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リアクション
さて……。
張飛軍は、レティシアの忍者軍団と激しい戦いを繰り広げていた。
兵力では劣るものの、様々な忍者の技を駆使してゲリラ戦を展開するレティシア。挑発するような動きは、兵士たちをも苛立たせるに十分だった。
ドドドドド! と数と武力を頼りに一気にねじ伏せようとする張飛軍。
と……。
「今です!」
「……!?」
その張飛軍団の側面の木々から、突如火の手が上がった。不意打ちで火計を仕掛けて張飛軍に挑んできたのは、ユリエラ・ジル(ゆりえら・じる)だった。
「うわああああっっ!」
驚いて隊列を崩す張飛軍団。
「怯むな、押しつぶせ!」
新たな敵の出現に、張飛は喜々として反撃に転じる。
「大丈夫です。落ち着いて計画通りに戦えば、武運はこちらに向いてきます」
ユリエラの声に、火計の工作員たちは一瞬で退散し、代わりに木陰や繁みから槍や矛の攻撃が張飛軍団を急襲した。
「ぐあああああ!」
ユリエラの配置してあった伏兵に、張飛軍団は次々と倒れていく。
彼女は200の伏兵を2部隊ずつ編成し、交互に巧みな波状攻撃を仕掛けてきた。その間にも、手の空いているほうの部隊が隙を見て森に火をつけていく。
ごおおおおおっっ! と火の手が大きくなった。
「おのれ……!」
怒りの形相をあらわにする張飛。
「おおっとぉ、きょ〜うだいっ、ボクを忘れてもらっちゃ困るな」
その反対側から、怪しげな男が一人進み出てきた。
「よく来たね。ボクが来たからにはもう安心さぁ」
【愛のヘルメット】を被り【太刀魚】を持ってドヤ顔で張飛に相対したのは、シャンバラ軍に鋭意参加中のナイスガイマイキー・ウォーリー(まいきー・うぉーりー)であった。
「いや、違うね。今日のボクは、愛の戦士(自称)直江兼続さ! このヘルメットがその証拠だよ」
“愛”の文字の入ったヘルメットを誇らしげに、キリリと仁王立ちのマイキー、もとい直江兼続と呼ぼう。
「……」
忍者軍と戦っていた張飛は、そちらにチラリと視線をやっただけだった。なんだこいつ、と訝しげな目つきになる。
100の兵力を擁した直江兼続は、フレンドリーな態度で張飛に近寄ってくる。
「劉備と関羽は、今日はいないんだね。でも大丈夫さ。このボクがキミのベストブラザーだよ。生まれた日は違えども、死ぬ日は同じさ。さあ、遠慮なくボクを兄者と呼んでよ。いいや、弟の方がいいかな?」
「……」
張飛はなんとも言いがたい複雑な表情で直江兼続に接近する。それを積極的アプローチと見て取った直江兼続はとてもいい笑顔で、太刀魚を手に張飛に戦いを挑んだ。
「そう、そうなんだよ。ボクたちが本当に必要だったのは、これだよ。重要なのはね、兄弟の絆さ。例え離れていても固く結ばれた魂が愛となってボクたちを救うんだよ。それをこうして拳(?)を交えて確認するのもまた愛。結局のところね、愛というのは」
張飛は無言で巨大な鋼矛を振りかぶっていた。その表情は怒りに変わっている。
「貴様が! 俺の兄弟を語るんじゃねぇぇぇ!」
ドオオオン! と地響きを立てて張飛の攻撃が【太刀魚】を真っ二つに叩き斬っていた。
「きょ、兄弟?」
辛うじてかわした直江兼続は、その迫力にちょっぴりビビって冷や汗をかきながら後ずさる。本当に兄弟愛を解り合えると思っていた彼は、釈然としない様子だ。
兵士たちは、張飛の怒号と迫力の前に蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。
「まとめてぶった斬る!」
「……あ、あいいいいっ!? 愛っ!」
