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第二章 囚われの子ども達を救え!


 閃崎 静麻(せんざき・しずま)レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)の乗る大型飛空艇ツインウィングが、フリューネの乗る飛空挺の横につけた。
「突入できればこっちのもんだ」
 静麻は高初速滑腔砲を外壁目掛けて放った。轟音と共に白く煙り立った外壁には、人一人分程度のへこみが出来ている。
 続けて、静麻はガトリングガンを連射した。穴が要塞の中まで貫通したのを確かめ、仕上げとばかりにプラズマライフルを撃ち込んだ。
『こんなもんだろ! さてと、突入するか!』

 静麻の開けた穴から、突入部隊は要塞の中に潜入した。
 どうやら通路のようで、直線の道が前後にしばらく続いている。
「まずは、捕まっている子供たちを捜すわよ!」
 フリューネと共に先陣を切って走り出したセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は銃型HC弐式を用いて生体反応を調べつつ、要塞内の構造をマッピングしていた。
「ほとんど生体の反応がない――? 何かトラップがあるかもしれないわ。気を付けて!」
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は周囲の殺気に警戒しながら、フリューネたちと共に駆けていく。
「フリューネさんと肩を並べて戦える機会ですね!」
 三人の後を追うレイナが、静麻に話しかける。
「そうだな。じゃ、俺らはフリューネの後方を守ろうか」
「はい! 張り切ってフリューネさんに認められる戦い方を――って、後詰なんですか?!」
 レイナはふと、後方をついて行く騎沙良 詩穂(きさら・しほ)の表情が晴れないことに気付いた。
「どうかなさったんですか?」
「うーん、気になることがいくつかあって……」
 そう言いながら、詩穂は辺りをきょろきょろと見回した。
「どうして、空賊は機動要塞を拾ってきて拠点にしているのかな?
 見た感じ、確かに壁の補修に使われている技術は現代よりも進んでいる気はするんだけど――」
 誌穂は静麻の顔を見る。
「それにしては補強の具合もあんまり変わってないみたいなんだよね。
 飛空艇からの砲撃で簡単に侵入させちゃうくらいだし……」
「拠点だっていうのに、配備されている賊もそこまで多くなさそうだしな――っ!?」

 ヒュン、と静麻の眼前を何かが掠めた。

「……なるほど、トラップが仕掛けてあるから人を配備していなかったんだな」
 前方から後方から、無尽に飛び交う銃弾。
「身を守りながらでいいから、耳を塞いでおいてくれよ!」
 静麻はそう言って、銃口の埋まった壁目掛けて機晶爆弾を投げつけた。
 ――爆音と共に壁の一部が崩れる。
「ちょっと待って! この先に複数の生体反応があるわ!」
 セレンが差したのは、静麻の崩した壁の先だ。
 フリューネたちは、崩れた壁の先へと身体を滑り込ませた。

 壁の向こうは、部屋に通じていた。積み上がったり床に散らばった資材を見るに、倉庫だろう。
「! 当たりだったみたいね」
 その部屋の隅にある山積みになったロープの上には、後ろ手に縛られ猿轡を噛まされた少女が二人いた。怯えた顔でフリューネたちを見ている。
「もう大丈夫よ、だってこのセレンお姉様が助けに来たんだから☆」
 セレンは笑いながら少女たちの元に歩み寄る。
 ――刹那、その場を飛び退いたセレンの足元に電撃が走った。
「ちっ、外したか」
 殺気の元を睨みつけたセレンの視線の先、倉庫の死角から男女の空賊が飛び出す。
 女は両手にハンドガンを構え、男は帯電させたハンドガンの銃口をセレンに向けている。
「子供たちは返してもらうわよ! フリューネ、子供たちを部屋の外に!」
 セレアナの言葉と共に、天井から女空賊目掛けて雷が降り注いだ。
 直撃は避けたものの、女は片方の銃を取り落とす。
 その隙にフリューネは、素早く子供たちの元へ駆け寄った。
「待って! 村長の話では、六人の子供たちが捕らわれてるはずなの!」
「残りの子供の居場所は私たちが聞き出すわ! とにかく、外へ!」
「逃がさないよ!」
 セレアナに向けて、女は残った銃の引き金を引こうとした。――が、その指は動かない。
「なっ――?!」
 それどころか、銃を握る手が徐々に向きを変え――女自身の眉間へと銃口を向ける。
 それを見ていた男空賊は、カシャ……カシャ……と軽い音を立てて、何かが近付いて来るのに気付いた。
 倉庫の床を飛び跳ねながら男へと向かって来るのは、一人でに動く手錠だった。
「逮捕完了☆」
 詩穂の声と同時に、男の手にガシャンと手錠が嵌まる。
 手錠は、詩穂が●式神の術で操っていたものだった。
 素早くセレアナが男の武器をもぎ取る。

「さて。じゃあ、まず子供たちの居場所を教えてもらうわよ」
 セレンは幻覚を見せながら、女に問う。
「も、もう一つの倉庫と、頭領の部屋よ……」
「その部屋はどこにあるの?」
「そ、倉庫は部屋の対角線上で、頭領の部屋は一番奥よ……」
 どのような幻覚を見せられているのか、女はすっかり青褪めた顔だ。
 男もすっかり戦闘意欲を失っている。
「後続の突入部隊にも連絡を回すわ! セレン、頼んだわよ!」
 セレアナはセレンにそう言い残すと、フリューネが部屋の隅で庇っていた子供たちの側に歩み寄る。
 不安気に震えている子供たちに、セレアナはしゃがんで視線を合わせた。
「もう、何も心配しなくていいのよ。すぐにお母さんやお父さんのところへ戻れるようになるわ」
 優しく微笑むセレアナ。
「そうそう! 邪魔するような奴らは、こんな風に私たちがやっつけるから任せてね!」
 セレンも、近くにあったロープで女空賊を縛り上げながら子供たちに笑いかける。
「子供たちを飛空艇まで連れていったら、応援が要塞に着くまで見守っていてもらえる?
 私はもう一つの倉庫に向かうわ!」
 フリューネはそう言って、通路を駆け戻っていく。
 その後を、子供たちを連れたセレンとセレアナが周囲を警戒しながら戻り始めた。
「俺たちは捕虜を連れ帰って、見張るか誰かに引き渡そうか」
 部屋の入り口を見張っていた静麻は、レイナと共に空賊二人の元に向かった。
「――どうしてお前らは、未来を壊そうとするんだ?」
 男の空賊が、小さく尋ねた。
「詩穂たちは今現在を守っているだけだよ☆
 逆に聞くけど、もし本当に未来から来たなら、どんな争いが起きたのか教えてくれる?」
 詩穂は桜の小太刀を構えながら、質問し返す。
「……半世紀以上、俺たちの家族はリュイシラと戦ってきた。
 そもそものきっかけは、俺たちの祖父母が子供だった頃、住んでいた村がリュイシラによって滅ぼされたこと。
 ――その日が、今日なんだよ」

 空賊の男は、苦々しげに吐き捨てた。