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【ぷりかる】打倒! 誘拐犯

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【ぷりかる】打倒! 誘拐犯

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第四章

「あら、かかりましたね」
「きゃはっ。ばかなヤツら」
 アルコリアは、複数人の気配を感じると、相手を驚かせないようにゆっくりと振り返った。
 仮面姿の人物たちがゆっくりと囲むように輪を縮めてくる。
「なにかごよう? ぱんけーきのトリプルでてをうってさしあげます」
 8歳児の姿でそう提案するアルコリアに、犯人たちは一斉に間合いを詰めると、アルコリアにさっと布を被せ、そのまま抱き上げ走り始める。
「サクラコ!」
 複数人の足音に、司が声を上げる。
 ちょうど二人が足を踏み入れた広場を、大きな布を抱えた仮面たちが走り抜けようとしているところだった。
「ちょっと! こんなに素敵な令嬢が目の前にいるのに、無視はひどいんじゃないですかー?」
 布を抱えた二人を行かせると、他の仮面の前にサクラコが立ち塞がり、いきなり見事なケリを食らわせた。
「臆病とのことだし、お面をもいだら戦意喪失でもするかもしれんな。武器に不自由なことだし、ちょっとお面を狙ってみることにしよう」
 そう呟くと、司はサクラコに呆気にとられていた犯人たちの背後から回り込み、手刀で仮面を狙っていく。
「こんな大人数で、困った変態さんたちですねっ!」
 ドレスで動きを制限されつつも、効率の良い動きでサクラコが打撃を食らわせていく。
「ああ、そうだサクラコ。暴れまわるのは別に構わないが、あんまり汚すんじゃないぞ。上等な服は一度汚すとどうしようもないからな。もったいない」
 犯人たちに攻撃を加えながら司が心底もったいないといった口調でサクラコに注意を促す。
「はいはい、うるさいですねー。分かってますよっ!」
 勢いに押された犯人たちがバラバラの進路で逃走を図り始める。
「目標を狙い撃つ!」
 近くの建物の屋上に潜んでいた笹奈 紅鵡(ささな・こうむ)が犯人の足元を狙い射撃を行う、怯ませる。
 その隙に、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)がサイドワインダーの要領で両方のワイヤークローを射出し、サイコキネシスで軌道を調整すると、犯人たちを囲い、ワイヤーを使って締め付け、クロー部分を握ってドラゴンアーツで引きずる。
 その軌道に合わせ紅鵡がライフルを連射し、犯人たちを威圧する。
 エヴァルトがワイヤーを解くと司とサクラコが飛びかかり、二人を地面に押し付ける。
「悪いが、俺は騎士様と違って正々堂々を謳えるほど強くないんでな……事件解決のためなら卑怯だろうがなんだろうがやるさ」
 そう宣言するとエヴァルトは残った犯人たちを次々と殴り倒していく。 
「食らえっ!!」
 紅鵡は倒れた犯人の近距離に弾丸を撃ち込むと、犯人たちを失神させていく。
 犯人が全員動けない状態になると、紅鵡は急ぎソフィアに連絡を取った。

「ま、今さらな気もするが。よろしく頼む。これからもな。……挨拶したてで言うのも失礼な話だが、進んで誘拐しようって雰囲気じゃないわな、アントニヌスさんは。まぁ、悪人面の俺が言えた台詞でもないか」
 現れたソフィアにエヴァルトが苦笑いを浮かべながら挨拶した。
「こちらこそよろしく頼む。皆、よくやってくれた」
「2人は囮を連れて逃げてるぜ」
「ああ、別のチームに尾けてもらっている。ここで伸びている者たちを自警団に届けてもらえないか?」
「分かりましたー。ぽぽいっとぶっこんどきますね」
「ワイヤーで引き摺っていけばいいな」
 サクラコとエヴァルトが早速犯人たちを引き摺っていく。
「そなたは他の地点へ移動してもらえるか?」
「すぐに向かうよ」
 ソフィアに頷き返すと紅鵡はすぐさま別の地点へと移動を開始した。

 近くでは、ルーシェリアが一人ゆったりとした足取りで歩いていた。
 ウィンドウショッピングを楽しむお嬢様のように、きょろきょろと周りを見回しながら進んでいく。
「あらあら、ほんとに来ちゃいましたねぇ」
 ルーシェリアは店のガラスに一瞬映った影を見逃さなかった。
 さりげなくアルトリアに合図をすると、アルトリアはすぐさまソフィアに連絡を取る。
 次の瞬間、仮面の人物たちが一斉にルーシェリアに接近した。
「お嬢様、ご無事ですか!?」
 飛び出した北都がルーシェリアと犯人たちの間に入り込む。
 驚いた犯人たちが逃げようとすると、犯人たちの輪を囲むように、アルトリア、昶、白鳥 麗(しらとり・れい)サー アグラヴェイン(さー・あぐらべいん)騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が迫っていた。
「へー。みんな生物は生物みたいだね」
 物音を立てないように近づきつつ、付近に潜んでいた詩穂たちは、ソフィアからの合図で一斉に飛び出したのだ。
 犯人がカラクリではないかと疑った詩穂はまず銃型HC弐式を使って確認するが、犯人の数だけきちんと反応が出たことに対し、呟いた。
 飛び出すまでの隠密行動ように、どう見てもか弱いとしか思えない見た目で急所狙いを繰り出す姿は、鬼気迫るものがある。
 自分の横をすり抜けて逃げようとする犯人たちには容赦なく必中技で動きを止めていく。
「目的は気になるんだよね」
 犯人たちに口を割らせるため、失神させないように気を付けながら攻撃していく。
 攻撃に転じるというよりはひたすら逃げ道を探そうとする犯人たちの姿を見ながら、ワイヤークローを使って数人をまとめて押さえ付けた。  