張飛が本気で怒っているのを見て、直江兼続は全速力で逃げ出す。
「貴様ら、いい加減にしろ、ゴルァァァッ!」
直情的な張飛は、強力な武将と正面からの対決を望んでいた。それを、忍者に弄ばれるわ変な男に兄弟呼ばわりされるわで、早くも頭が沸点に達したのだ。
「待つのだ、髭ブタ君。頭に綿の詰まっているキミにもわかりやすく言うと、これは孔明の……いや、敵の罠だと断言できるね。ここはじっくり」
「うるせえ!」
したり顔でいう禰衡を張飛は平手で張り飛ばす。こちらの方が、なんか多分こいつには痛いだろうと思ったからだ。禰衡は宙をスピンしながら森の奥へと吹っ飛んでいった。
「このわけのわからない世界で、よく今まで我慢したぞ、俺! だが、それも終わりだ! 敵は全員粉砕してこんな戦場おさらばだぜ!」
張飛は、さらにパワーアップして戦い始める。
ぶっちゃけ、彼はここがどうなっていて、どうやったら脱出できるのかなど全然知らなかったのだ。とにかく、張飛は張飛らしく、ガンガン進むだけだ。
深くて薄暗い森の中を、張飛は闇雲に走り回った。
「うわぁ……張飛さん、荒々しく激しいですぅ。そんなに責められたらあちきは……ぁ」
レティシアは色っぽい仕草で張飛に素早く迫る。
「えいやっ、【レジェンドストライク】……ですぅ!」
「うがあああああっっ!」
カウンター気味に攻撃を食らい、張飛は怒りに任せてぶんぶんと巨大な鋼矛を振り回す。必殺奥義を正面から食らってもほとんど堪えていないところは、さすが彼と言うべきか。
「うおおおおっっ、当たれぇぇぇぇ!」
「らめぇぇぇぇ、(森の)奥まで入っちゃってますよぅ! そんなに強く動かしたら(周辺の物が)壊れちゃいますぅぅぅ!」
レティシアはからかうようにクスクス笑いながら、忍者軍団と合流して張飛を目的の場所まで連れて行こうとする。
激怒の張飛は兵を率いて構わずに全力で突撃した。前方に逃げていった直江兼続を見つけ、真っ二つにするために、助走をつけて地を蹴り跳び上がる。
「でやああああああっっ! 死ねぇぇぇぇぇぇ!」
張飛は鋼矛を振りかぶった。兄弟を騙った罪は重い。彼の兄弟は劉備と関羽だけである。まずはこいつから始末すべきなのだ。
「あいいいいいん、愛ぃぃぃっ!?」
頭上から鋼矛が振り下ろされるのを見て、逃げ切れないと悟った直江兼続は悲鳴を上げる。
ダダダダダダダダダ!
次の瞬間、銃声が鳴り響いていた。正面から無数の砲弾が襲い掛かってくる。張飛は不意打ちにのけぞった。
「ぐあああああああっ!?」
ダダダダダダダダダ!
更にもう一回。
「あいいいいいい!」
直江兼続は涙目になって地面を転がりまわった。
「うぬ……、怪物め。鉄砲隊の連射を食らって生きておるとはどんな身体の構造をしておるのじゃ」
生い繁る木々の向こう、少し離れたところで鉄砲隊を指揮していた鵜飼 衛(うかい・まもる)が、砲弾を受けても立っている張飛を見て驚きの声を上げた。
【武将イラスト保有者】の衛は、その絵柄通り謀神・毛利元就の鎧姿をインストールして『鉄砲隊』でシャンバラ軍に参戦してきていた。
信長軍が大勢力を擁していると聞いていた衛は、もちろんしっかりと戦術を立ててきてある。
簡単なものではあるが、森林地帯の隘路に土で出来た城を造っていた。
道の向かいに、歩兵程度では簡単によじ登れない程度の高さの城壁を“くの字”に築き鉄砲隊が安全で的確に攻撃できるよう造営してあった。それは、天然の土城と言ってもよかった。
その“くの字”の両サイドには100ずつの鉄砲が配置され、敵を狙っている。
「よくぞここまで来られたものよ、張飛殿。歓迎致すぞ」
にやりと笑った衛は、もう一度鉄砲隊に指示を出す。
ダダダダダダダダダ!
