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リアクション
◆戦いの鐘は鳴る
ガラスのベルが鳴ると挑戦者達が座っている舞台が、横一列から縦一列へと移動し始める。それと同時に、空いたスペースから舞台がせり上がって来る。大きなテーブルが二つ載った先には、フィッツ・ビンゲン(ふぃっつ・びんげん)と騎沙良 詩穂(きさら・しほ)の二人が立っていた。
「さて、最初はアラカルトからです。ビンゲンさん。貴方は何を振舞うんですか?」
「テンプラとスイカは、スイカが胃液を薄めて消化不良を起こすと言う生理学的根拠があるらしいと言うのを、ネットで見かけたのでテンプラとスイカの入ったフルーツポンチを出そうかと……」
そこには大きなボウルが二つテーブルに載っており、空いているスペースには白い平たい皿とガラスのグラスが人数分準備されていた。
松崎にマイクを向けられて、自信満々に喋っているフィッツをよそに反対側で聞いていた詩穂は、フィッツの作った料理が入っているボウルを、そっと覗きこんだ。
「な……なにこれ。ジャーマンポテトと、スイカの入ってないフルーツポンチ?」
『テンプラとスイカ』はどうしたんだ。と言わんばかりにジト目の詩穂はフィッツを見る。
「し……しまった!! ばれてしまった。そうなんです。『テンプラとスイカ』の料理を出そうとしたら、ついうっかり僕の故郷の料理を作っていたんです!!」
フィッツは、自信満々な表情から一転涙を流しながらテーブルに手をついた。
「……それは……仕方ないですね。作ってしまった物はしょうが無いですから皆さんに食べてもらいましょう」
「ええっ! いいのか!?」
松崎の言葉に、アッシュが突っ込みを入れる。
「はい。大会のルールには違反していませんし、出す食べ物は和・洋・中どれでもOKと明記されていたじゃないですか」
「何をいまさら」と言いたげに松崎は言うのを聞くと、アッシュはぐぬぬ……と唇を噛みしめた。
「ソウイウコト……ギャァ!!!!」
まだハーティオンの席に帰って無かったべアードは、もう一度アッシュにつねられたのは言うまでも無い。
「もう一人の料理人、騎沙良さんは何を振舞うんですか?」
「はい。詩穂はスパゲティを食べさせたいと思います!! 構いませんよね?」
そう宣言した後、詩穂はすでにスパゲティを入れていた皿を八人のテーブルへと素早く置いて行く。
「待ってください。僕のお皿もお願いします」
泣いていたフィッツも、ジャーマンポテトとフルーツポンチをそれぞれ皿に山盛りに盛ると詩穂と一緒に各テーブルへ置いて行った。
「アラカルトの準備は整ったようです! それでは準備はいいですね。大食い開始!」
松崎のこの言葉により、本番は始まったのである。
「と……とりあえず、ジャーマンポテトから食べようかな」
アッシュがフォークで湯気が出ているポテトを刺している間に、隣の偽アッシュはジャーマンポテトを手で掴むと手の火傷も気にせずに口へと放りこみ始める。
「なんということでありますか、こ……これはまさか!!」
と、左端に居た吹雪がびっくりした声を上げる。
「どうかしたのでしょうか!? 葛城選手」
松崎の声と共に、大型モニターに吹雪の顔がアップで映った。
「こ……これは……何とも普通の家庭料理の味で肩すかしであります」
「ああ……うん。けどジャガイモはちょっと腐らしちゃった奴を使用したんだ」
えへへ。と照れくさそうにフィッツは吹雪の言葉に答えた。
「毒くらいなら、戦線復帰組がなんとかしてくれそうだな」
海は、ちらりとテントで出番を待ちわびている小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)を見るとジャーマンポテトの山に挑戦し始めた。
「そうだな!」
「ベーコン ウマイゾ!」
いつの間にかハーティオンの席に戻ったべアードもおいしそうに食べている。
アッシュは、微かに頷くとフォークに刺したポテトを食べ始めた。
二十分後――
九人の胃袋はジャーマンポテトとフルーツポンチのボウルを空にする事はできたが、スパゲティの山はなかなか崩せなかった。
なぜなら、スパゲティの山はオリーブオイルを入れておらずソースも掛かっていないためスパゲティがくっついてフォークで刺しても重たすぎて持ち上がらなかったからである。
「うーん……食べ順間違えたかな」
アッシュは持ち上がらずにほとんど残っているスパゲティを見て悩み始めた。
「おおっと! ここで料理人交代のようです!」
「「「「「「「「は?」」」」」」」」
突然の松崎の言葉に全員が顔を上げた。
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