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【ぷりかる】祖国の危機

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【ぷりかる】祖国の危機

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第五章

「百合園のご学友であるソフィアさまのお母様の危機……! これを見過ごしては、百合園生徒として一生残る恥となりましょう! アグラヴェイン。不埒なるテロリストどもに正義の天誅を下しに参りますわよ!」
「お嬢様、まずは敵場偵察でございます」
「わ、判っておりましたわ! しかし、わたくしのような可憐で華麗なる美少女が邪悪なる要塞を探索しては怪しまれる事は必須。ここは、プロレスラー『スワン・ザ・レインボー』の出番ですわね。あふれ出る優雅さは変わらなくとも、これで顔を隠す事はできますわ!」
「お嬢様……マスクの形と色ですが、いかにも偽物っぽく変えておきましょう」
 早速マスクを装着しようとする白鳥 麗(しらとり・れい)の手からマスクを取り上げると、サー アグラヴェイン(さー・あぐらべいん)はもっと作りの荒い、偽物感漂うマスクを渡した。
「これではまるで偽物ですわ」
「偽物でございますからな。流石に、本物として行動しては素姓が割れてしまいます。あくまで私たちはレスラーのグッズを装着した賊でございます」
「仕方がありませんわね。では、まいりましょうか。要塞の内部情報も重要ですが、わたくしはソフィア様に仇なす者達……つまり敵の素姓も調べたいですわ。敵が何者なのかさえ分かっていれば、禍根を根元から断つ事ができますものね!」
「はっ!」
 麗とアグラヴェインはマスクを装着すると、幽霊城へと近づく。
 二人が進む先には、ちょうどデメテールたちが警備をする予定の城壁が続いていたが、そこにデメテールの姿はなかった。
「んー、あと5分ー……」
 基本的に引きこもりなデメテールは、数日間何も起こらなかったことにより警備の仕事に飽きてしまったのだった。
 そのため、交代時間になってもまだパジャマ姿で布団にくるまっていたのだ。
 そんなことを知るよしもない麗とアグラヴェインは少しずつ幽霊城との距離を詰めつつあった。 

「お姉さまのお母様ということは、私にとってもお母様……! これはぜひとも救い出さなくてはいけないよ!」
「分かりましたわ。分かりましたからレオーナ様、どうか声を潜めてください!!」
 ぐっと拳を握り高らかにそう宣言するレオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)の袖を引き、クレア・ラントレット(くれあ・らんとれっと)は兵たちの死角へとレオーナを誘導する。
「でも、お母様を幽閉するなんて、ほんっと許せないよね!」
「レオーナ様、シーッ!!」
 城の外壁にロープを置きながら、ごく自然に、普通に話してくるレオーナに、クレアは慌てて口元に指を立てた。
「あ、そうだよね。ごめんごめん」
 隠密行動ということを思い出したレオーナが笑いながら謝るが、特に声を潜めたりはしない。
 こんな時にも安定の能天気さを誇るレオーナに、クレアは密かに頭を抱えた。 
「よし、オッケー!」
 一通りロープを配置しバイクのガソリンを撒き終えたときだった。
「侵入者ヲ発見シマシタ。掃除ヲ開始シマス」
「わー! なんか来たああああああっ!!」
 『侵入者お掃除モード』に変形し、城を警備していた発明品が、二人を発見しすぐさま接近してきたのだ。
 見事な探知能力である。
「ちょ、ちょっとクレア! なんかアレヤバいもんついてない!?」
 大砲部分にエネルギーが集まるのを見て、騒ぐレオーナの手を取ると、クレアは咄嗟に縄に向かってファイアストームを放つと、そのままレオーナを引っ張るように城から距離を取る。
 発明品の大砲から機晶爆弾が発射される直前、燃え上がったロープの炎が発明品を直撃した。
 その瞬間、発明品が誘爆を起こし、爆発音が起こった。
「今ですわ!」
 兵士たちに動揺が走った隙を見て、麗とアグラヴェインは城内へと侵入する。
「爆発か!?」
「モルゴース様と、ペルム城のテミストクレス様にご報告を!」
 城内でも、突然の事態に混乱した兵士たちが忙しなく動き回っていた。
「あら、どうやらわたくしたちは、一刻も早くここから出る方法を探ったほうが良いみたいですわね」
「さようでございますな」
 侵入を果たすや否や重要な情報を手にしてしまった二人は、まずはこの情報を伝えることが先決と、すぐさま隙を見て幽霊城を抜け出すと、レキに情報を伝えた。

