葦原明倫館へ

空京大学

校長室

天御柱学院へ

カウント・トゥ・デストラクション

リアクション公開中!

カウント・トゥ・デストラクション

リアクション

◆第3章 犯人はだれだ?◆

 調査隊たちは、1つの部屋に集まりつつあった。怪我人には治療が施され、今後の方針が話し合われている。
 その間を歩きながら、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)は隊員たちに“遺跡の調査に関する”聞き込みを行っていた。
 その本当の目的は、「遺跡の封印を破った犯人」を探し出すことである。遺跡の封印が調査隊の入ったタイミングで破れたことは、偶然で片付けるには不自然だ。二人は隊員たちを不安にさせないよう、慎重な会話を続けていた。
「「ありがとうございましたっ」」
 話をしてくれた研究者に一礼し、二人は顔を見合わせる。
「……どう思います? サビクちゃん」
「ボクは嘘をついていないと思うな。話の整合性も取れていたし……本当に“遺跡を見つけたことが良かったことなのか”で悩んでいたみたいだったよね」
「詩穂もです。ほとんどの人に聞き込みをしたけど、怪しい人は居ませんね……調査隊の中にスパイが居ないなら、それはそれで良いのかもしれないけど……」
 いまのところ、収穫はゼロ。隊員たちはいくつかの場所に分かれて調査をしていたものの、アリバイのない人間は居ない。残るは一人、調査隊の隊長だけだ。
「詩穂ー、サビクー、何か分かったか!?」
 そう言って駆けよってきたのはシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)。地道な調査があまり得意でない彼女は、、聞き込みを相棒のサビクに任せて周囲の警戒をしていたのだ。
「それらしい手がかりはないですね……二人で見破れない嘘なんてつけないと思います」
 そう言って詩穂は抱えていたアコースティックギターの弦をつま弾く。家令として培った丁寧な言葉とギターの調べは、人々の気持ちを落ち着かせるのに役立っていた。
「んー、そっか……。なーんか怪しいと思うんだけどな〜〜っ!」
「最後にもう一人だけ、隊長さんに話を聞いてみようよ。隊長さんなら何か知っているかもしれないしね!」
「詩穂もサビクちゃんに賛成です!」
 探してみれば、隊長の姿はすぐに見つかった。疲労を隠せない身でありながら、隊員たちへ言葉をかけたり指示を出したりと動き回っていたからだ。
「すみません、少しお話を聞かせて頂いても良いでしょうか?」
「あぁ、君たち……我々が不甲斐ないばかりに、こんな危険な場所へ来させてしまった。本当に申し訳ない」
「いえ、ボクたちは自分の意志で来たんだから、隊長さんが気にすることじゃないよ。それで、何か遺跡のことで分かったこと、ないかな。“誰が作ったのか”とか“この遺跡が何を封印しているのか”とか」
 サビクの言葉に、何か思い出そうとしているのだろうか、人の良さそうな教授が一生懸命に考える。
「いや、私にはこの遺跡が何を封印しているものなのか、見当がつかないな」
 隣で弦を爪弾いていた詩穂の手が止まった。疑心と確信がない混ぜになった視線を隊長へと送る。
「隊長さん……実は外の仲間から連絡が入ったんです。恐らく、この遺跡は封印のための遺跡じゃないだろうって」
「あ、あぁ、そうなのかい? だとしたら、少し考え方を変えてみないといけないかもしれないな。私も考え違いをしていたようだ」
 研究者失格だな、と笑ってみせる教授の肩に、サビクが手を置いた。
「それも嘘。ごめんなさい、ボクたちは封印方法じゃなくて、封印を破った犯人を捜しているんだ。封印の遺跡じゃないこと、隊長さんは知っていたんだね」
「ッ……!! 私としたことが!」
「あっ!」
 カマをかけられていたことに気付くも、既に遅い。彼はサビクの手を振り払って走り出す。周囲の人間は唐突のできごとに驚きを隠せず、走ってゆく隊長を見送ってしまう。
「追いかけなきゃ!」
「うん!」
すぐさまサビクが走りだし、詩穂は連れていたディアトリマに指示を出そうとする。
 が、それより早く隊長の前に立ちはだかったのはシリウスだ。
「邪魔だ、どけ!」
「へへっ、やっぱり犯人が居たな。じゃあ、天誅下させて貰うぜ!」
 シリウスの姿が、一瞬で激しさと艶やかさを兼ね備えた煌びやかなものに変化する。それは普段の彼女とは違う空気をを纏っていた。天高く指を突き上げ、威風堂々と宣告する。
「悔い改めよ、天・罰・覿・面!」
「ちょ、ちょっと待ったシリウス! それ以上はやめて!」
 相棒の言葉は、一瞬だけ遅かった。
 一瞬だけ天井に広がった星空から降り注いだ星型の隕石が隊長の頭に直撃したのだ。
 ガツン、といういい音が部屋の中に響いた。
「げふッ……くそ、無念……我が主、超国家神よ……お許しください……!」
「いや、だからオレがその主だって。そんなこと望んでないんだっつーの!」
(あちゃ〜、またシリウスの病気が……これはマズい……!)
 思わずサビクは片手で顔を覆う。彼女たちを見る周囲の隊員たちの視線が、イタい。隣を見ると詩穂が固まっていた。
「…………え、えぇと、シリウスちゃん。詩穂は、言って良い冗談と悪い冗談があると、思います! あ、アイシャ様に、いくらなんでも失礼じゃ、ないかな、です!?」
 国家神アイシャを心の底から愛する詩穂からすれば、許し難い言葉なのだが……明らかにシリウス本人は善意から悪人を取り押さえているだけに、どう反応して良いか分からない。思わず言葉使いすら乱れていた。
「ぁー……その、みんな揃ってそういう顔されても、オレ困るんだけどな……ほら、非常識なヤツには、もっと非常識なもんで立ち向かわないと駄目だろ?」
 どう説明したもんかなー、と頭を掻くシリウス。
 サビクは周囲がやんちゃな冗談だと受け取っている間に問題をすり変えることにした。
「ま、まぁ隊長さんが目を覚ましたら、いろいろと訊く必要がありそうだよね!」
「そ、そうですね! この方にも何か事情があるのかもしませんし!」
 詩穂も深く言及するのはやめたようだ。
 もっとも、隊長の頭には大きなコブが出来ていて、目を覚ますのには少し時間がかかりそうだった。

 *  *  *