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【グリーク】首都ジュノン

「遅かったじゃないか」
 間借りした作戦ルームのデスクにハンバーガーを積み上げて、エドワード・ウォーターバーン(えどわーど・うぉーたーばーん)が総統面会を終えた陣営を待っていた。
「俺はジョージ・ブックマン。以後よろしく」
 などと、偽名で挨拶するエドワードにジヴァが食いかかる。
「ブックマン? NCS欧州課長のマネってこと?」
「そいうことだ。体型も似ているだろう。それに今回の標的はラビットフットじゃなか。工作員のコードネームとしてはパーフェクトな選択だと思うがね?」
「……ま、好きにするといいわブラック課長」
「それで要人の概要は分かったかね?」
 そう尋ねるブックマンにイーリャが返す。
「脱走者(ラビットフット)については今のところ端末に回されている情報が全てよ。……とは言っても脱走理由も持ちだした戦略兵器についても未だよくわかってないけど」
「わからなかったと言うよりも“はぐらかされた”ってところね。カーリーっての目つきと雰囲気ヤバかったし」
 セレンフィリティが肩をすくめる。おいおいとエドワードが眼鏡の奥で眉を顰めた。
「情報の命は早さだ。『敵より1秒遅れれば見方を見殺しにし、1秒先んずれば命を救う』」
「ブックマン的発言ね。でも今回の敵って誰なのかしら? ミネルヴァ軍は味方と言うよりも雇用主だけど」
 そこで言葉を区切りセレアナが続ける。
「もしかして、内通者がいるとか? 戦略兵器が何かはわからないけど、軍独自の開発物なら【ノース】にとってはいいお土産になりそうだし」
「じゃあ、研究者(ラビットフット)はその内通者に利用されたってこと? まあたしかに、ないとも言えないわね。彼女の研究がロボットの分野でも火器兵器じゃなくてインターフェイスなのよね」
 ジヴァの言葉に頷き、セレアナは「その辺を調べてみる」と答えた。
「どちらにしたってあたしたちは兎狩りをする必要があるのだけど」
 デスクにエアディスプレイを展開し、地図を表示する。セレンフィリティはその地図に指でマーキングをしていく。
「もしかりに、ラビットフットが【ノース】を目指しているとして彼女はどこから国境を超える気かしら?」
 地図の国境線は太い。北部海岸から南のビーチまでを分断する幅数キロに渡る緩衝地帯がそれだ。緩衝地帯の中には『国境の街』と難民キャンプの一帯も含まれる。
「比較的入りやすいのは国境の街でしょうけど、この近くにはロンバート大将のいる飛行場がある。小規模と入っても空から哨戒しているわけだし。脱走者としては通りたくないところかしら」
 エドワードも肯定する。
「そうだな。研究者とは言えラビットフットは軍関係者だ。軍事事情を知っているなら空の目が聴かない場所を選ぶだろう。そうなると海上も平地も選択肢にはない」
「となると森林ね。しかも距離的に【ノース】と【グリーク】の隣接地が短い場所」
 セレンフィリティが地図を指で叩きフラッグを立てる。
 旗の立つ場所は、国境の街北西の森。