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村と森と洞窟と

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村と森と洞窟と

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村の案内

「それじゃ、村の案内をさせてもらいますね」
 昼過ぎ。瑛菜を始めとする契約者達を相手にミナホはそう言う。場所は村の集会所。ここから出発をして村を説明しながら回っていく予定だった。
「村を回る前に少しだけこの村の置かれている状況を説明させてください」
 そう前置きをしてミナホはこの村の概要を説明し始める。
「村のある位置はイルミンスールの森の南西部付近。人口は300人程度しかいません。人口の比率10までの子どもが2割、10代から20代の若者が2割、30代から50代までの人が6割を占めています」
 そんな説明から始まり、村の水源は森の湖であること、村では一応林業が行われているが、村人のほとんどが出稼ぎに出ていて活発といえる産業はこの村では起こってないことざっと説明する。
「ここまでで何か説明はありますか?」
 ミナホがそう聞くと手を上げるものがいた。ミネッティ・パーウェイス(みねってぃ・ぱーうぇいす)のパートナーで、旅好きのアーミア・アルメインス(あーみあ・あるめいんす)だ。この場にパートナーはいないがこうして一人旅をしていることは珍しくない。今回もたまたま立ち寄ったニルミナスでちょっとした観光をしていた。
「この村特有の美味しい物とか綺麗な景色とか何かあるのかしら?」
 それこそ旅の醍醐味だろうとアーミアは聞く。
「美味しいかどうか走りませんが、薬草を使った郷土料理はありますよ。多分今日の夜宿の方で出されると思います。……景色の方は見てもらったほうが早いですね。話はこれくらいにして村を回りましょうか」
「わかったわ。楽しみにしておく」
 そうアーミアが返事をし、一行はミナホの先導で村の入口付近へと歩いて行く。
「村の入口付近は畑になっています。といってもまだ何かを植えていたりするわけじゃありません。耕していつでも植えれるようにしてはいますが……」
 そんな説明をしながらミナホ達は村の入口付近(方角としては南側)につく。
「おめーら、どっから来たったと?」
 ついた一行にそんなコテコテの訛りで話しかけてくるのはレオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)だ。パートナーのクレア・ラントレット(くれあ・らんとれっと)の姿もある。二人とも定番の農作業ルックでなんかゴボウを抜いてる。
「……なにしてるんですかレオーナさん」
 軽い頭痛を思えながらミナホはそう聞く。
「あれま、ミナホちゃんしばらく見ないうちに偉いべっぴんさんになって。うちのクレアの嫁にこんか?」
「いや、昨日も会いましたし、クレアさんの嫁になるのはいろんな意味で無理です……というかその話し方やめてください」
「えーっ……ミナホちゃんのりが悪いよ」
「……クレアさん、説明をお願いします」
 レオーナと話していても埒が明かないとミナホはクレアの方を見る。
「よ……よぐ来たなー、これでもお召し上がりくださ……食っていかんねー」
 クレアはそう言って恥ずかしそうに非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)に抜いたゴボウを渡していた。
「あ、ありがとうございます……?」
 近遠も戸惑い気味に受け取る。
「クレアちゃん、その格好可愛いですわね」
 そういうのは近遠のパートナーであるユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)だ。
「うむ。素朴な感じが似あっているのだよ」
 同じく近遠のパートナーであるイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)をそう続く。
「クレアさんの儚さが際立っているとアルティアも思うのでございます」
 と、自身がはかなげな様子でアルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)が続いた。
「褒められているはずなのに嬉しくないのは何故なんでしょうか……」
 そう落ち込んでいる様子のクレアの肩を叩き、ミナホは自分に気づいてもらう。そしていつものクレアのように丁寧な説明をしてもらった。
「……はぁ、第一村人発見を演出するためですか……そのためにゴボウまで植えるなんて……」
 レオーナらしいというか、相変わらずの暴走っぷりにミナホは頭が痛くなる。
「え? このゴボウって村で植えてるものじゃないんですか?」
 そうショックを受けたように言うのは白峰 澄香(しらみね・すみか)だ。村に立ち寄った澄香はレオーナたちがゴボウを植えてる姿を見て手伝ったほうがいいんじゃないかとボランティアで手伝っていた。それがまさかただのドッキリ用の演出と聞いては微妙な気持ちになるのも仕方ないだろう。
「しゃあない。澄香。頑張って抜いたろ。最初から大きいゴボウを植えてることに疑問を思わなかったわいらにも問題はある」
 そう慰めるようにして言うのは澄香のパートナーであるオクト・テンタクル(おくと・てんたくる)だ。確かにそこは疑問に思ってしかるべきだろう。
「大丈夫ですわ。あたしは楽しめましたの」
 そう言ってユーリカは澄香を慰めるようにして言う。
「うむ。結果はどうあれ、そのボランティアの精神は褒められるべきものであろう」
 真面目なイグナはそう言う。
「アルティアも落ち込むことはないと思うのでございます」
 ふわふわとした様子ながらアルティアもそう言う。
「そうや、澄香。制服姿で畑仕事をして泥だらけになってる姿は素晴らしいで! 人気急上昇や」
「……そんな人気いらないです」
 パートナーの陽気な励ましに澄香はため息をつく。
「ふーん……あの子、うちの学院の娘みたいね」
 そんな澄香の様子を見て呟くのは百合園女学院で教育実習中の宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)だ。
「? なんで分かるんだ?」
 そう聞くのは祥子のパートナーである宇都宮 義弘(うつのみや・よしひろ)だ。
「うちの学院の制服着てるじゃないの」
「あれがうちの学院の制服なのか」
 へーっと義弘は納得する。
「それくらい知っておきなさいって……まぁ、制服着てる娘なんてあんまりいないものね」
 最初こそ各学園の制服を着てはいるが、それを着続ける契約者は稀だ。
「ところで制服に泥だらけでどうして人気が上がるんだ?」
「……制服が汚れても頑張るひたむきさの心を打たれるからじゃないかしら」
「そうなのか。制服どろんこってすごいんだな」
 素直に感心している様子の義弘。
(……好奇心が旺盛なのは喜ばしいけど、少し触れさせるものを考えるべきかしら)
 ギフトを託した先人に申し訳ない気がすると祥子は思う。

