関心・機械的な雰囲気があったのだが、その面影は今ではすっかりなくなっていた。
 ――なんというか人間だった頃に戻ってきてるってことかな?
 そんな風に朝斗は考えていた。1946年の日本に飛んだときも、赤ん坊の世話をしているアイビスはまるで母親のように見えたものだ。アイビスの母親もきっと、あのように彼女に接していたのだと思う。その『母親』にあたる人物を、探すと朝斗は彼女に約束した。それは今年の年始のことだ。叶えてやりたいものだが……。
 女性というのは男性の視線に敏感だ。アイビスだって然り。
 ――朝斗が私を見ている?
 最初にアイビスは断ったはずだ。「プールはどうも苦手です。この身体ゆえ泳ぐことができませんので」と。以前はそれをなんとも思わなかった。だがこの頃は違う。たとえば今日、ルシェンや、同行している富永 佐那(とみなが・さな)を見ていて、なんとも羨ましい気持ちになったのは事実だ。アイビスはこの体だ。泳ぐはおろか、お洒落などもあまり楽しめない。それを惜しむ哀しさが、女の子というものなのだろうか。それを朝斗は見抜き、哀れんでくれているのだろうか。
「朝斗……この頃の私……やっぱり変ですか」
 アイビスは朝斗に問いかけた。
「変じゃないよ。確かに変わったけど、前よりずっと魅力的だ」
 女性というのは男性の視線に以下略。一方ルシェンは、朝斗の目が自分から離れアイビスのほうに向いたのを感じ取った。見られたら照れるが、見られないと、不満だ。プールサイドに行こうとじゃばじゃばと水をかきわけて歩むと、朝斗がアイビスに話しかけているのが見えた。聞こえた。
 彼の言葉の大半は聞こえなかった。だが末尾の『…………ずっと魅力的だ』だけは耳が捉えていた。
 アイビスが魅力的? それは認めるにしても、もしかして……!
 本日のルシェンも少し舞い上がっているので、『魔法少女ダークローズ★ルシェン』的に妙な思考回路が形成されていた。つまりこうなった。
 ――もしかして、どれだけ求めても応じてくれない私(ルシェン)より、最近とみに女っぽくなってきたアイビスのほうが『ずっと魅力的だ』って言ったとか!?
 ここは泣くべきなのか拗ねるべきなのか怒るべきなのかいやもうどうすればわからない。紅潮したままプールから上がって駆け出し、ルシェンは朝斗の襟首を両手でつかんでいた。無我夢中だった。
「朝斗! それならそうとはっきり言ってよね! 私に!」
「え? えっ……? ルシェンいきなりどうしたの?」
「そりゃ私はネコ耳メイドあさにゃんが好きよ。さかのぼって言えば朝斗とのファーストコンタクトもかなり印象悪いものだったかもしれない。でもね、だからといって、朝斗を男性として意識してないはずないじゃない!」
「ルシェン、言っている意味が……?」
だって私、朝斗のこと……
 このとき、
「ルシェン、誤解しているようですね」
 と、冷静にアイビスが口を差し挟まなければ、ルシェンはもう一言、決定的な言葉を口にしていたかもしれない。
 朝斗はまだ、何が何やらわかっていないが、それでも、
「そ、そうだよ。誤解だよ」
 そう言うことだけはできた。
「誤解…………なのね」
 針で突いたゴムボールから空気が抜けるように、みるみるルシェンの中で燃えたぎっていたものは萎んでいった。正直、危なかったかもしれない。
 まだ事態が理解できていないがとにかくほっとした朝斗。
 自分がかなり暴走したことに気づき、穴があったら入りたい気持ちになっているルシェン。
 そんなルシェンを鎮めることができて安堵しており、自分の悩みが一時的に消えたアイビス。
 ……という奇妙なトライアングルが形成され沈黙が流れたが、永遠に思える十数秒後ようやく朝斗が言った。
「ええと、そういえば……ちびあさと佐那さんはどこ行ったんだ?」
 実はそれほど、遠い場所に佐那はいるわけではなかった。同じプールサイドの少しだけ離れた場所のテーブルに突っ伏すようにして、ジュースのボトルを握って酔いつぶれた(もちろんノンアルコールなので酒ではなく彼らの青春模様という雰囲気に酔った)状態でクダを巻いていたのだった。
「ひっく……朝斗君とルシェンさん、お似合いですね。なんだかルシェンさんも絡んで、トレンディーですねドラマですね……こうなったら……誰か呑みませんか。今日はトコトン飲み明かしましょう! そして聞いて下さい! 寂しい女つまり私の物語を……!」
 本当に佐那が、孤独で寂しいわけではないのだ。ただ、事情があって会いたい人ともなかなか会えないだけなのだ。なんだか泣けてきた。
 ところが涙こぼれそうな佐那の肩に、このとき小さな手が載せられた。
「ちびにゃん……こんな私を慰めてくれるんですか? ありがとうございます……!」
 ちび あさにゃん(ちび・あさにゃん)だった。
 ちびにゃんは言葉を話さない。けれど言葉は理解できるし、書くこともできる。
 ちびにゃんはこのとき、一枚のメモを佐那に手渡した。
「え? 『元気出して。面白いものを見せるから』って……?」
 佐那が顔を上げたとき、ちびにゃんは何かをつかんで全身を使い、これを投げた。実はただのビーチボールだったわけだが全力で投げると結構な勢い。これが、バシンと朝斗の頭に命中した。あんまり勢いが良かったもので、朝斗は動転して足をもつらせ、ばしゃんとプールに落ちてしまった。
「あははは! 面白い!」
 佐那は思わず手を叩いて笑った。
「お礼に、ちびにゃんにプレゼントがあります……『私をプールに連れてって券』! ちびにゃん、お返しに今日は一日、一緒に遊びましょう♪ カップル成立ですね」
 ちびにゃんも首肯して佐奈の肩に飛び乗った。
「さあ腐っていても仕方がない。今日はこれから遊び倒しますよー♪ ビート板を使って流れるプールで遊びたいし、ウォータースライダーでちびにゃんを抱っこするのも楽しみだし!」
 佐那はすっかり元気を取り戻している。デート、デート、デート! 今日はちびにゃんとデートだ。
 ちびにゃんは大きく頷いて、
『佐那と一緒に遊んでくるね〜』
 とメモを残すと、ひょいと跳躍して佐那に従った。