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悪魔の鏡

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悪魔の鏡
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 さて、その少し前のこと……。
「なんてこった。この町に紛れ込んで来る連中がいたなんて」
 侵入者を発見してアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)は呟く。
 この空京の町は無人のはずだった。いつもと同じ通り、いつもと同じ光景。だが……、左右が正反対の幻想都市。彼の楽園が、乱れる。
「みんなで遊べばいいじゃない。そのほうが楽しいし、wellcome everybodyね」
 パートナーのアリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)は、食べ物をほおばりながら言うが、そんな様子ではなかった。
「仲間に入れてもらえなかったからso angryなのかナ?  Though they should play in this town if they expect it.ね」
 訝しがるアリスに、アキラは名残惜しそうに呟いた。
「ああ、予想外に残念な結末を迎えそうだ」
 ここにある空京の町は、彼の物だった。
 鏡を手に入れたアキラは、あろうことか空京の町をもう一つコピーしたのだ。
 鏡面に町の光景を映し出したらどうなるだろう。空京のコピーができるのだろうか。途方もないことを実行するのにためらいはなかった。
 鏡には対象物が半分以上写っていなければならないため、【空飛ぶ箒スパロウ】で町が鏡に映るほど空高く舞い上がり、全景を映し出した。
 どうやら、鏡の容量を大幅にオーバーしていたらしい。
 出来上がった空京の町のコピーはごく一角だけの小さなものだった。ミニチュアではなく、空京の町の一部分だけを作り出すのが精一杯だったようだ。
 それでも……。多くの契約者たちがやってくるのと同時刻くらいに現れた蜃気楼のような幻の空京。街の一部と隣接しており気をつけずに歩くと迷い込んでしまうほどの精緻なつくりだった。すべてが左右対称なのを除けば、そっくりそのままだった。
 せっかくこの誰もいない町で、道路に寝転がったり他人宅で箪笥を開けてみたり、遊びを満喫していたのに。
「あれは助けてあげた方が良いのか。それとも楽しんでいるのか」
 セフィーたちとセフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)がプレイしているのを発見したアキラは戸惑う。
「まあ、待て。奴等は危険だ。ここはあたしに任せてもらおう」
 アキラの背後から現れたのは、セフィーのパートナーのオルフィナ・ランディ(おるふぃな・らんでぃ)だった。彼女は、この町から上手く逃げ出すことができた美緒から事情を聞き、救援に駆けつけてきたのだった。
「見たところ、街に人通りはないが、皆隠れているんだろう? 賢明だね。オルフィナのニセモノは凶暴で残忍。仲間たちもすべてそうだよ」
「……いや、待つのはオルフィナ殿だよ。そもそもこの街は……」
 止めようとするアキラに、オルフィナは、わってる皆まで言うなと肩をたたいた。
「お前も隠れていたほうがいい。軍港を彼女らの仲間が占拠している。開放されるまでじっとしていることだよ」
「何だよ、軍港って……。そんなものねえよ」
 アキラはそう突っ込むが、彼女は聞いてはいなかった。緊張の面持ちでセフィーの蛮行を止めるべく敢然と向かっていく。
「おおい、どこへ行くんだ。この街は……」
 呆れるアキラに、アリスが楽しそうに微笑む。
「まあ、良いんじゃない? 彼女らは彼女らなりの演出でenjoyしているのよ。しばらくはlooking the fightでいいんじゃないかな?」
「いやまあ、彼女らがそれでいいなら、いいんだろうけどさ……」
 なんなのだこの展開は……? アキラは困ってその場に立ち尽くす。
 じっと見ていると、オルフィナは本当にセフィーと八人のコピーたち敵と戦い始めた。
「あら、オルフィナじゃない? どこに行っていたの? 心配していたのよ……」
 美女を攫うべく探していたセフィーが、オルフィナに気づいて嫣然と微笑みかけた。気色ばむオルフィナを押し止めるように抱きつくと小声で囁く。
「あたしたち、これから宝の山と美女の群れに囲まれて生きることにしたの。そのための収穫よ。手伝って頂戴」
「……」
「あなたも一緒に楽しみましょう。全てがあたしたちの物になるなんて素敵だとは思わない?」
「そうだね、残虐非道と呼ばれようが欲望と快楽に溺れて生きるのが俺の夢だ」
 セフィーの甘い誘いに、オルフィナは笑みを浮かべて頷く。
「そう……。とても懸命ね。あたしも好きよ、そういうの。さあ、一緒に行きましょう」
「だがよう、その為に仲間を利用して平気で踏みにじる程、俺はお前らみたいに下郎になって腐った覚えはねぇー」
 オルフィナは、セフィーを突き放すと怒りの形相になった。彼女には彼女なりの守るべき一線がある。そこいらの悪党とは違うのだ。
「だから……、覚悟しやがれ下郎ども……!」
 オルフィナは、セフィーたちと戦い始める。彼女らの欲望と信念をかけた激突だった。
「一体、何と戦っているんだ……?」
止めるべきか放って置くべきかアキラが迷っていると、アリスが袖を引っ張ってきた。
「dangerous policemenがcome hereヨ。彼らもpiayしに来たのかな?」
 彼女が指し示す方角に視線をやると、李梅琳をはじめ警官隊がなだれ込んできたのがわかった。町外れにもう一つの町が出現したのに驚き、大急ぎで探索に来たらしい。
「あっ……!」
 戦っていたオルフィナが驚いた声を上げた。
 あれほど猛威を振るっていたセフィーたちが、突如音もなく消滅したのだ。
 彼女らを作り出した鏡がどこかで破壊されたらしい。
 拍子抜けした表情でこちらを振り返るオルフィナに、アキラは小さく首を横に振った。
「諸々含めて、事情説明が大変だ」
 梅琳がこちらにやってくるのを見て、アキラは呟く。
 遊んでとても楽しかった。……彼女らは納得してくれるだろうか……。