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3章 孤独の世界

「ここは……」
「なんとも滑稽な世界ですね」
「なんだかみんな笑顔だけど、さびしい世界です……」
愛を捨てた世界を捜索するのは、堀河 一寿(ほりかわ・かずひさ)ヴォルフラム・エッシェンバッハ(う゛ぉるふらむ・えっしぇんばっは)、そして高峰 結和(たかみね・ゆうわ)の3名である。
3人はとある街に到着し、探索を始めたのだが
「自分が良ければそれで幸せ、って感じだねぇ」
「他人が視界に入っていないようですね」
一寿とヴォルフラムは苦笑いを浮かべてながらそう話していた。
「あっ、あれは……」
結和は公園で怪我をした少年を見つけた。
「ひどい……」
公園にいる子供達は皆、自分のやりたい遊びに必死になり誰一人として怪我をした子供を介護しようとする子はいなかった。
「愛が無い、っていうのはこういうことなのかな」
「私、ちょっと見てきます!」
そういうと結和は子供の傍に駆け寄った。
「やっぱり愛っていうのは美しいねぇ」
「私達は私達で探索を続けましょうか」
そういうわけで一寿とヴォルフラムは結和とは別行動を取り、再び探索を始めた。
「それにしてもみんな笑顔だね。仮面をかぶっているようだよ」
「他者を拒絶した、閉じこもった世界故の幸せでしょうね」
「この人たちに愛を、他者と向き合う強さと喜びを教えてあげれば……」
「きっとワールドマスターへの道になるでしょうね」
二人はしばらく歩きながら愛を認識させる方法を考えていた。
ふと一寿は歩みを止めた。
「どうかしましたか?」
「……考えるのやめよ。ちょっと乱暴だけど、この方法が一番だね」
そう言うと側にあったテラスで昼食をとっていた青年の正面に座り、自らも食事を始めた。
「やぁ、僕は堀河一寿。君の名前はなんていうんだい?」
正面の青年はあからさまに不機嫌な表情になり、席を立った。
「つれないなぁ。そこまで他人が嫌いなのかな」
「いきなり何をするかと思えば……驚きましたよ」
「こういう方法が一番かなって」
「何もしないよりはマシですね。私も手伝いますよ」
二人は通りすがりの人に片っ端から声を掛けた。
何気ない会話から自己紹介など、内容は様々である。
しかし、誰ひとりその声に耳を傾ける者はいなかった。
「なかなか難しいものだね。愛は」
「だからこそ美しいのですけどね」
「けれど、少しずつだけど変化が出てきたね」
他者として介入をされた住人にある行動は現れ始めたのである。
一つは彼らを警戒する者。
もう一つは……
「神に祈りをささげているね」
「自分が不幸にされたと、そんな自分を救って欲しいと、祈りをささげていますね」
一寿は微笑み空を見上げた。
「けどまぁ、これで……」
「自分以外、を意識し始めましたね」
「神への祈りも、愛に違いないからねぇ。じゃあ、続けようか。彼らの悲劇を創造主への祈りになるように」
二人は住人に愛を植え付けさせるために再び行動を開始した。


「大丈夫? お姉さんが見てあげるね」
子供が怪我をしているのを見て、別行動を取った高峰 結和(たかみね・ゆうわ)
「…………」
声を掛けてみたが、少年はなにも言わず逃げて行こうとした。
しかし、足を怪我しているようで上手く歩くことができなかった。
「足、怪我しているんでしょ? 無理しちゃだめだよ」
結和は少年の頭を撫でながら怪我の治療を始めた。
「ふぅ……治療完了ですっ。って、まだ動いちゃだめですよ!」
「けど、遊びたい……」
「なら、お姉ちゃんが絵本読んであげるね」
そういうと少年はおとなしくなり、素直に結和の声に耳を傾け始めた。
そんな様子を見て、周りの子供達は結和に集まってきた。
「お姉ちゃん、おもしろそう。私にも読んで!」
「俺が先だ! 早く読んでよ!」
しかし、子供達は自分が先だとみんな必死になって詰めてくる。
自分さえよければいい、それで幸せが当たり前なってしまった世界の末路である。
そんな光景を見て結和はそっと絵本を閉じ、語り始めた。
「絵本を読んで欲しい子は隣の子と手をつないで、お名前を教えてあげようね。そうしたらお姉ちゃん、絵本読んであげるっ」
他人と触れ合う事がもはや禁忌となっているこの世界では、そんな当たり前の触れ合いも経験したことない未知なのである。
子供達は一瞬躊躇ったが、先ほど足を治療してもらった少年があまりにも幸せそうな顔をしていたので、一人また一人と手をつなぎ、自己紹介を始めて行った。
「みんな……!」
こうして少しずつではあるが、笑顔の輪は広がって行った。
「一緒に遊んで、一緒に笑うと、楽しいでしょう?」
「「うんっ!」」
先程まで一人で遊んでいた子供達は皆で集まり遊び始めた。
「……世界の創造主さん、見ていますか? たとえ、この世界が幸せでも、私は愛の無い幸せは本物の幸せだとは思わないです。……たとえこれが、私だけのエゴでも、これだけは譲れないです」
きっとこの世界を創り出した創造主がいるであろう空を見上げ、結和は宣言した。
「私は、愛を捨てた貴方に見せてあげたかった……。そして、この愛を貴方に届けたかったのですっ」
気が付けば公園は他者を思いやる愛で満ち溢れていた。
他者に祈りを捧げる愛、他者と歩み共に幸せを享受しあう愛。
二つの愛を以て、ワールドマスターへの道となった。
セカンドミッション、ファーストフェイズ完了。