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【ですわ!】パラミタ内海に浮かぶ霧の古城

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【ですわ!】パラミタ内海に浮かぶ霧の古城
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「食らいなさい!」
 セシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)は魔力を高めて【ホワイトアウト】を放つ。
 ≪アンデットナイト≫ごと飲みこもうとする吹雪から、コルニクスは間一髪抜け出す。
「やるな……」
「脇ががら空きだぜ!」
 横からエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が脇腹へと拳を叩きつけた。
「――ぐぅ!?」
 吹き飛ばされたコルニクスは、大理石の上を派手に転げまわった。
「てめぇだけは許さねぇ……ナラカで後悔させてやる」
 アーベントインビスに友人を傷つけられたエヴァルトの怒りは頂点に達していた。
「ぬぅ、まずい。援護に行かねば――」
「させるわけがないでしょ……」
 苦戦するコルニクスの援護に向かおうとした辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)の前に、禁書 『フォークナー文書』(きんしょ・ふぉーくなーぶんしょ)が立ち塞がる。
 禁書 『フォークナー文書』が叩き込む魔法に行く手を阻まれ、すんなりとは先へ進めない刹那。
「ええい、邪魔じゃ!」
 刹那は毒虫を放ち、禁書 『フォークナー文書』が対応している隙に冷気を帯びた剣を放つ。
 それを咄嗟に魔法で弾き飛ばした禁書 『フォークナー文書』。
 だが、その裏に隠れてきた短刀が膝を掠めた。
「ちょっと危なかっ――あら?」
 直撃を避けたことに安心していると体が痺れ、座り込んでしまう。
「刃にしびれ粉を含ませたのじゃ……トドメじゃ!」
 刹那は再び短刀を投げつけ、勝利を確信する。
 抵抗することもできない禁書 『フォークナー文書』は黙って死を待つしかない。
 そして、一直線に禁書 『フォークナー文書』の胸を貫こうと進んだ刃は――カランと乾いた音を立てた。
「大丈夫か?」
 間に入った霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)に護られ、短刀は床に転がっていた。
「助かった……」
 禁書 『フォークナー文書』がホッと胸を撫で下ろす。
「ええい、仕留めそこなったか」
 刹那は悔しそうにしながらも、この場を≪アンデットナイト≫に任せてコルニクスの援護に向かいだす。
 泰宏達を囲むように襲いかかる≪アンデットナイト≫。
 すると、彼らが一斉に緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)の放った吹雪の中に包まれる。
「私と芽美ちゃんが援護します。やっちゃんは回復を!」
「承知」
 泰宏は仲間に守られながら、禁書 『フォークナー文書』の治療を行う。
 月美 芽美(つきみ・めいみ)は止んだ吹雪の中に飛び込み、一撃ごとに敵を壁まで吹き飛ばしていく。
「雑兵が束になっても意味ないのよ!」
 一方、コルニクスの所に向かったはずの刹那は、ミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)に足止めされていた。
「次から次へと邪魔なやつらじゃ」
「お兄ちゃんの所へはいかせません! 貴方一人くらい私が止めてみせます!」
「でしたら、二人ならどうです?」
 どうにか足止めしていたミュリエルだったが、別方向から斬りかかってきたファンドラ・ヴァンデス(ふぁんどら・う゛ぁんです)に驚き、尻餅をついてしまった。
「終わりです……」
 喉元に槍を突きつけるファンドラがトドメを刺そうとした瞬間、剣戟が襲いかかる。
「女の子相手に二人がかりなんて見てられないわね」
 咄嗟に距離をとったファンドラとミュリエルの間に、想詠 瑠兎子(おもなが・るうね)が割りこむ。
「ワタシが前に出るわ。援護をお願いね」
「はっ、はい!」
 瑠兎子とミュリエルは、協力して足止めを行う。
 近くではコルニクスが生徒達に追い詰められている。
「あいつら何をやっているんだ!? 役立たずどもめが!」
 窮地に追いやられているのはアイツらのせいだと、コルニクスは刹那達を責めた。
 そんなコルニクスの目の前に、想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)の放った雷が降り注ぐ。
「絶対に許さない! 大切な友人を……ポミエラを傷つけたこと!」
 夢悠は怒りをぶつけるように魔法を放ち続けた。
 すると、その様子に気づいた瑠兎子が声をあげて呼びかける。
「夢悠! 気持ちは痛いほどわかるけど無茶しちゃダメよ! 倒すことより大事なことがあるでしょ!」
「うん! わかってる!」
 それでもここで決めたい。コルニクスを自分の手で倒したい。
 飛び退いたコルニクスが、砕け散った大理石の欠片を踏みつけ、ほんの少しバランスを崩した。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
 その隙を逃すまいと夢悠は魔法を唱える。
「これで――!!」
 両手に集まった電流が頭上に上がり、稲妻へと変わる。
 怒りを魔力に変えて、夢悠は全力の魔法をコルニクスに放とうとした、その時――身体が急に押しつぶされるような感覚に襲われた。
「なに、が……」
 立っていることができず、膝をつき、うつ伏せに倒れた。 
「ふふ……ふはははははははははは!!」
 コルニクスが高笑いを浮かべ、真っ黒な天井を仰いだ。
「見たか!? これが我らが世界統一国家神様が与えてくださった力! ≪闇巣食う牢獄≫(シャドウレイヤー)の真の能力だ!」
 ≪闇巣食う牢獄≫……≪シャドウレイヤー≫に≪バイオレットミスト≫を加えて凝縮したこの空間では、仮契約書の効果も及ばないだけでなく、生徒達は体力を奪われ続ける。
「見たまえ! キミたちの力が私に流れ込んで傷を癒してゆくぞ! あははは…」
「くそ、限定解除が……一歩も動けない……」
 マスコットの猫に戻ってしまった夢悠を、コルニクスが踏みつける。
「おやおや、これは可愛らしい。売りさばけば二束三文にはなりますかね」
 コルニクスの靴の下で、夢悠は必死に手足を動かそうとする。
「諦めなさい。ここは≪シャドウレイヤー≫と≪バイオレットミスト≫の効果を凝縮した空間。ヘタに動き続ければとすれば、それだけで命を落としかねませんよ」
「…………」
 夢悠が押し黙る。
 コルニクスは夢悠を鼻で笑う。
 すると――
「誰が諦めるものか。オレにはやるべきことがあるんだ」
「やるべきこと?」
「……謝るんだ」
 夢悠が再び抜け出そうと暴れ出す。
「無事に帰って、ポミエラにちゃんと謝って、笑ってもらうんだ」
「では、そのお友達にも一緒につけましょう」
「!?」
「きっと高値が付きますよ、『あの時』のようにね」
「お前――!!」
 夢悠は爪を立てて靴を切り裂こうとするが、力がうまく入らない。
「だから、無駄ですって」
「無駄なんか、無駄なんかじゃ――」
「無駄じゃない!」
 夢悠の言葉を継いで叫んだのは、エヴァルトだった。
「諦めない心は……勇気は力になる。勇気を信じるんだ」
 エヴァルトの瞳には、諦めなど微塵も見当たらない。 
「……ふんっ。くだらない。残念ながらキミ達は信者になる資格もないようです」
 コルニクスが剣先を夢悠へ向ける。
「サヨウナラ、魔法使いの白猫くん……」
 剣が振りあげられ、夢悠がギュッと目をつぶる。
 死を覚悟したその瞬間――パキッ。
 塗りつぶしたような黒い壁に、巨大な亀裂が生じた。