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リアクション
三章 攻勢
口から煙を吐き出して迅雷は、破壊された右足を引きずりながら、怒りに身を任せるように地面を踏みつぶしながら歩いていく。
それを見ていた荀 灌(じゅん・かん)は芦原 郁乃(あはら・いくの)に声をかける。
「ど、どうしましょうお姉ちゃん……」
「大丈夫! 私に考えがあるから、荀灌は迅雷の隙をついて!」
「はい!」
荀灌の返事を聞いた郁乃は黙って頷くと迅雷の足下まで駆け寄った。
「援護するです!」
ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は歴戦の飛翔術で郁乃に続く。
ヴァーナーは飛空しながら這いずっている迅雷の顔に近づく。
「いくですよ〜!」
ヴァーナーは百合園の校歌を歌いながらレゾナント・アームズを発動させて、レーザーマインゴーシュを展開させて迅雷を斬りつける。
「ッッグアアッッァアアア!?」
レーザーの刃が迅雷の装甲を切り裂き、迅雷は後方によろめく。
「グググッッゥウウウ……!」
迅雷は煙を吐き出して持ち直すと、ヴァーナーと郁乃を追いかけ始める。
「ッッグウウッガアアアアアアッァアアアア!」
迅雷は叫び声を上げ、左足で郁乃を踏み潰しにかかる。
「わったた! こっちに気付いてくれたね! ほら、こっちだよ!」
郁乃は迅雷に背を向けて走り出し、
「ッッグウアアアアアアアアアアアッッァアアア!」
迅雷は踏みつぶそうと追いすがる。
地団駄のように地面を踏みつぶし、郁乃の背後の木々がなぎ倒されていく。やがて郁乃は拓けた場所に出た。
「ほら、こっちだよ!」
「ッッグアアアアッッアアア!」
迅雷は拓けた場所に足を踏み入れた──その瞬間、迅雷の足下が抜け落ちた。
「ッ!?」
浅く広い落とし穴にバランスを崩した迅雷はそのまま地響きと共に転倒してしまう。
「作戦成功。目標転倒しました」
落とし穴の仕掛け人アイゼン・ヴィントシュトース(あいぜん・う゛ぃんとしゅとーす)は事務的な口調で解説を入れた。
「やったねアイゼンくん!」
「作戦協力、感謝致します。イングラハム、最終工程に移って下さい」
「ふっ、任せておくがいい」
イングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)は触手に機晶爆弾を巻き付け、ぬるぬるとした動きで迅雷に近づいていく。
「損傷の激しい右足の関節に爆弾を設置することをオススメします」
「分かっている。我のことは気にせずアイゼンは吹雪に連絡するがいい」
「ッッッガアアアアアアアアアアアアアア!」
迅雷が叫んで上体を起こそうと暴れ始める。
「ぬお! 危ない……が、ふふふ……足の負傷で簡単には起き上がれまい」
イングラハムは機晶爆弾を右足に仕掛ける。
「ッッッグアアアッッァアアアアア!」
その瞬間、迅雷が両腕を使って上体を持ち上げ立ち上がり始める。
「む……まずい! このままでは爆弾を仕掛けられない……動きを止めなくては!」
「それなら、任せてください!」
迅雷が暴れ出したのを見て、隙を窺っていた荀灌と郁乃が動き出した。
「いくよ荀灌!」
「はい!」
二人は倒れている迅雷の後頭部に飛び乗り、郁乃は光条兵器を刀のような形で発現させると、迅雷の首筋の装甲を斬りつけて剥がし取った。
「荀灌!」
郁乃が短く名前だけを叫ぶと荀灌は黙って剣を抜き放ち、首筋に目を向け疾風突きを放った!
