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突然のペット大戦争

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突然のペット大戦争

リアクション

「喧嘩するのも、あんまり悪いことではないと思うんだけどね」
 桐生 円(きりゅう・まどか)は『ポイントシフト』によって唐突に現れるとそう言った。
 エヅリコはいきなり目の前に現れた南瓜の馬車ライオン【シボライオン】に「きゃわぁ!」と悲鳴をあげると、再び瑛菜の後ろへと逃げ出した。
「あー、ごめんね。驚かせる気はなかったんだけど、ちょっとペットの散歩中に喧嘩してるのを見かけちゃったからさ。ちょっと言わせて欲しい事があるんだけど、いいかな?」
 と円は瑛菜に発言の許可を訪ねた。
 瑛菜は頷いた。
「ありがとう。どのペットにも負の部分はあるし、正の部分はある。そこは覚悟しておいた方がいいかも。一番のおすすめは実物を見ることだね。双方が気に入ったペットを飼うようにするといいよ。なんにでも巡りあわせはあるからね。まぁ、あえてぼくが推すとすれば……」
 そう言うと円は傍で待機するシボライオンに目を向けた。
 そして、
「来い!ぼくのDSペンギン達ー!」
 と声を掛けた。
 ゆったりと南瓜の馬車を引くシボライオン
は「ほぁー」と鳴き声をあげて近づくと、
「ぐわ」
「ぐわ」
「ぐわ」
「ぐわ」
 合計4体のDSペンギンが馬車の中から飛び出してきた。
 ペンギン達はぺちぺちと円の前に整列する。
 それを見た野次馬達は「わー!」と歓声をあげた。
「ボクが育ててるDSペンギンなんてどうかな?賢いから人の言葉もわかるし、掃除からアルバイトまでできるよ!それに、ある程度の戦闘訓練も受けてるし勇敢だよ!あとシボライオンは、牛乳臭いけど人懐っこいかな」
 こうして円はひとしきり飼育しているDSペンギンやシボラライオンの事を説明すると、最後に付け足すように言った。
「どちらかに迷いを残したままペットを飼うと言うのも、二人にもペットにとっても不幸な事だとボクは思うな。時間があるときにペットショップに行ってごらん。たくさんの実物に触れるのはいい機会だと思うよ」

 こうして話し合いを続ける最中、エヅリコは急にぽつりと「ずるい」と呟いた。
「何がずるいの?」
 瑛菜はエヅリコに聞いた。
「なんかさっきから犬の話ばっかり。少しはボクの言い分も聞いてほしいなーって」
「だから犬じゃねぇ狼だっつってるだろ!」
「同じだよ!」
「あーもう、何回これ繰り返す気よあなたたち。しょうがないでしょ、ここには『チェシャ猫』を飼ってる人が来てないんだから」
 瑛菜は荒れそうになる2人を諌めるが、彼女は不機嫌そうに「ぷー」と頬を膨らませるばかりであった。
 と。
「『チェシャ猫』はないけど、こういうのはどうかな?」
 野次馬の中から一人の青年が現れた。
 それは数匹の使い魔:猫を抱いたエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)であった。
 エヅリコはエースに懐く猫に「か、かわいいー!」と歓声をあげた。
「あ、申し遅れました、ニルヴァーナのアガルタで猫カフェ『にゃあカフェ』の店長をしているエース・ラグランツです。素敵なお嬢さん」
 とエースはエヅリコに薔薇のミニブーケを差し出した。
「カフェでは保護した猫達の譲渡も随時受付中だよ。この機会に猫達との暮らしを始めてみるのはいかが?」
「うん!」
「いやいや、エヅリコ。まだ話し合いは終ってないぞ……」
 ユダは呆れた様子でエースの連れている猫を見て目を輝かせているエヅリコの襟首を引いた。
「猫ちゃーん……」
「ははは、エヅリコさんは猫がお好きなんですね。少し触ってみます?」
 そう言ってエースはつれていた一匹のネコをエヅリコに手渡した
 エヅリコはアリスの見た目相応な、あどけない笑顔で「にゃーにゃー」と頬ずりするのだった。
「俺の愛猫は使い魔の猫なんだよ。ロシアンブルーな外見がとても愛らしいよね。左耳にタグがあるのがシヴァで右耳にタグがあるのがゼノン。兄弟猫なんだよ。飼い主にはとても忠義心篤い良い子たちなんだ」
「へぇ」
 ユダは関心するように使い魔のネコたちを見つめていた。
 そんな彼らの脇から、
「猫もいいけど、私の自慢のこの子もお勧めよ」
 とリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)は言った。
 そんな彼女の隣には。
「……ペガサス?」
 瑛菜の言うように、大きく逞しい一頭のワイルドペガサスが付き従っていた。
「そう。この子はエレスって名前なの。私のパートナーよ。普通の馬とかもいいけど、お勧めはワイルドペガサスね」
 リリアは穏やかにエレスの背を撫でると、翼を小さく閉じて彼女の手を受け入れる。
「よくペガサスは乗り物扱いされる事も多いけれど、本当は誰でも乗せてくれるって訳じゃないのよ。誇り高くて、でもとても優しくて、素敵な種族なの」
 もともとワイルドペガサスは野生として育った種である。たしかにその精悍な顔つきはとても野生的で、しかし高貴な雰囲気がある。
「それにそれに、見て見て!このすらりとした脚!白く輝く翼!風になびくたてがみと尻尾!何より走る姿が美しすぎるわ!」
 とやや興奮気味にまくし立てる。リリアは「いやん」と恋人を見るような目つきでエレスを見つめていた。
「もう見惚れちゃうわよね。とってもとっても頼りにしている私の大切なパートナーなのよ。一緒に暮らすなら迷わずこの子達を推すわ。どうかな?」
 ここまで一気に話していたリリアであったが、ユダとエヅリコは彼女の話にややぽかん、とした表情で我に返った。
 そしてエースは彼女のかたをぽむ、と叩く。
「どうどう、まぁ落ち着けリリア……馬は世話が大変だろ」
 そう彼女を諭すのであった。