「わああああああ!」
張飛に率いられていた兵士たちがばたばたと倒れていく。
「……おや、そこでのた打ち回っておるのはマイキーではないか。敵の誘い込みお疲れでじゃったのう。後はゆっくりと休むがよいぞ」
衛は、鉄砲の弾をまともに食らい悶絶するマイキーを見やって、何事もなかったかのように声をかけた。
「痛ぁぁぁぁい! いた愛ぃぃぃっ!」
なんだか、直江兼続はすごい脂汗をかいて顔色までやばくなってきているのだが、まあ死なないだろう、と衛はスルーすることにした。
そんな会話をかわしている隙に。
「ここは私の出番アル。任せるアルよ!」
よせばいいのに、衛の作った土城を難物と見て取った金玉昼と部隊が、すかさず前に出てきた。こう見えてもモブNPC女の子武将として期待を一身に背負って登場したのだ。見せ場くらい作らないといけないと使命感に燃えていた。
「数ではこちらが圧倒的に有利アル! あの天然の土城、陥としてみせるアルよ! 張飛はあの忍者軍団を追うアル!」
そういい残すと、彼女は方天戟を構え、兵士たちと共に突撃していく。
ダダダダダダダダダ!
衛は容赦なく攻撃を浴びせかけた。
あの有名な信長の三段鉄砲隊のように、100人ずつを3組に分けて配備しており、連射が可能になっているのだ。
「ひいいいいいいっ! ごめんなさいごめんなさい、当てないでぇ……アル!」
涙目になりながらも、金玉昼は兵士たちと共に思い切って衛のいる土城へと突っ込んでいく。ここで逃げて帰ったら、永遠に三国志のやられ役として、父親の金旋ともども負け犬人生を送ることになるだろう。なんとしても勝って、そこいらの有象無象とは違うところを見せ付けておきたかった。
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!
土城の壁は“くの字”になっており、敵がそこに来れば、十字砲火を浴びせることができるようになっていた。列射撃は撃ち洩らしはあるが、十字砲火は隙間なく射撃を当てることができるというソツのない戦術。これで敵を殲滅できる算段だった。
「戦国の命は安いアルよ!」
金玉昼は約3000人の肉の盾を築いて土城の壁へと迫る。凄い執念だった。
そんな無謀な部隊を囲むように、後方両側からザッ! と柵が起動し横への進路を遮った。
「……えっ!?」
“ハの字”に立てられた二重柵に沿って、鉄砲を構えた兵士たちが金玉昼たちに狙いをつけていた。
「ようこそ、我が土城へ。おもてなし致しますので、ゆっくりくつろいでいって下さいませ」
両側面の鉄砲隊を指揮していたのは、衛のパートナーのルドウィク・プリン著 『妖蛆の秘密』(るどうぃくぷりんちょ・ようしゅのひみつ)だ。
彼女は、毛利家の智将・小早川隆景の鎧姿をインストールしており、悪魔のように優しく微笑んでいる。
柵に守られた100ずつの鉄砲隊が一斉に火を噴いた。
「ひぃぃ! 横からも来たアル! 負けずに進むアル!」
そんな金玉昼の背後から、もう一人、衛のパートナーが姿を現した。
「アホな娘じゃのう、名前知らんけど。見るからに弱そうやのに、無理するけぇエライ目に遭うとるんじゃ」
こちらは、毛利家の猛将・吉川元春の鎧をインストールしたメイスン・ドットハック(めいすん・どっとはっく)だ。【武将イラスト保有者】で鉄砲隊を率いていた。背後に伏せてあった鉄砲隊100ですぐさま砲撃を浴びせる。
四方八方から鉄砲攻撃され、金玉昼の部隊は、ばらばらと虫けらのように兵士が倒れていく。
「十把一絡げの三下武将が、自分らに勝てる思ぅちょるんか」
メイスンは混乱する敵陣の中に単機突入し、兵士たちをざくざくと斬馬刀で切り取って行った。敵を吹き飛ばすような斬撃を振るいながら信長軍の兵士たちの奥へ侵入してくる様は、絶望を与える十分だった。
それでも構わず突き進み、部隊が全滅するより先に金玉昼と大勢の兵士は土城の壁を登りきった。
