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施設構想

「というわけで、子どもたち専用の浴場も作れないかな?」
 温泉施設の構想の話し合い。その中でネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)はそう提案をする。
「いつも親や年上の兄姉がうるさくて、お風呂だって楽しく入れないんじゃないかな。だからわいわい楽しく温まれるそんなお風呂を作りたいと思うんだよ。子供だけだから、ヒミツ基地のような感じにもできるかもしれない。内装も子供らしく可愛く、かっこよく、楽しくしてさ」
「確かにそういう温泉があれば子供達は喜びそうですが、危なくないですか?」
「もちろんちゃんと担当の保育士さんはついてもらって。難しいようなら時間を決めて。……どうかな?」
 ネージュの提案をミナホは吟味する。
「そうですね。この村は比率としては子どもが多いですから。安全面に気をつければ作ってみるのも面白そうです」
 ミナホとしてもこの村に子どもたちの遊ぶための施設がないのは憂慮していた。豊富な自然という遊ぶ場があったため大きな問題にはならなかったが、選択肢が増える事に否とする要素はない。
「子どもたち専用って事は10歳未満くらいが対象でしょうか?」
「それに140センチ未満も追加で」
「え?」
「あ、いや……そんなに厳しく決める必要はないんじゃないかな。明らかに子どもじゃないだろうって子は遠慮してもらって。見た目が子どもだったら入れるように」
 さり気なくその対象に自分も入れるネージュ。
(ぶっちゃけて言えば、あたしたちちっちゃな外観の子たちが、子供を見ると見境なく襲ってくるどこぞの花妖精みたいな不審者から安全に身を守れる温泉浴場が欲しいだけなんだけどね……とは流石に言えない)
 自分のパートナーの一人を思い浮かべながらネージュは苦笑いをする。子どもたちの事を思っての発言であるのは間違いないのだが、それとこれとは別である。
「そ、それと温泉施設の名前なんだけどさ、ニルミナス温泉『湯るりなす』ってのはどうかな?」
 話を変えるようにネージュはそう提案する。
「いいですね。他に名前の提案がないならそれでいいと思います」
 ミナホのネーミングセンスだが、残念ではあるが悪いわけではない。良い名前を良いと思える感性は持っていた。……持っているからこそ頑張った結果が無難なものにしかならないあたり残念なのだが。


 結局、その後も話し合いは続いたが、名前の提案は他になかったため温泉施設の名前は「ニルミナス温泉『湯るりなす』」に決まることになった。


「それで湯るりなすの名物作りを頼まれたんだけどさ……桃花ぁ、なにか作れないかな?」
 湯るりなすの施設構想の話し合いの翌日。ミナホから頼み事を受けた芦原 郁乃(あはら・いくの)秋月 桃花(あきづき・とうか)にそう相談を持ちかける。
「温泉名物ですか……先日の食べ物の相談もありましたし、今回も食べ物で考えたほうがいいんでしょうか? そうすると、温泉まんじゅう、温泉卵、炭酸せんべい、蒸し野菜というところでしょうか」
 郁乃の相談に桃花はそう返す。桃花の言葉通り、ミナホが郁乃に名物作りを頼んだのも、先日の料理が好評だったからだ。……いささか頼む相手を間違えてはいるかもしれないが、こうして桃花に依頼が回ったので結果としては間違っていない。
「どう? 作れそうかな?」
「郁乃様、申し訳ないのですが……温泉の温度や使えそうな蒸気があるか調べてきてはいただけませんか? それが分からないと何もいえないのです」
 申し訳なさそうに言う桃花。
「まかされたっ!」
 桃花の言葉を受けて郁乃は超特急で温泉へと向かうのだった。

(桃花さん……ナチュラルに調理から主を引き離したなぁ……)
 飛んでいった主を見送りながら蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)は郁乃の手腕に素直に感心する。同時に仕方ないことだとも。
(別に温泉を利用しなくてもそういった料理は温泉地であれば温泉名物になるのに)
 もちろんちゃんと温泉を利用したものであることにこしたことはないが。
「言いたいことはわかりますが、温泉の状況を知りたかったのも本当なんですよ」
 マビノギオンの視線に言いたいことを感じ取ったのか桃花はそう言う。ただ、温泉の源泉がかなり熱いことは知っていることであるし、料理に利用できることは分かっていた。
「ミナホ様に温泉の源泉の温度を聞いて、試作を作りましょうか」
「主のいない間にですね」
 主が少し可哀想かなと思うマビノギオンだが、こればかりはどうしようもないことである。自分が安全に試食するためには仕方ない、と納得させる。
「この間のお料理同様、村のみんなに受け入れてもらえるような商品開発をしましょう」
 マビノギオンの言葉に桃花は頷いた。

「いい湯だなぁ……こんど桃花と来ようかなぁ……って、だめだめ! 今は温泉を調べに来ただけなんだから」
 温泉調査と早速温泉につかった郁乃は危ない妄想に向かいそうになった意識を首を振って呼び戻す。
「温泉入ったら、桃花にパフパフしてもらってぇ……あ、洗う振りして触ったほうが……だから、だめだってば。ちゃんと調べなくっちゃ」
 訂正。呼び戻せてない。
「ふへへ……でへへ……だめだぁ〜、わたし変態さんになっちゃったよぉ〜。ごめ〜ん桃花」

 結局郁乃の意識が現実に戻ったのはそれから三時間後。桃花の料理もすっかり冷めてしまった頃だった。