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最強タッグと、『出来損ない』の陰謀 後編

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最強タッグと、『出来損ない』の陰謀 後編

リアクション

6/撃破

「つまり……自分の限界火力を越えればいいわけですねっ!!」

 一部始終を目撃した、フレンディスの声に、視線に一層の力がこもる。
 互角の勝負を繰り広げていた、自身のコピー。屠り去る時がやってきたのだと、確信をする。

「待っていてください、マスター! 今すぐ、救援に向かいますのでっ!!」

 隠術。真正面から斬りあっていたその相手の視界から、姿を眩ます。
 そして現れるのは、フレンディスただひとりではなく。
 無数の、その分身たち。
 能力「だけ」は上であっても、もはや遅い。相手にもう、対応するだけのヒマはない。

 分身の中に紛れての、エクス・スレイブ二連撃。
 それだけでは、足りないというのなら──……!

「もう一撃っ!!」

 そこに重ねる、左手の刀。逆手の十文字斬り。
 まさにそのかたちに、カローニアンは四方へ切り裂かれ、砕けゆく。やった、終わった。風化していく自身の偽物を見遣りながら、フレンディスは着地をする。
 そして、その右手にはもう一方の剣はなく。

「マスターも、ご無事でなによりです」

 残像の中投げ放たれたそれは、ベルクの両手に握られていた。
 最高威力を越えるための、一手として。
 凶化され、カローニアンが胸元へとまっすぐに、突き立てられていた。

「!」

 その頭上に、影が落ちる。落としながら、紅く、黒く照らしていく。
 それは。憎しみの、炎だった。



 四対四の戦い。あちらの切り札は、そしてその弱点は分かっている。
 ならばあとは、どうやってそれをさらけ出させるか。
 そのときをじっと、待っていた。

「きた! チャンスは今なのだよ!!」

 快哉を上げる、阿頼耶 那由他(あらや・なゆた)キスクール・ドット・エクゼ(きすくーる・どっとえくぜ)とに守られながら。
 比較的ダメージの少ない彼女たちに助けられながら、彼らは待っていた。
 斎賀 昌毅(さいが・まさき)と、マイア・コロチナ(まいあ・ころちな)はそのときがくるまでを、耐え続けた。
 自分たちのコピーが自分たちよりも先に、痺れを切らして奥の手を使うこと。こちらにとっては欠陥を知り尽くしているその技を、投入してくるタイミングを今か、今かと。

「残念ながらボクたちにその技は……通用しませんっ!!」

 グリムイメージからエネルギーを得ての、エンヴィファイアのコンビネーション。その弱点はまさに、その発動のきっかけたるグリムイメージそのものにある。

「そのエネルギーはこっちも利用できる、ってワケなんだよね」

 ホワイトアウトの冷気を散らしながら、キスクールが不敵に笑う。
 むこうの。偽物の昌毅が集めた感情のエネルギーは、こちらのマイアにも吸収できる。
 そして、こちらは昌毅が自由に動ける状態というわけだ。つまり。
「その炎は、相殺させてもらいますっ!!」
 数の上でこちらに利がある。それを、とことん生かさせてもらう。
 黒い炎に、黒い炎がぶつかりあう。その余波は、たしかにカローニアンたちにダメージを与えていく。

 そこに、それぞれの必殺技を重ねるのだ。

「残念だったな」

 これがヒトとモノの、応用力の差ってやつだ。
 風化していく四体の鉱物兵器を見遣りながら、昌毅は呟くように言う。

「……よし」

 これで、自分たちは晴れて自由の身だ。
 さあ。他の皆の援護に、まわらなくては。



 それはけっして、意図した結果というわけではなかった。
 クコにとっても、霜月にとっても。
 気が付けば、自らの相手をふたり、それぞれ背中合わせに追い詰めていた。そして同時、己の最強の一撃をそこへと叩き込んでいた。

「……ははっ」

 まさにぴたりと同じに、測ったようなタイミングで、だ。
 同時の撃破──こんなこともあるものなのだと、クコは笑っている。
 笑っていられるような状況でないことはお互い、理解はしているが。妙な可笑しさに、笑いあうことを禁じ得ないふたりがいる。

「あー、もう。なんかズルいなぁ」

 と、聞こえてくるなにやら不機嫌そうな声。
「真人。いい加減こっちもそろそろ、決着付けちゃうわよ」
「──ええ、そうですね」

 吹き荒れる突風に、霜月たちは目を細める。
 だが、しかと見た。
 猛然と突き進む、ひと筋の閃光を。それがカローニアンを貫き、五体を打ち砕いていく様を。
 弾き飛ばされた別のカローニアンが、ゼロ距離からの強烈な一撃に撃ち貫かれ、四散する光景を、目にする。