 そんなこんなで騒がしい中、レオーナは誰にも聞かれていないだろうなぁと思いながら言う。
「ここはまだまだなーんもないけど、街道で村と街が繋がったように、人と人、人とモンスター、女の子と女の子、私とミナホちゃん、いろんなものが繋がる、繋がりと共存の村じゃよー」


 レオーナの起こした騒ぎを抜け出し、一行は村の東の入口付近、今は薬草が栽培されているところに来る。
「この薬草はもともとは森にだけ生えている薬草ですが、契約者さん達の協力で栽培に成功しています。郷土料理に使われる薬草もこれです」
 そうミナホは説明する。
「あと、ここの入り口からが森や鍾乳洞は近いですね」
 鍾乳洞、という言葉を聞き義弘は不思議そうな顔をする。
「鍾乳洞って洞窟? 探検する所? 行ってみたいなー」
「そうね。帰りに寄ってみましょうか」
 義弘の願いを祥子は承諾する。
「ミナホ。次はどこに行くんだ?」
「……実は、皆さんに謝っておきたいんですけど、村の案内できる所は次で最後です」
 瑛菜の質問にミナホはそう返す。
「……マジ?」
 流石の瑛菜も苦笑い気味だ。本当に何もない村なんだなと思う。
「はい。……そして、そこは村の中心で……村が出来た理由そのものでもあります」
 そうしてミナホの最後の案内が始まった。


「実は、この村はできてから10年ほどしか経っていないんです。ここに住みたいといった人達が集まってできた村。それがこの二ルミナスなんです。住むことだけで村人たちは満足し、生活の基盤は外に求めた。だからこの村は本当に何もないまま発展もせず今に至ります」
 ミナホを始めとした若い世代はそれではダメだと主張した。だが、ただでさえ少ない人口の中でもミナホと同年代の人間は少ない。村を変えるには外の……契約者達の力が必要だった。
「この、何もない所に村を作った理由……それがここです」
 ミナホがそう言って止まった広場、村の中心部。そこには一つの女性を模した像があった。
「ここにはかつて、一人の女性が治めた街がありました。この像はその女性をかたどったもの……ミナス像です」
「これ……古代文明のものね。たまに遺跡で見る素材で出来てる」
 像を観察した祥子はそう判断する。
「そうらしいです。多くの時を経ているはずなのに朽ちる様子がありませんから」
「でも、どうしてその女性が治めていたという場所に村を? 善政をしいていたという伝説でもあるんですか?」
 どうして村を作ることになったのか腑に落ちない近遠はそう聞く。
「それが……村を作った人たち……つまり父たちなんですが、どうして作ったのか聞いても、今私がした説明しかしてくれないんです」
 でも……と、ミナホは置いて言う。
「この像を見ているとどうしてか温かい気持ちになるんです。ちゃんとした理由はあるのかもしれません。でも、今はまだそれでいいと、私は思います」
 この像を見ているとこの村を見捨てる気にはなれないからと。
「もうひとつ聞いてもいいですか? この村を拠点にして活動する契約者を募集しているのはどうしてですか?」
 続けて近遠は聞く。
「この村を大きくするには外からの協力だけじゃ足りないんです。この村を愛して、一緒に内側から変えていってくれる力が必要なんです。このミナス像に負けないくらい大きくするには」
 そして、アテナさんとの約束をまもるためにも……。
 最後に付け足した言葉は誰かに聞き届けられることはなく、騒がしくも短く、わびしかった村の案内は終わった。


「これで写真のアップは終了っと」
 夜。宿にてアーミアは今日この村で撮った写真などをブログにアップする。写真は先ほど食べた郷土料理とミナス像だ。
「料理とワインはそれなりに美味しかったかな」
 それだけで村に足を運びたくなるようなものかと聞かれたらノーだが。近くに寄った時に食べていこうかなと思うくらいには美味しかった。
「でも、本当に何もない村だったなぁ……人も少ないし、評価のしようがないよね」
 聞いてみれば特産物といえるものもないそうで、本当に評価する点がない――
「――というわけでもないか」
 村の出来た理由と村のこれからは少しだけ興味が持てるものがあった。それというのも……。
「村長のやる気だけは評価できるかな」
 彼女に契約者たちが協力するのであれば……もしまたこの村にきた時はもう少し楽しめるかもしれないとアーミアは思った、