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 現在から10年後。

 森。

「リーダー、こっちは僕に任せるでふ」
 バウンティハンターである十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)の相棒としてリイム・クローバー(りいむ・くろーばー)はサポート役として勇敢に剣を振るい中型の獣の群れを一掃する。姿は愛らしいままだが、背が少し伸びていた。
「あぁ、任せる」
 神狩りの剣を担ぐ宵一は親玉へと突っ込み、剣を振るい、あっという間に巨大な獣を一刀両断して仕事を終わらせた。

 戦闘後。
「リーダー、後は報告だけでふよ」
「そうだな」
 リイムの言葉にうなずく宵一。時が経っても宵一達はバウンティハンターとして賞金首の魔物を退治する事で世界を護っていた。経年により宵一達の名前もそれなりに有名になっていた。
 とにかく宵一達は依頼主に報告するために町に向かった。

 町を抜け依頼主がいる城へ。
 宵一達は城に入り、依頼主がいる中庭に向かう道々。
「リーダー、思いついたでふが、こっちに引っ越しするのはどうでふか? そうすれば、今よりもっと会えるまふ」
 リイムがとんでもない名案を閃き、宵一に提案する。
「……リイム、気遣いはありがたいが」
 宵一は相棒の提案を嬉しく思う反面、踏み切るのにかなりの勇気がいる模様。
「きっと喜んでくれるまふ。口にはしないでふが、きっと寂しいはずでふよ」
 リイムは別れ際にどこか寂しそうにするある人の顔を思い出していた。
「……それは」
 宵一が何かを答えようとした時、いつの間にやら目的地に到着していた。

 花々が咲き乱れる中庭。

 そこにいたのは
「宵一様、リイム様、お疲れ様です。あの、お茶とお菓子はどうですか」
 ティーポットを持ったグィネヴィア・フェリシカ(ぐぃねう゛ぃあ・ふぇりしか)だった。
 ここはティル・ナ・ノーグにあるグィネヴィアの国の城なのだ。
「貰うでふ。リーダーも食べるでふよね?」
「……あぁ」
 リイムは真っ先に席に着き、宵一を促した。宵一はリイムが先ほど話していた事が気になる様子だった。
「……魔物が出る度にいつも頼ってしまい申し訳ありません」
 紅茶を淹れたカップを宵一達の前に置いた後、グィネヴィアは深々と頭を下げた。
「謝る事無いまふ。魔物退治は仕事でふ。それにリーダーはグィネヴィアさんの恋人まふ。会うのに謝る必要は無いでふよ」
 と、リイムが言った。10年という歳月は宵一とグィネヴィアの関係も変えていた。
「僕は少しお庭を散歩してくるでふ」
 リイムはグィネヴィアの返事を聞かずに庭の方に行った。宵一達を二人きりにするために。

 リイムが行った後。
「……グィネヴィア、仕事とはいえあまり会う事が出来ず、寂しい思いをさせて」
 宵一はおもむろに話を切り出した。仕事故に東西奔走し頻繁に会えない事を。
「いえ、気にしていませんわ。宵一様のお仕事はとても誇りあるものだと知っていますもの。昔から皆に迷惑を掛けてばかりのわたくしを助けてくれたりこの国を救ってくれましたわ。それに……」
 グィネヴィアは宵一を含む契約者達により故郷の危機が救われた事やその前に起きた事件の事など10年前の事を思い出していた。現在も困った事が起きると一番に頼るのは宵一だったりする。
「わたくしの事を想って下さり、遅くなってしまったわたくしの返事を受け取って頂きましたわ。そして、素敵な思い出をたくさん作って頂いて。わたくしは宵一様に貰ってばっかりですわ。あまり会えないのはわたくしの立場のせいでもあります」
 グィネヴィアは宵一に告白された時の事を思い出し、少し頬を赤らめるもすぐにしっかりした表情で宵一に申し訳なさそうに言った。
 グィネヴィアは故郷が救われた後も百合園女学院に通っていたが経年後故郷に戻り、王女として頑張っている。帰国の際、宵一の告白に対してしっかりと答えていた。
「……国のために頑張っている君の姿に俺も元気を貰ってるよ。俺はそんな君が好きだ」
 そう言って宵一は仕事に戻るために椅子から立ち上がった。あちこちでグィネヴィアが国のために頑張っている話を耳にする度に嬉しく思い、自分も頑張らなければと気を引き締めるのだ。
「……わたくしもですわ。あの、また来て下さいますよね」
 恥ずかしそうにこくりとうなずいた後、ほんの少しだけ寂しさが見え隠れする笑みで宵一に問うた。リイムの言った通りだ。
「あぁ、君の笑顔を見るために」
 宵一はきっぱりと言い切った。何があろうとも必ず会いに行くと悲しませるような事はしないと。

