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摩利支天の記憶

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摩利支天の記憶

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 4 

 

 一行は像を手に入れると、早速葦原へと向かった。アカシックとの約束の日は刻々と迫っている。
 街道を急ぎ一行は先を急いでいった。

 そして、明石の宿で一夜の宿をとる。

 旅籠の中で一同は摩利支天の像を囲んで円座を組んでいた。その中にはエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)の姿もある。『さて…久々の関わりと相成った日下部家、またも大事か。一肌脱いで馳せ参じるとしようか!』そう重い、エヴァルトは正名村行きに参加した。

「どうしたら、中にあるはずの巻物を取り出せるのでしょう?」

 竜胆が像を手に首を傾げた。昨日からずっと、像を開けようとしても開けられないからだ。

「像自体がからくり箱になっているようだな」

 柳生十兵衛(やぎゅう・じゅうべい)が言う。
「しかし、なんとか開けてできる事ならば中の秘術の書いた物を取り出してしまいたいのだが……」
 するとその時、

「そう、簡単に開けられるわけ無いでしょー?」

 どこからか声がした。

「そこに、何が入っているとおもってんの? 甲賀の秘術だよ、ヒ・ジュ・ツ」

「誰ですか?」

 竜胆が叫んだ。

 すると、

「俺だよ、俺。俺、俺」

 といって、一人の派手ないでたちの男が天井から下りてきた。逆立てた金色の髪に、オレンジの目をした典型的チャラ男だ。

「誰ですか? あなたは?」

 竜胆の言葉にチャラ男が答える。

「俺だよ、ほら、俺? 忘れたの?」

「あなたにあった事はありません!」

「冷たいなあ。それより、その像俺にくれないかな。それがないとさ、俺、兄貴にボコられちまうんだよ」

「アニキ? 誰の事ですか?」

「葦原を閉めてるドン・サバティーニってマフィア知らない? 明日までにそれをそいつに届けないと、俺、殺されちゃうんだよね」

「ウソをおっしゃい! この像は渡しません」

「といっても、もう、貰っちゃったんだよね」

「え?」

 驚いて竜胆が辺りを見回すと、確かに像はなくなっていた。かわりに牙狼の手の中に像はある。

「いつの間に……?」

 竜胆は青ざめた。

 チャラ男の背後には配下とおぼしき忍者がいた。少しの隙をついて、あの忍者に取られたらしい。恐ろしい素早さだ。

「じゃ、とりあえず、この像は貰っていくから」

 チャラ男は投げキッスをして出て行こうとした。

 そこに巨乳の女が現れチャラ男の前に立ちはだかる。

「まちな。牙狼」

「来たね、バンビーノちゃん」

「その像をこっちによこしな、それはあたしのもんだ」

「言うと思った、なんならまたここで勝負するか?」

「願っても無い事だ」

 そういうと、牙狼は狼の獣人に、バンビーノは羅刹へと姿を変えた。



「勘違いするな、牙狼とやら。お前の相手は俺だ!」

 エヴァルトが立ち上がって静かに言う。

「お前が?」

 牙狼がエヴァルトを見る。

「そうだ。人質解放が最優先だからな、おまえみたいなチャラチャラした奴には像は渡せん!」

「おもしれえ。来いよ」

 牙狼はからかうように言った。

 エヴァルトは言う。

「秘術か…少なくとも、お前のような腑抜けが修得できるようなもんではあるまい。易々と得られぬからこその秘術だろう」

「うるせえんだよ! 兄ちゃん」

 牙狼が刀を抜いて身構える。

「俺は男には容赦しないぜ」

 牙狼を守るように、雑魚忍者が攻撃して来た。しかし、エヴァルトは雑魚の忍者はまともに相手せず、首を折る勢いで頭を踏んで突き進んでいった。相手がチャラ男であっても油断はしない、早々に消えてもらおうと思っている。

 エヴァルトは挑発するように刀を構えた。
 すると、牙狼は同じく刀を構えて

「刀でこの俺に勝てるとおもってるの?」

 と、刀での勝負をする気満々で斬り掛かってきた。

 しかし、

 エヴァルトはそれを躱すと、歴戦の武術での格闘攻撃をした。

 牙狼の人となりを見て、戦う際は、騙し討ち主体でやろうと決めたのだ。

「うお?」

 思いがけない攻撃だ。牙狼はエヴァルトの拳をもろに喰らってもんどりうって倒れる。が、すぐに起き上がり、再び斬り掛かってきた。

「インチキじゃないのー? 格闘技なんて」

「喋っているヒマがあるのか?」

 エヴァルトは、牙狼の隙を狙い、ハイパーガントレットによる高速抜刀で逆袈裟に斬りつけた。素早くよける牙狼。しかし、エヴァルトは刃を返して袈裟斬りと同時に鞘でも殴る。