「敵は接近離攻撃に弱い飛び道具アル! 一気に粉砕するアルよ!」
「おお、凄い根性じゃのぅ……。こりゃあ、わしの負けじゃわい」
衛は、パチンと指を鳴らすと、壁際に配備してあった鉄砲隊を即座に散開させた。ここで無駄に突っ張って敵の長槍や刀剣の餌食になるつもりはなかった。
「追うアル! 逃がさず全滅させておかないと後が厄介アル!」
金玉昼は気勢を上げて兵士たちと土城の内部になだれ込む。敵は逃げ、彼女らを妨げる者は誰もいなかった。至福の時、彼女の最も輝いていた時であった。
「やった! 三国志演技で初めてお城取ったアル!」
小さくても一国一城の主。金玉昼は父金旋の果たせなかった征服を成し遂げ、勝鬨を上げる。
……という夢を見たのさ。
「それで、この後どうするのじゃ? 親孝行したはいいが、帰れなくなったみたいじゃのう」
うんうん、イイハナシジャナーと衛は頷く。
彼は、散開した600の鉄砲隊をすぐさま編成し直して、金玉昼の部隊に狙いをつけていた。今度は一兵も逃さぬ構えだ。
「知っちょるけぇ、こんな(お前:広島弁風)。こういう場合、調子に乗って暴走した三下チンピラは惨めに犬死してのぅ、雨に打たれながらゴミの山に頭を突っ込んで冷となるのが定石なんじゃ」
メイスンが、武器を【機甲魔剣アロンダイト】に持ち替えて土城の壁を越えて入ってきた。ふと、空に視線をやって言う。
「そういえば、そろそろ雨が降ってくるかもしれんのぅ……」
「……くっ!」
金玉昼が方天戟を構えた。
もうここまでだ。やはり自分は金旋の娘、城を取るなんて無理だったのだ。このまま負け犬人生を送るくらいなら、一か八か! 起死回生を図るしかない。
彼女は、強引に一騎打ちモードへ移行させる。これで勝てば! 敵は一気にいなくなる。やってみる価値はあった。
金・玉昼VSメイスン
LIFE◇LIFE
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「こんな(お前:広島弁風)、いくらなんでも弱すぎじゃろう……」
ライフバーを確認して、メイスンは哀れむように金玉昼を見つめた。
「金旋ディスるのもいいかげんにするアル! 何の恨みがあるアルか? 窮鼠猫を噛むの諺、思い知らせてやるアルよ!」
「いや、ほんまに。賞味知らんがな……」
ええいっ! と金玉昼が全力で攻撃してきた。二人は、戦い始める。カンカン……と数合打ち合って。
金・玉昼VSメイスン
LIFE◇LIFE
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◎◎◎ 勝者:メイスン
「ごふぅ……」
と金玉昼は倒れた。
「夢見たらあかん。辛ぅなるけぇな。やられ役はいつまでたってもやられ役じゃし、ネズミは追い詰められても猫を噛まんのじゃ」
メイスンは身も蓋もなく言った。
「降伏なさいませ。あなた様も部隊も、もうおしまいですわ。これ以上被害を増やさないほうが得策かと存じますが?」
ルドウィク・プリン著『妖蛆の秘密』も、配下の鉄砲隊を連れて土城へとやってきた。
「他の部隊と武将にも投降を呼びかけてみるくらいの誠意をみせていただけるのでしたら、悪い話にはなりませんわよ」
「……」
金玉昼はよろよろと上半身を起こしながらも、潤んだ目で衛たちを見た。敗残兵に対する寛大さと慈悲深さに感動しているようだった。
彼女は思った。やはりこれからは勝ち組についていかないと……。
勝ちたい。金旋で全国統一したかった。がっくりとひざまずき涙ながらに告白する。
「先生……、バスケが……もとい、勝てる戦がしたいです」
「終わりじゃよ、あきらめたら?」
衛はニッコリと答えた。
せめて、あきらめたら終わりじゃよ、といって欲しかった……。
▼金玉昼、戦闘不能。
▼金玉昼軍団:3000→500