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御神楽 陽太&風祭 隼人

「えー。ではみんな、今年一年お疲れ様でした。そして、来年もよろしく。では、乾杯!」

「「「「「乾杯!」」」」」

 御神楽 環菜(みかぐら・かんな)の音頭の元、皆が一斉にグラスを上げた。ガラスの触れ合う小気味良い音が、辺りに響く。

 今夜の御神楽邸は、いつに無く賑やかだった。
 友人の風祭 隼人(かざまつり・はやと)たちを招いて、年越し忘年会開いたのである。
 参加者は環菜と、環菜の夫である御神楽 陽太(みかぐら・ようた)に、未来から来た二人の子孫御神楽 舞花(みかぐら・まいか)
 そして環菜のパートナーであるルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)と、その恋人の隼人。最後に、隼人の魔鎧風祭 天斗(かざまつり・てんと)の、計6人だ。

「さぁ皆さん、今夜は鍋ですよ!」
「あ、陽太様。私も手伝います」
「それじゃ、わたくしも」

 陽太と舞花、それにルミーナが手分けして、こたつの真ん中でぐつぐつと湯気を立てている寄せ鍋を皆に取り分ける。
 この鍋は、忘年会のために、陽太が一人でこしらえたものだった。

「はい、環菜さん。熱いですから、気をつけて食べて下さいね」
「わかってるわよ、そんなコト。子供じゃないんだから――って、あつッ!」
「ホラ、だから言ったのに……。大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫よ、だから子供扱いしないで!」

「どうぞ、隼人さん」
「あ、有難うルミーナさん」

「ハイ、天斗さん」
「お、サンキュー舞花。どれどれ――お!美味いなコレ!」

 一口食べて、天斗が歓声を上げる。

「うん、確かに美味い」
「ホント、いい出汁が出ていますね。それにこの赤味噌が、お肉とよく合います」
「流石は陽太様です!」
「陽太にしては中々の出来だわ」
「そ、そうですか?いやー、頑張って作った甲斐がありました。材料はたっぷり用意してありますから、どんどん食べて下さい」

 食材の吟味から調理まで、手間暇かけて作った料理を褒められ、喜ぶ陽太。

「ところでなんだ、このキノコ?シメジみたいだけど、なんかちょっと違うような……」
「そういえば、こちらのお肉も、初めて食べる味ですわ」
「流石は天斗さんにルミーナさん、よく気がついてくれました。これ、四州島のモノなんですよ」
「四州島の!?」
「わざわざ取り寄せたのですか?」
「ハイ。最近四州島で産直の通販が始まりまして。早速、取り寄せてみたんです。白峰登山の時に食べた鍋の味が忘れられなくて……」
「ああ。このキノコと肉、どこかで食べた事あると思ってたのよ。あの時ベースキャンプで出た鍋に入ってたヤツね」

 陽太と一緒に白峰に登った環菜が、「納得」という顔をする。

「そうかー。四州島でも通販が始まったかー。あそこの開国も、順調に進んでるんだな」

 四州島での事件を思い出し、思わず遠い目をする隼人。
 あれからまだ一年も経ってないのに、もう何年も前の事ような気がする。

「隼人さんが、若殿様の影武者になったんですよね?わたくしも、見てみたかったですわ」
「エ゛!?い、いや。そんな大したもんじゃないって」
「いやいや、中々の若武者振りでしたよ、隼人さん」
「素敵でしたよー」
「そうね。あの時は『馬子にも衣装とは、よく言ったもの』と、私も思ったわ」

 陽太と環菜、それに舞花が、その時の隼人の姿を思い出し、口々に褒めそやす。

「いや、いやいやいや!もう止めよう、その話は!」
「確か、写真があったハズですよ。ええと、ドコにあったかな――」
「え!本当ですか!?見せてください、陽太さん!」
「こ、コラ陽太!余計なコトすんな!!」

 などという思い出話に始まり、その後は白峰登山での苦労話や、「お陰で、ようやく御上先生に、入院中の借りが返せたわ」という環菜の述懐など、四州島の話にひとしきり花が咲いた。

 そうこうしているウチに、宴も中盤。
 飲酒しているメンバーにちょうどよい具合にアルコールが回り始め、やれ「知り合いが中国拳法を始めた」だの、「今年のライダーは、中盤から終盤にかけての盛り上がりっプリが半端ない」だのと、とりとめも無い話題で盛り上がった。
 
 そして気がつけば、テレビでは除夜の鐘が流れている。

「お、もうそんな時間か」
「今年も一年、早かったわね」
「そうですね」

 澄んだ鐘の音が、それまでの騒ぎとは打って変わった、落ち着いた空気を場にもたらす。
 
「ねぇ環菜さん。環菜さんは、今年あったコトの中で、何が一番印象に残ってますか?」
「何よルミーナ、藪から棒に」
「いえ。新年を迎えるにあたり、まずは一年の総括をしておくべきかな、と」
「相変わらず固いわね、アナタは――。まぁいいわ。私はそうね……。やっぱり、自分の足で冬山に登ったコトかしら。その気なれば飛空艇でひとっ飛びだけれど、苦労して登るのは、また違った味わいがあるわ」
「私はこの一年、この時代を満喫出来て楽しかったです!陽太様や、環菜様のコトも色々知ることが出来ましたし……」

 感慨深げに、舞花が言う。

「僕は、環菜さんと一年間一緒に居られたことですね!」
「何よソレ。いつもと変わらないじゃない」
「そんなコトないですよ、去年は半年だけでしたから」
「アナタまさか、この先ずっと、そう言い続けるつもりじゃないでしょうね?」
「あー……。いや、どうでしょう……。多分そうかも……」
「……どうしようもないバカね、アナタ」
「いいんです、バカでも。環菜さんと居られれば、僕は幸せですから」