「……すこし、宜しいでしょう……か」
 とエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)のパートナーであるネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)は野次馬達をかき分け、ユダとエヅリコの2人に声を掛けた。
 かき分けたというより、むしろ野次馬達が道を空けたというほうが正しいか。
 なぜなら、ネームレスの周りには3mにも及ぶ瘴龍が4体と、これまた異形な姿のジェットドラゴン・魔瘴龍「エル・アザル」が付き従っているのである。
 そのあまりにも異様な群れに人々は自ずと引いていったのであった。
「ユダ様は……格好いいペットだから……愛情を注ぐのですか?エヅリコ様は……可愛いから……愛情を注ぐのですか?お二人の希望にそぐわないなら……不要だと……おっしゃられますか?」
「え?」
「あー、いや……」
 ネームレスの言葉に、2人は途端口ごもってしまう。
 ネームレスは群れる龍たちに手を差し伸べる。
「我にとっては……彼らは家族であり……大切な己の一部です。彼らもまた……我を信頼し……共に戦いや苦難を乗り越えてくれます。……ペット……という言葉も……あまり好きではありませんが……」
 不気味な表情でネームレスは2人に語りかける。
 それはややもすると険しいものであったが、敵意や害意というより、むしろ先生が生徒を説諭するような表情であった。
「ペットを迎えるというなら……例えソレがどんなに可愛くなくても……不恰好でも……自分達の新しい『家族』として……共に頑張る……そんな愛情を持ってください」
 ネームレスは頻繁に魔瘴龍「エル・アザル」に乗って各地を旅している。またネームレスの意思は上空で旋回する龍たちと繋がっているのだ。
 ネームレスにとってそれは当たり前のことであり、言葉通り「家族であり、己の一部」なのである。
 だから「ペットは何がいいか」という妙なことで争う二人がなんとなく見過ごせない。
「ですが、もし単純に道具や玩具が欲しい感覚なのでしたら……やめておいてください。そんなのは……最終的に悲劇にしかなりません……『家族』を迎えるのでしたら……それだけは……覚えておいてください。無責任な飼い主には……レッドカードですよ」
 ピッとなにかを差し出すように2人に忠告すると、ネームレスはまた野次馬達が引いた道を戻っていったのであった。
 
「で、結構な騒ぎはあったわけだけど」
 と瑛菜はユダとエヅリコの2人に言った。
 もう2人の喧嘩はだいぶ収束しており、別にペット自慢や殴り合いをしていた野次馬達もちらほらと帰り始めている。
 オープンカフェはいつもの日常を取り戻しつつあった。
「色々な人から話を聞いてみてどうだった?」
「ボクたち、なんかお互いの希望ばかりぶつけて迷惑掛けてたみたい。ごめんなさい」
「こちらから相談にのってもらったのに、すみません」
 お互いにユダもエヅリコも瑛菜に頭を下げる。
 瑛菜は「いいって、いいって」と照れくさそうに言った。
「とりあえず、まずは実物を見て決めようと思います」
「そうだね。帰りにペットショップ寄ってみようよ」
「それはいいけど、また喧嘩しないでよね」
 からかうように瑛菜が言うと、2人は苦笑いを浮かべるのであった。

担当マスターより

▼担当マスター

ユウガタノクマ

▼マスターコメント

ユウガタノクマです。クマーです。
今回はこのペット大騒動にお付き合いいただきましてありがとうございます。
皆様のペット自慢や自論がうまく引き立ってくれていれば幸いですが、いかがだったでしょうか?
2作目ということでまだまだ世界観をしっかり理解できていない部分もありますが、これからもどうぞよろしくお願いいたします。