「いきますよ……豪雷閃!」
叫ぶなり、荀灌の剣から青白い電気が閃光のように迸り、
「ッッッグアアアッッァァ!!??」
迅雷が叫び声を上げ、
「ぎゃああああああああああああああああ!!?」
イングラハムが巻き添えを食らった。
「目標停止。爆弾の設置を確認、吹雪に合図を発信します」
そんな大惨事を無視して、アイゼンは吹雪に合図を送る。
遠くから仲間を見守っていた葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)はスナイパーライフルを構えて、迅雷の右足にある爆弾に狙いを付けた。
「イングラハム……そこにいたら爆発に巻き込まれちゃうけど、アイゼンは狙撃の合図を出してるんだよね……大丈夫なのかな?」
不安げな声を出しながら吹雪の指はトリガーにゆっくりと掛かっていく。
「でも……合図が出てるってことは向こうも考えがあってのことだよね……? なら、仲間を信じないと」
自分に言い聞かせるように言葉を呟いて、吹雪は引き金を引き絞り一発の銃声が響く。
発射された弾丸はまっすぐに爆弾目がけて飛んでいき、弾頭が爆弾にめり込み迅雷の膝が真っ赤に爆ぜて、
「ぎゃああああああああああ!」
いの一番にイングラハムが悲鳴を上げた。
迅雷は足下の爆発のせいで再び地面に倒れた。
「ああ、やっぱり何かのミスだったんだ……引きずり出さないと」
吹雪はため息をつきながら走り出し、迅雷の傍まで駆け寄る。
「イングラハム! 大丈夫?」
「不思議と怪我だけで済んでいる」
吹雪は一応生きているイングラハムを穴から引っ張り上げていると、
「ッッッグアアアア……!」
迅雷はいよいよ立ち上がることをやめて、両腕だけで這うよう進みだした。
「な……! 我は焼かれ損ではないか!」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! とりあえずここを逃げ出さないと。全員体勢を整え直すよ!」
吹雪が声を上げて、迅雷から離れていくと迅雷は吹雪達を無視してコンロンに向かって進み出した。
「ったく、しつこい奴だな。どうする楊霞?」
遠くで様子を見ていた紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は楊霞に声をかける。
「そうですね……」
「ま、どうするも何もないな、あのデカブツ壊さないことには話にならねえし。そんじゃ、ちと行ってくるわ」
話を振っておきながら話を聞かない唯斗は楊霞から離れて迅雷の進行方向に立ち塞がった。
「ガガアアッッッッガアアァアアア!」
迅雷は唯斗の姿を見て叫び声を上げるが、速度は緩めずそのまま唯斗に突っ込んでいく。
「よしそのままだ……来い来い……」
唯斗はゆっくりと膝を落とすと、行動予測を行い迅雷が突っ込むギリギリのタイミングで跳躍し迅雷の背に飛び込んだ。
激しく揺れる迅雷の背の上でバランスを取りながら、両手に闘気を纏わせる。
「我流雷光発剄『斬手』イコンより装甲が厚くないと防げないけど……どーなるかな?」
唯斗はそのまま手刀を振り下ろすと、手刀は迅雷の装甲を容易く貫いた。
「よし……このまま……畳返しだ!」
叫ぶなり唯斗はそのまま両手を上げて、迅雷の装甲を剥がし始める。
剥かれた装甲の下は配線が剥きだしとなり迅雷の背中からは一切の装甲が無くなってしまう。
「ったく……機械の身ぐるみ剥いだってなにも面白くねえな……ん?」
唯斗が何の気なしに上を見上げると、魔鎧のラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)を身に纏った牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)が上空を飛んでいた。
「装甲を剥がしてくれてありがとうございます。おかげで仕事がやりやすくなりました」
そう言って、アルコリアは斬巨刀を取り出した。
「お、おいおい……まさか……」
唯斗は苦笑を浮かべていると、
「いきますよ!」
アルコリアは斬巨刀の切っ先を地面に向けると、そのまま迅雷に向かって突っ込んで来る!
「じょ、冗談だろ!」
唯斗は飛び出すように迅雷の背から逃げ出し、その瞬間斬巨刀が迅雷の背に突き刺さった!
「ッァッッ!?!!?」
迅雷は口を開けて叫び声にならない声を上げる。
突き刺さった斬巨刀の周りでは火花が飛び散り、
「……ガアアアァァ……?」
迅雷は動きを止めて、正面を見ると視線の先にはヴァーナーの姿があった。
「もうお終いです! これでやっつけられてください!」
ヴァーナーはレーザーマインゴーシュに光りを収束させていき、
「いきますよ! レジェンドストライク!」
跳躍すると、迅雷の額に突き刺した。
「ガァッ……! アアアァッ……!」
迅雷は力なく叫び声を上げ、額から青白い光りが飛び迅雷の目から光りが無くなっていく。
「……アァァ……」
迅雷は短く言葉を吐き、やがて頭を落とした。
それから迅雷は動くことはなかった。