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【冥府の糸】記憶都市の脱出劇

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【冥府の糸】記憶都市の脱出劇

リアクション


第二章

 魔法陣の外でグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)は仲間からの連絡を待っていた。
「端末での通信も不可能か」
 しかし、決めていた定期連絡がくることはなく、音信不通のままだった。
「エンド、これが集まった情報です」
 ロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)は集まった情報をまとめてグラキエスに渡した。
 それら一つ一つに目を通しながら、グラキエスの目がとある単語に留まる。
「『冥府の門』か……ベルクが調べていたスロトルオ族の資料にもそんな項目があったな」
 グラキエスが調べていたのは沈んだ都市についてだった。だが、記録などはほとんど残っておらず、そこで時期を絞って捜索範囲を荒野全体に広げた所で重なる単語が出てきたのだ。
「こういった類の単語はどこに地域でもあるものだが……」
 短い期間に立て続けに目にした単語。グラキエスの直感が無視してはいけないと告げていた。
 すると、物思いにふけるグラキエスの横に、アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)が膝をついてしゃがみこんだ。
「主よ。そろそろ向かわれた方がよろしいのではないでしょうか」
「ああ、そうだな」
 資料集めで時間がかかってしまった。仲間は既に魔法陣の中で事に当たっているはずだ。
「せっかく集めた資料も全て終わった後じゃ意味ないからな。ぼちぼち行くとするか」
 グラキエスたちは仲間の後を追って魔法陣の中へと飛び込んだ。

 乗用車がぎりぎりすれ違えるほどの通りで、魔法使いの元を目指す生徒たちとそれを妨害する者たちが対峙していた。
 通りを埋めつくほどの黒い影。それと離れた位置までしっかり聞こえてくる無数の羽音。
「すごい数だな。熱烈な歓迎は嫌いじゃないが、こいつは遠慮したいものだ」
 匿名 某(とくな・なにがし)は若干うんざりした様子で呟く。
 すると、隣に並んだ鳴神 裁(なるかみ・さい)が肩を叩いてきた。
「そう簡単にはいかないでしょう。諦めて一緒にごにゃ〜ぽだよ☆」
「ご、ごにゃ〜ぽ?」
「そうだよ。みんな準備はいい?」
「今は一緒の身体なんだからあまり無茶しないでよ〜」
「大丈夫なのです〜? ボクが二人のことを守るのです〜?」
「自分も……います……」
 裁の言葉に、ユニオンリングで一人になったアリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)、魔鎧として裁を守るドール・ゴールド(どーる・ごーるど)、バトルオーラ型のギフトとして力を与えている黒子アヴァターラ マーシャルアーツ(くろこあう゛ぁたーら・まーしゃるあーつ)が立て続けに返事した。
 その様子に『ごにゃ〜ぽ』の意味を聞きたかった某は完全にタイミングを逃し、仕方なく諦めることにした。
「それじゃあ、あまり時間がないんでね。最初から最後までクライマックスで行かせてもらうぜ」
 某が巨大な刀身を持つフェニックスアヴァターラ・ブレイドを構える。
「さぁ、ショータイム――」
「……」
「……なんでもないです」
 視線を感じ、とりあえずやめておくことにした。
 気持ちを改め、某は正面から影の集団に斬りかかった。宮殿用飛行翼での低空飛行で自在に動き回りながら、一斉の襲い掛かる敵の動きを予想しながら隙を見て剣を振り下ろす。
「地上の方は順調みたいだし、ボクたちも頑張らないとだよ!」
 合体した裁とアリスが跨ったペガサスポーンGがものすごい速度で空中を駆け抜ける。
 強化骨格型スポーンと融合したペガサスポーンGは全身を鎧で固めたような姿で、受ける風の抵抗も気にしていない様子だった。
「二人とも大丈夫なのです〜?」
「まだまだ余裕だね」
「全力じゃないしね♪」
 ドールの問いに裁とアリスが続けて返答する。
 駆け抜けると同時に、スリップストリームシールドで展開した機晶エネルギーシールドが鷹とそこから生み出された影に叩きつけられる。力尽きた影は消えていき、鷹はよろけながら地上へと降下していった。
「これならいけそうだね」
 裁は鼻を鳴らしながら口にする。すると、マーシャルアーツがぼそりと呟いた。
「大変です」
「どうかしたブラックさん?」
 裁が周囲を見渡す。すると、先ほどの倍以上の敵が集まってきていた。
「出し惜しみは良くないなぁ……」
 思わず苦笑いが浮かんできた。

「よろしければ貴方たちのご主人とお話させて頂けませんか?」
 眠りの竪琴と【子守歌】で襲ってきた鷹たちを落ち着かせたティー・ティー(てぃー・てぃー)は、白い魔法使いの元まで案内してくれないか相談していた、しかし、なかなか良い返事がもらえない。
「マッサージだけでは取引できないということでしょうか?」
 ワールドぱにっくで生まれたティーとイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)そっくりの獣耳つきミニチュアサイズキャラクターたちが、懸命に鷹をマッサージしていた。
「やっぱりご飯が必要ですかね……ね、イコナちゃん」
 ちらりとティーが視線を向けると、ミニチュアサイズのネコ耳イコナたちがビクッと肩を震わせる。
「そうですわね。鷹なら……自然界ではうさぎなんかを食べているはずですわ」
 ちらりとイコナが視線を向けると、ミニチュアサイズのウサ耳ティーたちがビクッと肩を震わせる。
 そんな彼女たちの静かで黒いやり取りから少し離れた所で、源 鉄心(みなもと・てっしん)は周囲に目を光らせていた。
「個々の戦闘力はそれ程ではないが、数が多いな」
 各所で攻撃をしかける生徒たちは健闘しているようだが、まだ誰も魔法使いにたどり着いた者がいなかった。
「なんらかの対策を、ん?」
 考えを巡らせていた鉄心は、ふいに足元に違和感を覚える。不審に思い見下ろすと、ミニチュアサイズのティーとイコナが大量に群がっていた。
「なっ、なんだ、どうした!?」
 ミニチュアティーとイコナは何事か喚きながら鉄心の足をよじ登り、我先にコートのポケットや服の隙間に身を隠そうとしていた。
 本物のティーとイコナが慌てた様子で走ってくる。
「冗談ですから戻ってきてくださーい」
「そうですわ。ほんの出来心ですわ」
 しかし、ミニチュアたちは鉄心の身体のあちこちで、小さな字の書かれた布やプラカードを手に抗議の声を上げていた。
「……とにかく落ち着け」
 肩に乗ったミニチュアが耳元で騒ぎ、鉄心は顔をしかめていた。
「楽しそうでござるな」
「そう見えるならお前の目は節穴だな」
「常時眠い拙者の目は常に半分ほどしか開いてないでござるよ」
 ワイヤー付きナイフになっているスープ・ストーン(すーぷ・すとーん)から微かに笑い声が漏れていた。
「それより鉄心殿。敵の気配でござる」
「そういうことは早く言え。ほら、キミたち降りなさい」
 影の集団が迫る中、鉄心は大急ぎでしがみつくミニチュアたちを引き離していた。