「さて。あとは、雅羅たちのぶんね」
「ええ」

 やがて、それらを屠り去ったふたりが──セルファと真人のペアが、そこに並び立っていた。

「真人は、このままみんなの援護に」
「……ひとりで、大丈夫ですか?」
「誰に言ってんのよ、誰に」

 攻略法のわかってる相手に遅れなんかとりますか、っての。口を尖らせるセルファに、苦笑する真人。ふたりは軽く、拳と拳を打ち合わせあった。



「無様ね」

 地面に転がったパートナーへと、敢えてリネンはそう言い放った。

「る、せえよ……っ」

 投げ出されたペガサスの背中に戻らんと、よろよろと立ち上がるフェイミィ。その上空では彼女たちの姿を模したカローニアンが、獲物に狙いを定めるがごとく空中を旋回している。
「いい加減、解き放ったらどう」
「え……?」
 解き、放つ?
「ほんとうは、持ってるんでしょう? 従属ではなく、滅茶苦茶に壊したい。そんな破壊願望──私に対して」
 それはリネンからフェイミィに向けられた発破の言葉。
 自分の姿をした相手ゆえの苦戦から、彼女を開放するための。
 だがそれ以上に──従属や忠義のくびきから解き放たれた時彼女がどうなるのか見てみたいという、純粋な興味の部分でもある。

「いいのよ、フェイミィ」

 リネンの指先が、フェイミィの首筋から顎にかけてを、そっと撫でる。
 ぞくりと、彼女の肌に鳥肌が立つのがわかる。
「壊しなさい……あそこにいる私を、心ゆくまで、ね」
 今だけは許してあげるから。言った瞬間、生唾を呑む音が聞こえてきた。

 そして響く、高笑い。リネンのものではない。フェイミィの、喉の底からの壊れた笑いだ。

「はは……っ。そうか──そうかぁ! そりゃあいい!!」
 腕を振り、彼女はペガサスに指示を出す。
「そうだな……ぞくぞくする! たっぷりと、壊してやるさ!!」
 これで、いい。リネンは心中に、笑みを浮かべた。
 彼女が負けることは、これでもうあり得ない。
 さあ。一体彼女は彼女自身やリネンを、コピー品とはいえ一体どのように壊すだろうか。

 楽しみで、しょうがない。



 打開策が、わかったとして。
 もう、セレンフィリティには何も残っていなかった。
 蓄積したダメージは、大きすぎる。

 辛うじて握っている拳銃も、もはや引き金を引くほどの力さえ、指先には入らない。
 着衣も果たしてどれほどその身に残っているかすら、自意識の中では定かではない。それほどに一方的に、やられすぎた。
 ただ、近付いてくるもうひとりの自分の向こうに。

 遠くに、同じく力尽きようとしているパートナーの姿を、見た。

 いよいよもって、ズタボロね、あたしたち。思いながら心の中、セレアナへと詫びる。
 また、一撃。浴びて、地面を転がる。
 どうやら、自分が先に逝くだろうこと。パートナーであり恋人の彼女を助けにゆけないことを、心からすまなく思う。
 愛しているあなただけでも助けたかった、と。
 喉元を押さえつけられ、壁に押しつけられながら、遠のく意識の中それだけを強く思った。

 ごめん。ごめんね、セレアナ・ミアキス。ほんとうに、大好きだった。

「──……」

 声すら、もう出ない。心はこの時点で既に、完全に諦めてしまっていた。
 霞む視界の中、殆ど自爆に近く最後の力を振り絞る、セレアナを見た。
 差し違えんとまでする、愛する者を。

「……っ……」

 彼女自身、気付かなかった。
 それが、最後の力となったこと。引き金を引く力、たりえたこと。
 絶体絶命の中での光となったということを、知らぬまま彼女は意識を失った。

 自分が紙一重のところで、勝利を収めたことさえも。
 どうやったのかも、知らずに。



 ──こっちはなんとか、大丈夫そうね。どうにか、だけど。

 その数を徐々に減らしていくカローニアンたちの様相に、リカインは状況の好転を感じ、微かな安堵を混じらせた息を吐いた。
 負傷者は多いが──それでも、徐々に押し返し始めている。
 あとは、そう。ここではない場所での勝利を祈るだけだ。
 頭に被ったギフト……シーサイド ムーンとともに、天を仰ぐ。
「がんばって、みんな」
 自身、カローニアンへと勝利を収めたリカインはそう、小さく呟いた。

 そして、皆の無事を願うのだった。