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煩悩×アイドル

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第5章 まだまだ煩悩

「ああんもう! わたくしの前で“ゆるふわ”なお洋服を着ているなんて、いい度胸ですわ!」
「きゃー!」
 観客席での騒動を耳にしたナディム・ガーランド(なでぃむ・がーらんど)は、見覚えのある顔をその顔が繰り広げている光景に絶句した。
 ナディムがかつて関わったことのある、KKY108のお嬢様アイドル美雪。
 彼女が客席に座っている女の子、それも可愛い系の洋服を着ている女の子を狙って襲い掛かっていたからだ。
「ほらほら早くそのお洋服を脱いでわたくしに寄越すのですわ! いえ手ぬるい! 無理矢理脱がしてでもそのお洋服をいただきますわ!」
「いやー!」
「ちょ、ちょっと何やってんだ美雪のお嬢さん!」
 美雪は一人の少女に標的を定めると、彼女をステージ上へと引っ張った。
 そしてそのまま彼女の服に手をかけ、ぶちぶちとボタンを引きちぎろうとする。
 させまいと抵抗する少女。
 揉み合った二人はステージ上で転がり、美雪のタイトスカートに隠されたおパンツが……!
「あっぶねええええ!」
 しゅたっ!
 絶妙の角度に、ナディムが走りこんだ。
 客席からはナディムの頭で美雪のタイトの中身は見えない。
 もちろん、ナディム自身も目を逸らしている。
「ぶー!」
「邪魔だー!」
「ひっこめー!」
 客席からのブーイングには構わず、ナディムは部隊に駆けあがると美雪を羽交い絞めにする。
「と、止めないでくださいませー!」
「そうはいくかよっ!」
 ナディムの拘束から逃れようと、美雪がもがく。
 その拍子に、悲劇は起きた。
 ぶちいっ!
 ナディムが引っ張った衝撃で、美雪の衣装の肩口を留めていた金具が吹っ飛んだ。
 留める物のなくなった美雪の上着は、ぺろんと下に落ちて行き……
「きゃ、きゃぁああああ!」
 美雪のピンク色のブラが露わになる。
 彼女の小振りな胸の形が白日の元へ!
「おぉおおおおお!」×多数
「う、うわぁあああ! すまない……!」
「いや、良くやった! そのまま娘を捕まえておくのだ!」
 混乱する二人の前に立ったのは、バールを構えたお医者さん、アヴドーチカ。
「ええと、すぐ戻りますから落ち着いてくださいね」
 アヴドーチカと共に駆けつけた結和が、美雪に上着をかける。
 若干落ち込んでいるように見えるのは、まだ先のことを引きずっているかららしい。
「では、行くぞ!」
 ゴーン!
 アヴドーチカのバールが美雪に決まる。
「はっ、わ、わたくしは……」
「正気に戻ったか、美雪のお嬢さん」
 美雪の様子を見て、ナディムは腕の拘束を解く。
 しかしそこで、美雪は気づいてしまった。
 自分の胸を丸出しにした犯人がすぐ後方にいることに。
「な……なんてことしやがりますのこのお馬鹿ナディムぅうううっ!」
 ばちーん!
 これはこれでなかなか良い音が響いた。

   ◇◇◇

「あ……ん、もう、早く寝たいのにこんな……」
「せ、セレアナ……っ、あたしが早く助けてあげるか、ら……っ」
「にヘヘ〜、おねーさまぁ」
「やっ、アリッサちゃんの前で、駄目……」
 うぞぞぞぞぞぞ。
「たーげっと、捕捉中。たーげっと、捕捉中」
 ハデスの発明品はまだ暴走していた。
「いー………い加減に、しやがれえっ!」
 がごっ!
 目に余る発明品の暴走を、ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)が断罪する!
「ガ……衝撃。機能停止サセテイタダキマス」
 ベルクの攻撃に、いともあっさりと全機能を停止する発明品。
 ぼとぼとぼと。
「きゃっ!」
「いたたたた……」
 触手がほどけ、落ちていく少女たち。
「はっ、今よ……ごめん、セレアナ!」
「え?」
 ゴーン!
 セレンフィリティのぐーぱんちがセレアナに決まる。
「セレン……私、今まで……」
「セレアナ! よかったあ!」
 正気に戻ったセレアナに抱き着くセレンフィリティ。
「もう! セレアナを攻めていいのはあたしだけなんだから!」

「フレイ、フレイ……大丈夫か!」
 発明品には目もくれず、真っ先にベルクが向かったのはフレンディスの所だった。
「ああ……ありがとうございます、マスター。なんとか助かりました……」
「良かった! 助かって良かったですわねおねーさま!」
「てめーは喜んでたみたいだけどなこの無機物クソガキ」
 ベルクの声を無視して、魔鎧状態が解けたアリッサはフレンディスに密着する。
 いや、それは密着以上の状態に。
「あ……もう、そんなに甘えないでくださいアリッサちゃん」
「おねーさま……あれ?」
 がしいっ。
 アリッサの頭を鷲塚む手があった。
「ふ……ふふふ、このクソガキがぁあ! ほら今すぐこのゴミ袋に詰めて海に捨てんぞ!」
「あ〜〜っ、何するんですかベルクちゃん! 今日こそは亡き者に……」
「やれるもんならやってみな」
「ちょ、ほんとにゴミ袋に詰める人がありますかあっ! や、縛らないで〜!」
「ほれほれ……あ、フレイ、気にするな。これはアイドルとしての修業なんだ」
「そ、そうなんですか……お二人とも、今日も仲良しで嬉しいです」
 二人の騒動を、にこやかに見守るフレンディスだった。