「おう!」

 牙狼は袈裟斬りは躱したものの鞘をマトモに喰らってしまう。

「何のために鞘を手で持ってるか、分からなかったか?」

「参ったよ。君には。マジで強えよ。弟子にしてくんない?」

 牙狼は両手を上げて降参の姿勢を取る。

「やかましい!」

 エヴァルトは牙狼の言葉に耳を貸さずに攻撃に入る。

「ヤバい」

 牙狼は、壁抜けをして隣室に逃げ込んだ。エヴァルトは壁を一刀両断した。壁ごと牙狼を斬るつもりだったのだ。さほど厚い壁ではあるまいし斬れると思った。エヴァルトの狙い通り、あっさりと壁は裂け牙狼の姿が露になる。

「てめえ、本気で俺を怒らしたな」

 牙狼はそう言うと、本格的にスピードを出して襲いかかってきた。刀を手に目にもとまらぬ猛攻を繰り出す。エヴァルトは、牙狼の攻撃を、龍鱗化と歴戦の防御術で凌ぐ。やがて、牙狼の動きに疲れが出てきた。そこを狙って、エヴァルトはワイヤークローを接続した鞘を投げて振り回し、ワイヤーを巻きつけて、そこを斬りつけようとした。

 しかし、牙狼は、間一髪でそれを避ける。

「参ったよ、あんた本当に強いよ。降参だ」

「何?」

「ほら、これは返すから」

 そう言うと、牙狼は像をエヴァルトに向かって投げつけ、その間に外へ逃げ出してしまった。



 エヴァルトと牙狼が戦っている間、バンビーノは東 朱鷺(あずま・とき)と戦っていた。

「キミの相手は、この朱鷺がつとめさせてもらいます」

「あんたが、あたしと戦おうってのか?」

「ハイ。ラセツな女性と会うのは珍しいですね。お手合せ願いましょう」

「おもしれえ。やってやろうじゃん」
 バンビーノはそういうと拳で壁を砕いた。

 同時に、侍がなだれ込んで来る。バンビーノの配下で全て女だ。

 朱鷺は真言の言霊を唱えた。

「呪符、鉄扇、折鶴」

 その言葉とともに黒い呪符と鉄扇と折鶴の形をした魔力の矛が侍達にを切裂いて行った。悲鳴をあげて侍達が次々に倒れて行く。

 同時に

「鬼蜘蛛、大百足、黒蠍」

 と唱え、鬼蜘蛛、大百足、黒蠍の形をした魔力の盾を生み出す。それらに邪魔され侍達は容易に朱鷺近づく事ができない。とはいえ、真言術の能力はまぁまぁですが、決め手にはかける。

「では、他の術も使っていきますよ」

 朱鷺は言うと、呪界と常闇の帳にて更に守りを固めて、八式での神獣に前衛での意識逸らしを指示した。大百足は、言霊に紛れさせておく。

 バンビーノは闇洞術『玄武』を展開した。暗黒の洞穴が出現し、朱鷺を飲み込もうとする。朱鷺は同じく『玄武』を展開してこれに対抗。力が相殺され暗黒の洞穴が消えて行く。

 次にバンビーノは滅焼術『朱雀』を展開。朱鷺に向かって魔力を込めた符を投げつけ、焼き尽くさんとする。しかし、これも朱鷺は同じ技で相殺した。

「この……」

 バンビーノは握砕術『白虎』を放ってきた。

 朱鷺はとっさに七式を放った。朱鷺の周囲の空間が歪み、朱鷺の攻撃力と防御力が上昇する。物理耐性が上がり、バンビーノの拳を跳ね返す。さらに朱鷺は式髪のかんざしを用いた。朱鷺の髪が伸び、バンビーノを絡み取り体のあちこちを刺していく。

「うわ。何だ、この髪の毛は。くすぐった……痛! よせ」

 バンビーノは髪に絡めとられてもがいだ。

「ふ……」

 朱鷺はいきなり力を抜く。髪の毛がどんどん縮み、元の長さに戻る。

「なかなかの腕前ですね」

 朱鷺は言った。

 ある程度中距離戦での手ごたえを感じたので、撤退しようと思ったのだ。

「良き好敵手になりそうです。今日は満足したのでこの辺で失礼しますが、また、実験に付き合ってください。朱鷺は芦原の八卦術師。以後、お見知りおきを」

 朱鷺は、そう名乗りを上げるとその場から去っていった。