■■■

 覚醒後。
「俺にとっては贅沢過ぎる未来だな。宛先不明の手紙に誘われて来たが、悪くはなかった」
 宵一は素敵過ぎる未来にぼそり。今は自分やリイムに笑顔を向けてくれるだけで十分幸せだから。実は宛先不明の手紙に誘い出され、面白そうだと実験に参加したのだ。
「それは良かったでふ。リーダー、とてもお似合いだったまふ」
 リイムはこちらでも宵一の立派な相棒を務めていた。宛先不明の手紙を出したのは少しで宵一の励ましになればとリイムが出したのだ。




 現在から少し先。祈りの間。

「……」
 リア・レオニス(りあ・れおにす)は離れた場所からじっと祈りの間の扉を見つめている。扉の奥では恋人がこの世界のため祈りを捧げている。リアも一緒に恋人とパラミタの無事を祈る。

 突然扉が開き、
「……リア!」
 祈祷を終えたアイシャが姿を現し、リアを発見するなり駆け出して来た。
「アイシャ!」
 気付いたリアもアイシャとの距離がもどかしくて走り出す。
「ただいま、リア」
 そう言ってアイシャは嬉しそうにリアの胸に飛び込んだ。
「お帰り、アイシャ」
 アイシャを抱き締めつつリアはアイシャの頭を優しく撫でて労った。
「……リア、いつもありがとうございます。おかげで励まされています。リアも大変なはずですのに」
 アイシャがリアの腕の中、顔を上げてこれまでの感謝を言葉にした。
 昔も今もリアはアイシャのために頑張ってくれて祈りの間も寂しくならないようにと声無き声で励ましてくれている。本当は司法試験の勉強で大変なはずなのに。
「大変なんてこれまで一度も思った事無いよ。君の力になれる事が俺の励ましになるんだから」
 リアはアイシャに笑んだ。恋人となった今も昔と変わらずアイシャを想い愛し続けている。それがリアの原動力だから。
「……リア」
 アイシャは嬉しそうに笑みを返した。
「それより、外に出よう。君が支えて守った美しい世界を案内したいんだ」
「はい」
 リアはそう言うなりアイシャの手を引いて宮殿を出た。アイシャもしっかりとリアの手を握っている。外に出るとリアはすぐさまアイシャをエアカーに乗せてシャンバラを巡り始めた。

 その途中、
「……リア、あの花」
 アイシャが荒野に咲く小さな白い花を発見し指をさした。
 リアはエアカーを止め、
「あぁ、大荒野に最近植物が増えだしててさ。それも絶滅したはずの植物が次々と咲き始めて、みんな奇跡だって驚いていたよ」
 花について説明した。
「……奇跡」
 アイシャはエアカーから降り、下草の生えた地面を歩いて白い花に触れ、地面に手を添えた。その途端、白い花が一気に咲き始め一面花の海と化す。
「うわぁ、凄いですよ」
「……こんな事ってあるんだな」
 くるりと周囲を見回し喜ぶアイシャと奇跡の光景とその中にいるアイシャを眩しそうに見守るリア。
「……アイシャ、せっかくだからここで一休みをしようか」
 リアも途中で買った飲食物が入った紙袋を持ってエアカーを降りた。

「……こんなに素敵な光景の中、リアと一緒にいられて幸せです」
「あぁ、俺もアイシャの嬉しそうな笑顔を見られて幸せだよ」
 アイシャとリアはのんびりと焼き菓子を頬張り、ジュースを飲みながら二人の時間を楽しんでいた。
「……アイシャ、俺はこれからもずっと君の事を想っていたい」
 リアは真面目な顔で想いを言葉にした。
「……私もリアの命が尽きるその瞬間までずっと傍に」
 アイシャは微笑みリアに答えた。吸血鬼のため確実にリアよりも長生きをするがそれでもリアの傍にいると決めていた。
 そして、どちらともなく二人はキスを交わした。

■■■

 覚醒後。
「……あれを夢のままで終わらせてはならないな」
 体験内容の報告をアゾート達にした後、リアは決意を洩らしていた。
 体験前、リアは
「きっと近ければ近いほど可能性の高い未来になるよ。一つの未来とはいえ未来は過去から繋がっているものだから」
 とアーデルハイトに話した。それ故、今回体験した未来に繋がる過去をこれから体験するのかもしれないとリアは思っていた。