「我々の存在や目的が露見すれば、当然対応もされるだろう。そうなれば、情報を持ち帰っても価値は失われ、無駄になると思え」
「大丈夫ですわ……ティーの分からない場所に隠したから……盗み食いされる心配はありませんもの……むにゃぁ……」
 警備が手薄になる、見張りの交代時間を狙っていた源 鉄心(みなもと・てっしん)は、突然の爆発を利用する作戦へと変更し、ティー・ティー(てぃー・てぃー)イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)とともに一気に城への間合いを詰めた。
 イコナは明らかに寝ぼけ頭でおかしな会話になっていたが、しっかりとマントで身を隠しながら鉄心とティーの後を付いて動いていた。
「ククク、メカハデスの力でこの城塞の警備も万全……む、何者だっ?!」
「しまった!」
 遮蔽物から最後の扉への獣道で正面からハデスに遭遇してしまった鉄心は咄嗟にティーとイコナを庇うように抱え、草むらに飛び込む。
「……なんだ、ただの猫か。そういえば先ほど良い音がしたな。悪の秘密結社として、音の正体を暴かねば!」
 ハデスはそう叫ぶと、颯爽とその場を後にした。
「見つかったのがあの男で良かった……」
 思わずそう呟くと、鉄心は二人を連れ、城の中へと潜入した。

 兵士たちが駆け付けたころには、ロープはほとんど燃え尽きており、ただ発明品が自爆しただけと思われる光景が広がっていた。
 人騒がせな、と兵士たちが忌々しそうに声を荒げる少し先で、レオーナは俯いた姿勢で椅子に座りこんでいた。
「燃えたよ……まっ白に……燃えつきた……まっ白な灰に……」
「証拠のロープはきちんと消えたようですね……しかしレオーナ様。何、真っ白に燃え尽きてるんですか……そしてグローブやトランクスなんか、いつのまに……」
 城の様子を窺っていたクレアは、そんなレオーナの姿を見ると必死に涙をこらえた。
「全身灰塗れじゃありませんか……」
 クレアはレオーナを引き摺るようにして幽霊城を離れた。
 
 鉄心たちは、ティーの先導で幽霊城のホールを壁づたいに進んでいた。
 被発見率を下げるために光源は使わず、姿を隠しながらも素早く進む。
 トラップのありそうな場所はすかさずティーが確認し、記録を取っていった。
 幾つ目かの角を曲がったところで、一同は突然開けた、煌々と明かりの灯る大広間に出てしまった。
 がやがやと話しながら多くの兵士たちが動き回っている。
「しまった!」
「鉄心、ティー、行きますわよ」
 咄嗟にイコナが小さく宣言すると、二人と一緒に天井近くまで飛び上がる。
 その下を兵士たちが話しながら通り過ぎていった。
「さっきの爆発、結局あの変な新入りの機械だったんだろ?」
「人騒がせだよな。しっかし、ほんとになんかあったとき、オリカ様って誰が運び出すんだ? 石になってると意外と運びにくいんだよな」
「石になってる……? 随分と厄介な状況みたいだな。ティー、トラップの状況はどうだ?」
「少なくとも入口からここまではほとんどありません」
「まさか幽霊城に突入してくるなんて思ってないんだろうな……今回はここまでだ。ティー、イコナ、引き上げるぞ」
 3人はまた密かに城内を移動すると、外へ出て情報をレキに伝えた。