「参りますわよ、アグラヴェイン」
 優雅に声をかけると、麗が自ら犯人たちへと向かってゆく。
「やはり、加減は必要でしょうか」
 麗が小首を傾げながら容赦のないプロレス技を犯人たちに仕掛けていく。
「事情聴取は必要かと思われますし、ある程度話せる状態にはしておくべきかと存じます」
 犯人たちを軽く半殺しにしかねない麗の技を見ながら、アグラヴェインが静かに指摘する。
「ですが、ソフィアさまは今回は多少の荒事は構わないとおっしゃられていた気がしますわ」
 とても攻撃をしているとは思えない身のこなしで、ゆったりと会話をしながら麗は次々と犯人たちを沈めていく。
 その近くでアグラヴェインは麗をはじめ周囲の仲間たちの護衛に回っていた。
「とはおっしゃられましても、やはり確保を優先すべきかと」
「そうですわね。分かりましたわ。犯人確保にまわりますわ」
 分かりやすいくらい残念そうな表情を浮かべると、麗はプロレス技を駆使して犯人たちを取り押さえにかかった。

 輪から逃れて逃げ出そうとする犯人たちに、紅鵡が容赦なく威嚇射撃を行う。
 その音を合図に、ソフィアも駆け付けた。
 仲間たちと息を合わせては犯人たちを沈めていく。
「お嬢様、それにソフィア様……、もう少々淑女としてのおしとやかさを心がけるべきかと存じます。今回の事件では「狙われない方」が百合園生徒として少々逸脱しているのではないかという事にもっと気を揉んでですな……」
「そ、そうか……」
「ソフィアさま、あちらにも犯人が」
「あ、ああ、そうだな」
 アグラヴェインの説教に、ソフィアと麗は引きつった笑みを浮かべ、犯人たちと戦う仲間たちのほうに逃げ出した。 

「逃がさないよーーーーーーーっ!!」
 包囲網を縫って逃亡しようとしていた犯人たちの頭上から美羽の声が響き渡った。
 建物の上から現れた美羽が、飛び下りながら誘拐犯を蹴り倒す。
 その状況に驚き一瞬動きを止めた犯人たちに、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が突撃し、槍の柄で誘拐犯の急所を突いて、気絶させた。
「そんなところにいたのか」
 犯人を押さえつけながら近くにきたソフィアも、驚いたように声をかける。
「うん! 何かあればコハクがすぐ飛び出せる位置にいてくれたから、私は上から隙を狙ってたんだよ!」
「美羽、ソフィア。とりあえず気絶させた犯人たちどうにかしないと」
「ああ、そうだったな。こちらも縛ってもらえないか?」
「任せて!」
 詩穂が駆け寄るとワイヤーで美羽とソフィアが押さえつけた犯人たちを次々と縛り上げていく。
「ここはもう少しかな」
「そうだね! 一気に行こっ!」
 コハクの声に美羽は頷くと、揃って残りの犯人たちへ突撃を始めた。
 すかさず紅鵡が援護射撃を繰り出した。
「ありがと!」
 美羽が建物の上を見上げてぶんぶん手をふると、紅鵡も軽く手を上げて応える。

「お嬢様に仇なす者は私が許しません!」
 北都はルーシェリアを庇いながら、犯人たちの動きを予測し、逃がさないように退路を断つことに集中していく。
 
 昶は犯人からの攻撃をひょいっと避けると、身を引きながら足払いを掛け転ばせる。
 犯人が慌てて身を起こそうとしたところを疾風突きを寸止めにし、戦意を削ぐ作戦に出た。
「ボコボコにするのは簡単だが、殴って済ませるのは紳士的じゃないからな」
 そう言う昶の隣に屈み込むと、北都は屈み込み犯人を押さえつけながら問いかける。
「ねえ、なんでこんなことしてるの? 金銭目的なのかな?」
 だが、犯人は全く口を開こうとしない。
「困ったねぇ……」
 北都は押さえる力は弱めないまま少し考え込みはじめた。
「あなたはこっちに!」
 その隙に、飛び込んできたリリアがルーシェリアの手を引いて輪の外へと移動する。
「ありがとうございますぅ。でも私、ある程度なら戦えますよぉ?」
「そうなんだろうなとは思ったんだけど。これだけ集まるとむしろ相討ちになりそうで怖くない?」
「数だけは多いんですが、いまいち手ごたえが無いんですよね」
 倒した犯人を引き摺りながらアルコリアも輪の外で合流する。
「えぇ、これどうするですぅ?」
「すみません、うっかり持ってきてしまいました」
「俺が預かろう。お嬢さんたちに怪我がなくて良かった」
 そう言うと、エースはアルコリアの手から犯人を受け取り、代わりにその手と、ルーシェリアに花を渡した。
「エース!!」
「リリア、ここはだいぶ落ち着いたみたいだ。犯人たちを引き渡しやすいように一か所に集めておこう」
「わかったわ」
 犯人たちの引き渡しまで引き続き皆で犯人たちから話を聞こうと頑張ったが、誰一人口を割らなかった。