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世間知らずとバーゲンと暗殺者たち

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世間知らずとバーゲンと暗殺者たち

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★第三話「私はただの通りすがりです」★


 翌日、ジヴォートは再びデパートに来ていた。しかし今度はバーゲンではなくアルバイトとして、だ。

「ジヴォート君ははじめまして、ですね。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく頼む……柚と三月?」
「うん。頑張ってね」
 お辞儀をする杜守 柚(ともり・ゆず)と軽く笑う杜守 三月(ともり・みつき)にジヴォートも笑顔で挨拶を返す。
「今回するのは掃除です」
「掃除か……したことないな」
「体力と根気が必要ですよ。
 あ、もちろん海くんと三月ちゃんも一緒に掃除をしてくれますよね?」
 自信なさそうなジヴォートに、安心させるように笑みを浮かべつつ柚が三月とに話を振った。2人とも驚いた様子で「なんで自分が」という顔をしていたが
「やってくれませんか?」
 悲しげな柚の顔に、仕方ないなと手伝ってくれることになった。
「家ではよくしてるし得意だよ。ジヴォートは……したことないんだっけ。海は? スパルタと優しく教えるのとどっちがいい?」
「……どちらも遠慮する。掃除は得意というわけじゃないが、苦手でもないな」

 掃除道具すら触れるの初体験なジヴォートは、柚から渡された掃除道具一式(服装も含む)をしげしげと見つめている。

「いいですか。基本は上から下に。
 家では天井や蛍光灯から拭いて、壁や窓、床の順番です。デパートではテーブルや棚の掃除や床掃除が主でしょうか」
「なんで上から下?」
「上の掃除をしちゃうと、埃が下に落ちたりするからね」
「ああ。それもそうか」
 一生懸命に話を聞きながら慣れぬ手で掃除をしていくジヴォートに、三月が時折アドバイスをしたり、楽しく掃除できるようにと柚が声をかける。
「三月は上手いな」
「そうですね。三月ちゃんは良く手伝ってくれますし……海くんはまめに掃除しますか?」
「まあ、生活に困らない程度に、だな」
「そうなんですか。ジヴォート君は、掃除についてどう思いますか」
「えっ? あ、う〜ん。掃除しようとするほど汚いことがなかったからなぁ。むしろ俺がすると周りが怒られるし」
「そっか。使用人さんの仕事なんだ」
「だからこんなに大変だなんて知らなかったな」
「……あ、大雑把に拭いては駄目ですよ」
「う、悪い」
 そんな会話をしながら楽しく掃除を終えた後、綺麗になったフロアを見て柚が「どうですか」と笑顔で振り返る。

「綺麗になった場所を見ると嬉しくなりませんか? 頑張ったご褒美みたいに」
「ああ、そうだな!」
 ジヴォートも満足そうに笑った。


***     ***



「うおおおおお! 次のバーゲンまで時間がねえ! みんな急げ! だからって適当に詰むんじゃねえぞ!」
 そう叫んでいるのはヴァイス・アイトラー(う゛ぁいす・あいとらー)
「いいか、これはバーゲンセールなんだ。いい品物をこの時だけ、特別にお安くする! 安っぽく積み上げて品物まで安っぽく見せるんじゃない!」
 その声にこたえるのは平さん(ペンギンアヴァターラ)、超さん(超人猿)、山田さん(ホエールアヴァターラ)の3人(?)。

 しかしその時、山田さんが人とぶつかって床に落下してしまった! 少し怪我? もしてしまったようだ。

「おいっ大丈夫か?」
 そんな山田さんへと話しかけたのはジヴォート。実は次のバイトまで時間があるためデパート内を散策していたのだ。
 心配そうなその姿に『誰だ?』と思うヴァイスだが、彼の後ろに見える雅羅たち契約者の姿を見て、これだ! と荷物持ちを手伝ってもらえないかと頼む。
「時間もあるし、構わないよな?」
「ええ」
 ジヴォートは雅羅に確認した後で頷き、ヴァイスに指示を仰ぐ。
「素早く運んで、突撃してくる奥様方のセンサーに反応しまくるよう、きっちり丁寧にレイアウトするんだ! 安っぽく見せるなよ!」
「お、おおっ……(ただ並べてるだけじゃなかったのか……)」
「アニマルズ! 新入りに色々教えてやれ!」

 と、気合いの入っている一行から少し離れたところに子供たちが集まっている一角があった。
 丸いフォルムに円盤。小さな手足とつぶらな瞳。
 どこかで……そう。ニルヴァーナあたりで見かけたようなその姿。まさしく土星くんの着ぐるみがそこにいた。

(ふふ。これで私が誰か分からないよね! 完璧!)

 中でほくそ笑みながら子供たちに愛想を振りまいているのは小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)。今回イキモから話を聞いて護衛として名乗りを上げた。
 のだが、ジヴォートに……少なくとも社会見学中は気づいて欲しくないと聞いて着ぐるみ案を思いついたようだ。その案は功を奏し、風景に紛れ込んでいた。

「大丈夫かな」
 そんな美羽を心配げに見つめているのは、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)だ。さらに後方から全体を見回しつつも、そう言って首をかしげた。
「たぶんあっちは美羽さんに任せていれば大丈夫ですよ。私たちは周囲の警戒と捕縛に努めましょう」
「……うん、そうだね。美羽なら、きっと大丈夫」
「ええ」
 少し元気を取り戻したコハクにベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)はホッとしつつ、ジヴォートたちの近くを通りがかった男に目を止めた。
 普通の買い物客に見えるが――。

「うっ」
 ジヴォートのすぐ隣を通った時に呻いて倒れそうになった。気づいたジヴォートが手を伸ばす

「あっぶなーい」

 前に、美羽がスーパー土星くんアタック(高速回転しながらの体当たり)を男にして遠くへ弾き飛ばす。男が気絶してナイフを手放すが、ベアトリーチェがすぐさまそのナイフを誰にも見られぬように隠す。
「あ〜遅かったね」
「おい、そいつどうしたんだ?」
 驚くジヴォートを振り返り、美羽は説明する。
「どうも気分が悪いみたい。私が医務室へ連れていくから、君は準備の方をお願い」
 あきらかに弾き飛ばしていたのだが、ジヴォートは疑うことなく信じた。
「分かった。じゃあ頼むな……ええっと」
「私はただの通りすがりの土星くん弐号だよ」
 んなわけあるか! と周囲の人は心の中でツッコミをいれたことだろう。
「そうか。ただの通りすがりか。じゃあな、土星くん弐号」
 しかしまったく疑うそぶりなくジヴォートは去っていく美羽と男を見送り、バーゲンの準備へと戻っていったのだった。

「じゃあベアトリーチェ、コハク。あとはよろしく」
「はい、お任せください」
「うん! こっちは任せて」
 気絶した男から武器を奪い捕縛し、警察に渡すのはベアトリーチェとコハクの役目。美羽は2人に頷いてこっそり(?)護衛を再開したのだった。