「ハイハイ、ノロケはその辺にしてー」
「御馳走さまです♪」
「なっ……!の、ノロケなんかじゃ無いわよ!!」

 隼人とルミーナに茶々を入れられ、顔を真っ赤にして起こる環菜。

「そう言う隼人さんも、ルミーナさんと付き合い始めたばっかりじゃないですか。隼人さんやルミーナさんのノロケも聞きたいですねー」
「ちょ……!陽太さん!!」

 突然水を向けられ、赤くなるルミーナ。

「そりゃあモチロン、ルミーナさんと恋人同士になれた事が一番に決まってるじゃんよ」
「うわー!言い切っちゃった、隼人さーん!」

 ドヤ顔で断言する隼人に、「キャー!」と黄色い声を上げる舞花。

「ルミーナは?」
「わ、私ですか……?私は――そうですね、隼人さんと模擬結婚式をしたコトとか……」
「あー!あれはステキでしたねー」
「陽太さんには、出席してもらいましたね。あの時は、有難うございました」
「いいんですよ、そんな。お礼なんて。それより、本当の結婚式にも、是非呼んで下さいね」
「エッ!?隼人さんとルミーナさん、もう結婚するんですか!!」
「じ、実はこの間のクリスマスの時、ルミーナさんにプロポーズして――」
「な、ナニッ!プロポーズ!?実の父親にも内緒でお前――!」

 それまで黙ってテレビを見ていた天斗が、思わず口から飲み物を吹き出しそうになりながら、言った。
 魔鎧に宿っている天斗の魂は、隼人の父親のモノなのだ。

「内緒もナニも、俺はもう二十歳だ!自分のコトは、自分で決められる」
「二十歳になったばかりの若造が、ナニ知ったような口を。結婚なんて、そんな簡単もモンじゃねぇんだぞ」
「そんなコトわかってる」
「いいや、お前はわかってない」
「なんだと!!」

 思わぬ天斗の言葉に、思わず食って掛かる隼人。

「隼人さん――ちょっと、いいですか?」
「ルミーナさん……」

 その隼人を、ルミーナが止めた。
 ルミーナは、天斗の前に正座すると、居住まいを正し、彼の前に手そっと手をついた。

「天斗さん――いえ、お義父様」
「お――オゥ」

 ルミーナの突然の呼びかけに、鼻白む天斗。

「お義父様のおっしゃるコト、もっともだと思います。確かに私たちのような未熟者には、まだ結婚は早いのかもしれません。でも――」

 ルミーナはそこで言葉を区切り、陽太と環菜に目を向ける。

「私は、私のパートナーである環菜さんと、旦那様の陽太さんから教わりました。愛する人を失う哀しみが、どれ程辛いかを。そして、愛する者同士共に手を取り合って、支えあいながら生きるコトが、どれ程素晴らしいコトかを――。私は、隼人さんを支えてあげたい。共に未熟な者同士、隼人さんと二人で、一緒に成長して行きたい……。お願いします、お義父様。隼人さんとの結婚、許して頂けないでしょうか?」

 真摯な瞳で、天斗の目をまっすぐに見据えるルミーナ。
 そのルミーナの目を、真っ向から見つめ返す天斗。
 隼人も含めた全員が、その場の成り行きを固唾を飲んで見守っている。

「……なるほど。『金の草鞋(わらじ)を履いてでも探せ』か」

 フゥ、と溜息を一つ吐いて、天斗が口を開いた。

「ルミーナさん、貴女の気持ち、確かに受け取った!ウチの息子はバカだが、どうやら人を見る目だけは確からしい」
「誰がバカだ、誰が!」

 隼人の抗議を完全にスルーして、天斗はルミーナに語りかける。

「ルミーナさん、俺は隼人が子供の頃死んじまって、親らしい事は何一つしてやれなかった。そんな俺が今更親ヅラしていうのもなんだが――こいつの事、頼みます」

 そう言って、深々と頭を下げる天斗。

「お義父様――!」
「親父!」

 天斗の言葉に、手を取り合って喜ぶ隼人とルミーナ。

「おめでとう、隼人さん!」
「良かったですね!隼人さん、ルミーナさん!」

 口々に祝福の言葉を贈る、陽太と舞花。

「よく言ったわ、ルミーナ。それでこそ、私のパートナーよ――幸せになってね」  
「環菜さん……」

 思わず涙ぐむルミーナ。

「あ、有難う、みんな!結婚式には、必ず来てくれよ!」

 晴れやかな顔で言う隼人。 

「いいか隼人。これからは、お前一人の身体じゃない。絶対に、死ぬんじゃないぞ――もっとも、俺がそう簡単には殺させやしないがな」
「ああ!よろしく頼むぜ、親父!」

 そう言って、ガッシリと抱き合う隼人と天斗。

「あ、見て下さい!ちょうど今、新年ですよ!」

 舞花が指差すテレビには、新年を祝う群衆が映し出されている。

「いやー、めでたい!今年はハナから、実にめでたい!よし、飲むぞー!」
「お付き合いしますよ、天斗さん!」
「ちょっと、陽太!しょうがないわね、もう……」
「いいじゃないですか、環菜様!お祝いですよ、お祝い!」

 新年を迎え、一気に酒盛りモードに突入する天斗たち。
 その喧騒を他所に、隼人とルミーナは、互いの手を取り合い、見つめ合う。

「ルミーナさん、改めて、よろしくお願いします」
「こちらこそ、ふつつか者ですが、よろしくお願いします」

 二人の新しい一年は、こうして、幕を開けた。